マガジン

観察のあとに聞く3つの質問:感想ではなく記憶を聞く

遊びをつくる

執筆にClaudeを使用しています。

ゲームを遊んだ具体的な場面を三枚の絵札にし、作者へ届く封筒へ添える情景。
記事のテーマをもとに制作したAI生成イラスト。

知り合いにゲームを30秒だけ遊んでもらい、その手元と画面を黙って見ていたとします。終わった直後に「どうでしたか?」と聞くと、たいてい返ってくるのは「面白かったです」「ちょっと難しかったです」といった短い感想です。優しい返事ですが、画面の中で何が伝わり、何が伝わらなかったのかは、ここからほとんど分かりません。 この記事で確かめるのは、感想の代わりに「何が起きたと思うか」を聞くと、何が見えてくるかです。観察者が見ていた出来事と、遊んだ人の記憶に残った出来事を並べると、「遊べているのに、ルールの理解が作者の意図と違う」というずれが見つかることがあります。ずれは、操作ログや表情を見ているだけでは気づきにくいものです。 以下は、そのための実験の設計書です。問い、準備、手順、記録の取り方、結果の読み方、誤りやすい点を順に示します。結果は書いていません。読者が自分のゲームと自分の観察相手で行えば、自分のゲームについての答えが出る形にしてあります。

この記事の目次
  1. 「どうでしたか」で消えてしまうもの
  2. 準備するもの
  3. 30秒の観察と、3つの質問の手順
  4. 記録の取り方と、結果の読み方
  5. 誤りやすい点
  6. 次の行動

「どうでしたか」で消えてしまうもの

感想は、遊んだ人の気分を映します。一方で、記憶は「その人の頭の中でゲームがどんな形をしているか」を映します。ゲームの作者が知りたいのは、多くの場合こちらです。

次のような場面を考えてみます。光を反射させて目標へ届けるパズルを、作者が作ったとします。作者の意図は「同じ色の光を届ける」ことです。遊んだ人は30秒、鏡を回し続けました。感想を聞くと「きれいでした」と返ってきます。ところが「何が起きたと思いますか」と聞くと、「鏡を並べて光を消していくゲームだと思いました」と返ってくるかもしれません。この場面は仮定です。もしこうした答えが出たなら、遊べていることと目的が伝わっていることは別だと分かります。

記憶を聞く質問には、次の3つの利点があります。

  • 正解のある問いなので、観察ログと突き合わせて照合できます。
  • 「面白かったか」と違い、答えに気を遣う余地が小さくなります。
  • 答えの抜けや言い間違いが、そのまま設計の手がかりになります。

準備するもの

道具は多くありません。次のものを用意します。

  • 30秒で何かが起きる状態にした、自分のゲーム(ブラウザで開けば遊べる状態にしておきます)
  • 観察に協力してくれる人。まず3人、できれば5人です。ゲームを一度も見たことがない人を選びます
  • 時間を測るタイマー
  • 観察ログ用の紙か表計算ファイル
  • 質問カード(後述の3つの質問を、そのまま読み上げられる形で書いておきます)
  • 録音か画面録画(使う場合は、事前に協力者の同意を得ます)

ひとつ決めておくことがあります。遊び終わった瞬間にゲームの画面を閉じるか、見えない状態にします。画面が目の前に残っていると、人は記憶ではなく画面を見て答えてしまいます。記憶を聞くことが目的なので、質問のあいだは画面を見せません。

また、ゲームの説明は一切しません。「30秒、自由に遊んでください」とだけ伝えます。遊び方やタイトルの意味を補うと、本来見たかった「初見の理解」が壊れます。

30秒の観察と、3つの質問の手順

進め方は、1人あたり次の流れです。

  1. 協力者にゲームを開いてもらい、「30秒、自由に遊んでください」と伝えます。
  2. タイマーを始め、観察者は黙って観察ログをつけます。声をかけず、助けもしません。
  3. 30秒で止め、ゲームの画面を閉じます。
  4. 間を空けず、質問を3つ、順番どおりに読み上げます。
  5. 答えを、言葉どおりに書き取ります(録音している場合は後で書き起こします)。
  6. 3つの質問が終わったら、そこで初めて感想や自由な意見を聞いても構いません。

3つの質問は次のとおりです。

質問1:何が起きたと思いますか

「いま見ていた画面で、何が起きたかを、起きた順に話してください。」

この記事の中心になる質問です。ここで聞いているのは評価ではなく、出来事の再生です。続きを促すときは「ほかには?」だけを使い、それ以上は引き出しません。

質問2:何をすれば「うまくいった」ことになると思いますか

「このゲームは、何をしたらうまくいったことになると思いますか。」

目的の理解を聞く質問です。作者が頭の中に置いている勝ち筋と、遊んだ人が思っている勝ち筋を、そのまま並べて見られます。答えが「分かりません」でも、それは大切な記録です。

