同じ人に一週間後にもう一度遊んでもらう:覚えていること
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

一週間前に一度だけ遊んだゲームを、もう一度開く場面を考えてみます。タイトル画面を見た瞬間に「たしか左右キーで動かすんだった」と手が動く人もいれば、「何かをドラッグした気がする」と画面を触り回す人もいます。ルールの一部だけがきれいに抜け落ちて、初回には使えていた操作がまったく出てこない場合もあります。 作り手は、初回プレイを見て「遊べていた」と判断しがちです。けれども、その操作が一週間後にも残っているかは、初回の様子からは分かりません。この記事は「時間を置くと、どの操作が残り、どれが消えるのか」を、同じ人にもう一度遊んでもらって確かめる実験の設計書です。結果は載せていません。準備、手順、記録の取り方、読み方、誤りやすい点を順に示すので、自分のゲームで試せば答えが出ます。 見るのは、シリーズの題にある「最初の30秒」です。初回の30秒で触れた操作と、再プレイの30秒で最初に手が伸びる操作を並べて比べます。
問いを分ける:言えることと、できること
「覚えているか」という問いは、そのままでは測れません。次の3つに分けて考えます。
- 言葉で言える:「矢印キーで動かす」のように、説明として口に出せること。
- 手でできる:説明できなくても、画面を前にすると正しい入力が出ること。
- ルールを知っている:「ぶつかると3回で終わる」のような、操作ではなく仕組みの知識です。
この3つは一致するとは限りません。言えるのにできない人がいる一方で、言えないのに手は迷わない人もいます。言葉だけを聞く調査だと、手が覚えている操作を見落とします。反対に、再プレイだけを見ると、思い出せているのか、画面の手がかりで推測し直したのかが区別できません。
そこで、同じ人に「自由に思い出す」「手がかりを見て思い出す」「実際に遊ぶ」の3段階を、この順番で行ってもらいます。順番は動かしません。先に遊ばせると、プレイ体験が記憶を上書きして、一週間分の記憶を測れなくなります。
この実験が答えられる問いは次のとおりです。
- 初回30秒で使った操作のうち、再プレイでも迷わず出たものはどれか。
- 言えるのにできない操作、言えないのにできる操作はどれか。
- 複数の人が同じ操作で迷うなら、それは人の問題ではなく設計の問題ではないか。
準備するもの
人と条件
対象は、同じ人に二度遊んでもらえる3〜5人程度から始めます。統計を取る人数ではなく、傾向をつかむための人数です。ゲームの制作者本人、制作を手伝った人、事前に操作を知っている人は外します。
初回の前に画面録画の同意を取ります。このとき「後日もう一度お願いするかもしれません」とは伝えます。伝えないのは、誠実さの面で避けるべきです。ただし、何を見るのかは伝えず、「覚えておいてください」とも言いません。
ゲームを固定する
初回と再プレイの間は、ゲームを更新しません。操作の配置が変わると、忘れたのか変わったのかが区別できなくなるからです。
保存の扱いも事前に決めます。公式作品13本のうち、保存があるのは「余白の庭」「WAVE / WAVE」「かたちのあいだ」の3作品で、ほかの10作品の記録や録音は画面を開いている間だけ残ります。保存がない作品は、再プレイが常に初回と同じ状態から始まるため、記憶の観察に向いています。保存がある作品を使うなら、前回の続きから始まるかどうかを作品を開いて確かめ、続きから始まらない条件で遊んでもらいます。
自作ゲームを使う場合も同じ考え方です。アップロードした作品内のlocalStorageとsessionStorageは一時メモリー向けの互換処理で、一週間後の持ち越しを前提にできません。クラウドセーブを使っている作品は状態が残ります。その場合は、再プレイを新しい状態から始められるようにするか、状態が残った条件として記録に書き添えます。
操作の棚卸し
実験の核になる準備です。ゲームの中にある操作とルールを、行として書き出します。操作だけでなく、仕組みの知識も入れます。
「紙ひこうき郵便」を例にします。確認済みの範囲では、操縦手段は左右キー、ドラッグ、矢印ボタンの3つです。ルールとしては、手紙を集めること、風船にぶつかると紙が傷み3回で終了すること、最後の6秒で赤い郵便受けへ向かうことがあります。この作品で棚卸しをするなら、次のようになります。
