マガジン

ゲームの不具合で損害が出たら:個人開発者の責任範囲

遊びを届ける

執筆にClaudeを使用しています。

小さなゲーム模型を四つの試験コースで動かし、修正を確かめる机。
記事のテーマをもとに制作したAI生成イラスト。

ゲームを無料で公開していたとしても、「不具合のせいでデータが消えた」「ゲームを開いたらPCが重くなった」とユーザーから連絡が来ることがあります。個人開発者として初めてこうした状況に直面すると、自分がどこまで責任を負うのか見当がつかず、不安だけが膨らみがちです。 結論を先に述べると、個人が無償で公開するブラウザゲームの場合、法的な損害賠償責任が発生するケースは限られます。ただし「無償だから何も起きない」とも言い切れず、責任が問われやすい条件と、そうでない条件があります。この記事では、その境界線を整理したうえで、開発・公開前に取れる具体的な備えを説明します。 なお、この記事は一般的な考え方を整理したものであり、個別の状況に関する法的な判断は専門家(弁護士)や公式の情報源で確認してください。

この記事の目次
  1. 「損害」として問題になりやすいケースと、そうでないケース
  2. 免責事項は「書けば完全に守られる」ものではない
  3. 公開前にやっておくべき具体的な備え
  4. 問題が起きてしまったときの対応の流れ
  5. 無償公開でも「事業者」と見なされることがある
  6. 次の行動
  7. 参考資料

「損害」として問題になりやすいケースと、そうでないケース

まず、どういった不具合が法的な問題に発展しやすいかを把握することが重要です。

問題になりやすい条件には次のようなものがあります。

  • 課金や個人情報が絡む場合:有償コンテンツを販売していて、不具合により購入済みのアイテムが失われた、決済が二重に走ったなど、金銭や個人情報に直接かかわる損害。
  • 不具合を知っていたにもかかわらず公開を続けた場合:重大な問題を把握したうえで対処せず、損害が拡大したケースは「故意・重過失」と見なされやすく、免責が難しくなります。
  • 虚偽の説明をしていた場合:「このゲームは安全です」「データを外部に送信しません」と明示したのに実態が異なっていた場合は、不法行為や消費者保護の文脈で責任が生じる可能性があります。

一方、問題になりにくい条件もあります。

  • 完全無償・非商用で、免責条項を明示している場合:ゲームが無料で、個人情報の収集も課金もなく、「現状有姿で提供し、不具合による損害は責任を負わない」旨を記載していれば、法的な請求が認められるハードルは高くなります。
  • ユーザーがゲームの性質を理解したうえで利用している場合:「個人制作の試験的な作品」と明示してある場合、商業製品と同等の品質保証を期待することはユーザー側にも難しくなります。

免責事項は「書けば完全に守られる」ものではない

よく「免責事項を書いておけば大丈夫」と言われますが、これは半分だけ正確です。免責事項は有効に機能する場面も多い一方、限界もあります。

免責事項が機能しやすいのは、軽過失による損害の場合です。たとえばゲームのセーブデータが消えた、スコアが正しく計算されなかったといった、開発者が意図せず生じた不具合がこれに当たります。免責条項があれば、訴訟に発展しても開発者側の主張を支える根拠になります。

一方、故意や重大な過失が認められる場合、また消費者契約法が適用される場面では、免責条項が無効とされることがあります。日本の消費者契約法では、事業者が消費者に対してすべての損害賠償責任を免除する条項は、一定の要件を満たす場合に無効となる規定があります。個人が趣味で作るゲームに「事業者」の概念が当てはまるかどうかは状況によりますが、継続的に収益を得ている場合は注意が必要です。

公開前にやっておくべき具体的な備え

法的リスクを減らすために、公開前に確認しておける事項を整理します。

1. 免責事項を具体的に書く

「本ゲームに関連して生じたいかなる損害についても、開発者は責任を負いません」といった抽象的な文言だけでなく、「セーブデータの消失」「動作環境の違いによる不具合」など、想定されるリスクを具体的に記載するとより明確になります。ゲームページの目立つ場所に置くことが重要です。

2. 課金・個人情報の扱いを明確にする

ゲーム内に課金要素がある場合は、返金条件と不具合時の対応方針をあらかじめ定めておきます。個人情報を収集する場合は、プライバシーポリシーを用意し、何をどのように使うかを明示します。収集しない場合も「このゲームは個人情報を収集しません」と書いておくと、ユーザーの不安を減らせます。

3. 既知の不具合は公開前に修正するか、明示する

重大な不具合を知っていながら放置して公開することは、後の法的評価で不利になります。修正が間に合わない場合は「現在〇〇という不具合が確認されています」と告知し、ユーザーが判断できる状態にしておきます。

4. 問い合わせ窓口を設ける

連絡手段がないと、不満を持ったユーザーが別の手段(SNSでの公開批判、消費者センターへの申告など)に向かいやすくなります。シンプルなフォームやメールアドレスでも、対応できる窓口を作っておくと問題の早期収拾につながります。

問題が起きてしまったときの対応の流れ

不具合の報告を受けたとき、最初の対応が後の展開を大きく左右します。

まず、感情的にならずに事実を確認することが重要です。「具体的にどのような操作をしたか」「どのような環境(ブラウザ・OS)で発生したか」を丁寧に聞きます。この段階で謝罪の言葉を使う場合は「ご不便をおかけしました」程度にとどめ、責任の所在を確定させる発言(「こちらのミスです」など)は慎重に行います。発言が証拠として扱われる可能性があるためです。

次に、再現できるかを検証します。再現できれば修正し、バージョン更新として告知します。再現できない場合は、環境依存の可能性を丁寧に説明します。

損害賠償を請求されるケースに発展しそうな場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。法テラス(日本司法支援センター)では収入要件を満たせば無料相談が利用できます。個人開発者が一人で対処しようとすると、対応の言葉が裏目に出ることがあります。

無償公開でも「事業者」と見なされることがある

見落とされがちな論点として、継続的に広告収益を得ているケースがあります。ゲームページに広告を貼り、継続的に収益を得ている場合、税務上・法律上の解釈では「事業者」として扱われる可能性があります。この場合、消費者契約法の適用対象になり得るため、免責条項の効力にも影響します。

収益の規模や継続性によって判断が変わるため、広告収益が発生している場合は、確定申告の要否とあわせて、自分の立場が個人・事業者のどちらに近いかを税理士や弁護士に確認しておくと安心です。

次の行動

公開前に免責事項と問い合わせ窓口を設置し、既知の不具合は告知するか修正しておきましょう。課金・個人情報を扱うゲームを作る場合は、公開前に弁護士や公式の消費者庁ガイドラインで必要な対応を確認してください。アソバースにゲームを投稿する際も、ゲームページの説明欄に免責事項と動作環境を明記しておくと、ユーザーとのトラブルを未然に減らせます。

参考資料

  • 消費者庁「消費者契約法」解説ページ
  • 法務省「不法行為に関する民法の規定」
  • 日本司法支援センター(法テラス)公式サイト
  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」