質問3:次にやろうとしていたことは何でしたか

「止める直前、次にやろうとしていたことは何ですか。予想と違ったことがあれば教えてください。」

質問2が目的なら、こちらは目の前の一手の見通しです。予想と違ったことを聞くと、ルールの誤解や、見た目と挙動の食い違いが言葉として出てくることがあります。

3つの質問は、必ずこの順に聞きます。質問1の前に質問2を聞くと、目的を考えさせてしまい、出来事の記憶が目的に引っ張られるためです。

記録の取り方と、結果の読み方

記録は、1人1枚の表にまとめます。観察ログは30秒のあいだにつけ、回答は質問のあとで記入します。

  • 例:0〜5、観察ログ(操作と画面の出来事):画面を見回す、まだ操作なし、回答のうち該当する部分:質問1で言及あり/なし、分類:一致・抜け・ずれ

観察ログには、見たことだけを書きます。「迷っていた」ではなく「5秒間、操作せず画面の左側を見ていた」のように、行動と画面の事実を残します。観察者の解釈を混ぜると、後の照合ができなくなります。

回答を観察ログと照らし合わせたら、各項目を3つに分類します。

  • 一致:起きたことと回答が合っています。
  • 抜け:起きたのに、回答に出てきません。気づかれなかった、または覚えるほど重要に見えなかった出来事です。
  • ずれ:起きていないことを答えている、または起きたことを作者の意図と違う意味で説明しています。

特に注目したいのは「ずれ」です。抜けは、出来事の見せ方や強調の弱さを疑います。ずれは、ルールや目的の見せ方が別の解釈を許していることを疑います。

判断の目安は次のとおりです。

  • 同じ抜けやずれが、3人中2人以上、あるいは5人中3人以上に出たなら、設計側に理由がある可能性を考えます。まず直す候補にします。
  • 1人だけに出たずれは、個人差かもしれません。保留にして、次の協力者で再確認します。
  • 質問2の答えが人によってばらばらなら、目的が画面から読み取れていない可能性があります。

これは統計的な検定ではありません。少人数の観察で次の改善の仮説を立てるための目安です。「この変更をしたら、同じ質問でずれが減るか」を次の回で確かめる、という使い方をします。

回答と作者の意図を並べて確かめたいときは、公式作品を自分で遊んで、同じ質問に自分で答えてみるのも一つの方法です。たとえば「プリズムの道」は、鏡と色ガラスで灯台へ同じ色の光を届けるパズルです。最初の30秒で目的がどう読み取れるかは、作品を開いて確かめてください。自分が画面から受け取った目的と、作品の紹介にある目的が重なるかを見ると、質問2の答え方の練習になります。

誤りやすい点

この方法は単純ですが、やり方を少し間違えるだけで結果が濁ります。起こりやすい誤りを挙げます。

  • 誘導する質問をする:「ここが分かりにくかったですか」と聞くと、相手はそう答えようとします。質問は台本どおりに読み上げます。
  • 途中で説明や訂正をする:回答が作者の意図と違っていても、その場で直しません。訂正は記録がすべて終わってからにします。
  • 時間を空けすぎる:止めてから質問まで時間が空くと、記憶が薄れ、後から作った説明が混ざります。画面を閉じたらすぐ聞きます。
  • 観察ログに解釈を書く:「分かっていなさそうだった」と書くと、照合が観察者の思い込みに寄ります。行動と画面の事実だけを残します。
  • 質問を言い換えて助ける:答えに詰まった相手に「たとえば目的とか…」と言い足すと、答えを教えることになります。詰まったこと自体を記録します。
  • 一人の結果で結論を出す:1人の答えは、ひとつの例にすぎません。人数を重ねてから判断します。
  • 感想と記憶を混ぜる:「面白かった」が先に出ても、止めずに受け止めつつ、質問1に戻して出来事を聞きます。

次の行動

自分のゲームで、まず3人に30秒だけ遊んでもらい、画面を閉じてすぐ、質問1「何が起きたと思いますか」だけを聞いてみてください。答えを観察ログと並べ、「一致・抜け・ずれ」に分けるところまでが最初の一回です。ずれが2人以上に出たら、その部分の見せ方を1か所だけ変えて、別の人でもう一度同じ手順を行います。