- 入力:左右キー、ドラッグ、矢印ボタン
- ルール:手紙を集める、風船を避ける、最後の6秒で郵便受けへ向かう
「時計じかけの台所」なら、材料をレシピ順に入れる、火にかける、針が緑の範囲に来たら止める、配膳する、という流れの各段階が行になります。見習いと本番の違いも、ルール側の行として加えられます。
自作ゲームでは、自分で棚卸しを書きます。このとき、初回の30秒で触れられる操作と、30秒では出てこない操作を分けて印を付けておきます。再プレイの30秒で比べられるのは前者だけです。
手順:初回と一週間後
初回セッション
- 画面録画を始め、説明なしでゲームを開いてもらいます。操作一覧、ヒント、口頭の補足は与えません。
- 最初の30秒の間に、どの操作を、何秒目に使ったかを記録します。
- 30秒を過ぎたら、そのまま自由に遊んでもらって構いません。その後の動きは補助的なメモにとどめます。
- 終了後は、操作の答え合わせをしません。「遊んでみてどうでしたか」程度の感想だけを聞き、感想も記録します。
- 初回と再プレイの間に、ゲームについての連絡やリマインドはしません。
一週間後のセッション
間隔は「一週間」を目安として決めたものです。忘れることが時間とともに進む傾向は一般に知られていますが、どの程度かは人や状況で違います。間隔を変えて比べたい場合は、全員の間隔を揃えて別の回として実施します。
質問は次の順番で、文言を固定して行います。
- 自由想起:ゲーム画面を見せる前に、「一週間前に遊んだゲームについて、名前と内容、どう操作したかを、覚えている範囲で話してください。思い出せなければそれで構いません」と聞きます。答えは一字一句に近い形でメモするか、録音します。
- 手がかり想起:タイトル画面だけを見せます。まだ操作はさせません。「どんな入力で遊ぶゲームだったと思いますか。思い当たる順に言ってください」と聞きます。
- 再プレイ:画面録画を始め、説明なしで最初の30秒を遊んでもらいます。この30秒は助言しません。迷って「どうすればいいですか」と聞かれても、答えずに「その質問も記録します」と伝えます。
- 振り返り:30秒後に「いま思い出したこと、間違えて覚えていたことはありますか」と聞きます。
再プレイの後に自由想起を聞く順番にしてはいけません。プレイを経ると記憶が書き換わるためです。
記録の取り方と結果の読み方
記録シート
記録の単位は「人 × 操作」です。1人につき、棚卸しの行ごとに次の列を埋めます。
- 左右キー、初回30秒で使ったか:ありまたはなし、自由想起で言及:ありまたはなし、手がかり想起で言及:ありまたはなし、再プレイで最初に使うまでの秒数:秒(使わなければ空欄)、探した・迷った:ありまたはなし、誤操作の回数:回
- ドラッグ、初回30秒で使ったか:、自由想起で言及:、手がかり想起で言及:、再プレイで最初に使うまでの秒数:、探した・迷った:、誤操作の回数:
- 矢印ボタン、初回30秒で使ったか:、自由想起で言及:、手がかり想起で言及:、再プレイで最初に使うまでの秒数:、探した・迷った:、誤操作の回数:
- 風船を避ける(ルール)、初回30秒で使ったか:、自由想起で言及:、手がかり想起で言及:、再プレイで最初に使うまでの秒数:、探した・迷った:、誤操作の回数:
録画を見ながら記録する場合は、1人につき2回(初回と再プレイ)、別々の日に確認すると取り違えが減ります。秒数は小数点以下を気にせず、1秒単位で十分です。
自作ゲームのローカル版には、入力の時刻を残す小さなコードを仕込めます。必須ではなく、録画から秒数を読み取る代わりの補助です。
<script>
(() => {
const t0 = performance.now();
const log = [];
const rec = (kind, label) => {
log.push({ kind, label, sec: +((performance.now() - t0) / 1000).toFixed(1) });
};
addEventListener('keydown', e => { if (!e.repeat) rec('key', e.key); });
addEventListener('pointerdown', () => rec('pointer', 'press'));
window.getInputLog = () => JSON.stringify(log);
})();
</script>読み込み時点を0秒とするため、開始ボタンがあるゲームでは、押した時点を基準に直してください。ローカルでindex.htmlを開き、ブラウザの開発者ツールのコンソールでgetInputLog()を実行すると記録を取り出せます。
4つに仕分ける
初回30秒で使った操作ごとに、「言えたか」と「できたか」で分けます。「言えた」は自由想起か手がかり想起のどちらかで言及があったこと、「できた」は再プレイの30秒内に迷わず使えたことです。
- **言えた**、再プレイで迷わず使えた:定着:言葉でも手でも残っている、再プレイで探した・使えなかった:言葉だけ:知識はあるが手が追いつかない
- **言えなかった**、再プレイで迷わず使えた:手が覚えている:言葉にできないが身についている、再プレイで探した・使えなかった:忘却:どちらにも残っていない
仕分けの後で、操作ごとに「何人がどこに入ったか」を並べます。
判断の基準
判断基準は、記録を見る前に書き留めておきます。たとえば「5人中の過半が『忘却』に入った操作は、設計側の見直し候補にする」のように、自分で数を決めます。結果を見てから基準を決めると、都合のよい解釈をしやすくなります。人数が少ないので、この基準はあくまで見直しの優先順を付けるためのものです。
読み方の目安は次のとおりです。
- 多くの人が「忘却」に入った操作:初回に使えても印象に残らない操作です。画面上の手がかり、初回の導入、操作の見た目を見直す候補になります。
- 「言葉だけ」に入った操作:知識はあるのに手が追いつかない状態です。入力の反応、位置、複数の入力手段の優先順位を疑います。
- 「手が覚えている」に入った操作:説明が不要なほど身についた操作です。ほかの操作の設計の手本になります。
- 1人だけが入った場合:その人固有の事情かもしれません。同じ傾向が別の人にも出るかを見て、1人分の結果で判断しすぎないようにします。
- 入力手段が複数ある場合:初回に使った手段と、再プレイで最初に出た手段が違うかを見ます。たとえば左右キーで遊んだ人が、一週間後にドラッグから試すなら、操作の記憶より環境や機器の影響を疑う余地があります。
操作とルールは別に読みます。操作は残っているのにルールが抜けていれば、画面でルールを思い出させる工夫が候補になります。逆にルールだけ残って操作を忘れているなら、操作の見た目や配置に原因がある可能性があります。
起こりやすい誤り
- 間の復習:遊び直したり、攻略情報を見たりした人は、一週間の記憶として扱えません。再プレイ前に「この一週間でこのゲームについて見たり調べたりしましたか」と一言確認し、した人は結果を分けて記録します。
- 質問による誘導:「ドラッグを使いましたよね」のような聞き方は、記憶ではなく質問の言葉を再生させます。操作名は質問に含めず、答えを本人の言葉で出してもらいます。
- 順番の入れ替え:自由想起の前に画面を見せたり、再プレイの後に想起を聞いたりしてはいけません。
- ゲームの更新:操作や画面の配置が変わると比較できません。直したくなっても、観察が終わるまで待ちます。
- 機器や環境の違い:初回はキーボード、再プレイはスマホのように環境が変わると、入力手段の違いが結果に混ざります。同じ機器、同じブラウザで行います。
- 初回の30秒の誤認:初回に使わなかった操作は、再プレイで比べられません。「使わなかったから忘れた」とは読まず、そもそも比較の対象外として扱います。
- 好意的な参加者への偏り:知人ばかりだと、気を遣って「覚えている」と答える傾向が出るかもしれません。分からないときは分からないと言ってよいことを、冒頭で伝えます。
次の行動
まず自作ゲーム、または公式作品のうち保存のない1本を選び、棚卸しの行を書き出してください。次に、初回のセッションを3人分予約し、同じ日付から一週間後の予定も入れておきます。記録シートと判断基準は、初回の前に書き終えておくと、後の解釈がぶれにくくなります。

