マガジン

観察する側の記録のくせ:自分の想定に引きずられない方法

遊びをつくる

執筆にClaudeを使用しています。

少しずつ変化するゲーム模型を並べた棚から、以前の状態の箱を取り出す手。
記事のテーマをもとに制作したAI生成の写真風イメージ。

自作ゲームを他の人に遊んでもらい、最初の30秒を横で見ている場面を考えてみます。観察メモに「タイトル画面で少し迷っていた」「ルールを理解した様子だった」と書いたとします。あとで読み返すと、画面に何が映り、プレイヤーが何をしたのかは思い出せません。残っているのは、書いた本人の受け取り方だけです。 観察で最初に起きやすいずれは、見た内容そのものではなく、見たものに付ける解釈が先に紙へ出てしまうことです。しかも作者は「ここは分かりやすいはず」という想定を持っています。その想定に合う場面は記録されやすく、合わない場面は「たまたま」として流されがちです。 この記事は、記録を「事実」と「解釈」に分けて書く練習を、実験として設計します。確かめるのは、自分の観察メモのうち事実が占める割合と、解釈が事前の想定に寄っている度合いです。結果は書きません。手順どおりに行えば、自分の記録のくせが数字と文面で見えるようになります。

この記事の目次
  1. 問いを立てる:メモの何割が事実で、解釈はどちらへ偏るか
  2. 準備するもの
  3. 手順
  4. 結果の読み方
  5. 起こりやすい誤り
  6. 次の行動

問いを立てる:メモの何割が事実で、解釈はどちらへ偏るか

この実験の問いは二つです。

  1. 自分が書いた観察メモの行のうち、事実の行は何割か。
  2. 解釈の行は、観察前に書いた想定メモと同じ方向に偏っているか。

どちらも「自分のくせ」を測る問いです。ゲームの出来を評価する問いではありません。そのため、遊んでくれた人の数が少なくても成り立ちます。

ここで使う「事実」と「解釈」の定義を決めておきます。

  • 事実:録画を再生すれば、誰が見ても同じように確認できること。画面に出た表示、押した場所、触れていない時間の長さなどです。
  • 解釈:その事実の理由や気持ちについての推測。「迷った」「気づいた」「面白がった」など、頭の中のことを言う言葉はすべて解釈です。

判定には一つの問いを使います。「その行を、画面録画だけを見た別の人が、同じ内容で書き起こせるか」。書き起こせなければ解釈です。

準備するもの

  • 観察する作品:最初は他人が作った作品で練習し、慣れてから自作に移ります。自作は想定が強く、くせが出やすいためです。練習には、アソバースの公式作品が使えます。ログイン不要で遊べるので、URLを渡すだけで済みます。たとえば「かたちのあいだ」や「こだまの森」です。最初の画面に何が出るかは、作品を開いて確かめます。
  • 遊んでくれる人:できれば作品を初めて開く人。同じ人に同じ作品を2回遊んでもらうと、初見の条件が崩れます。
  • 画面録画:観察と同時に録画します。映すのは画面だけにして、顔や周囲の音声は残さない設定にします。録画する前に、必ず本人の了承を得ます。
  • タイマー:30秒を測るもの。録画に時刻が入るなら、それで足ります。
  • 記録用紙:下の書式で、列を分けて用意します。
  • 想定メモ:観察前に書く紙。観察後に書くと意味がなくなります。

作品を起動すると、プレイ回数に数えられます。プレイ回数は作品起動の実測回数で、人数ではありません。観察のための起動も数に入るので、後でその数字を遊び手の人数として読まないようにします。

記録の書式

用紙は4列にします。

  • 0〜5、見えたこと(事実):、思ったこと(解釈):、想定メモとの関係:
  • 5〜10、見えたこと(事実):、思ったこと(解釈):、想定メモとの関係:
  • 10〜15、見えたこと(事実):、思ったこと(解釈):、想定メモとの関係:
  • 15〜20、見えたこと(事実):、思ったこと(解釈):、想定メモとの関係:
  • 20〜25、見えたこと(事実):、思ったこと(解釈):、想定メモとの関係:
  • 25〜30、見えたこと(事実):、思ったこと(解釈):、想定メモとの関係:

30秒を5秒ごとの6区間に分けるのは、行を書く単位をそろえるためです。区間の中で複数の出来事があれば、行を増やします。「想定メモとの関係」は、観察中は空欄にしておきます。観察後に埋める列です。

手順

1. 想定メモを書く(観察前)

遊び手を呼ぶ前に、次の3項目を紙に書いて保管します。

  • 最初の5秒で、プレイヤーは何をするはずか。
  • 30秒までに、どこまで進むはずか。
  • つまずくとしたら、どこか。

これは「当てる」ためではありません。観察後に、想定と実際のずれを数えるための基準線です。

2. 観察する(30秒)

遊び手には「いつもどおり遊んでください」とだけ伝えます。観察者は次のことを守ります。

  • 声をかけない。質問されても「終わってから答えます」と返します。
  • 画面を指さない。視線の動きや表情で誘導しないよう、少し離れた位置に座ります。
  • 30秒の経過時点で止めます。続きが気になっても、この回の記録は30秒までです。

録画を見ながら書くのが理想です。その場で書くと、書いている間に起きたことを見逃します。

3. 録画を見ながら記録する

録画を再生し、一時停止しながら用紙を埋めます。事実の列は、次の形で書きます。

〈経過秒〉に〈誰が/画面の何が〉〈どうした〉

事実の列に使わない言葉があります。「迷う」「気づく」「戸惑う」「理解する」「諦める」「楽しそう」「分かりにくい」「すぐ」「しばらく」。気持ちや頭の中を言う言葉と、長さを曖昧にする言葉です。

次の表は、書き換えの練習用に作った仮定の例文です。実際の観察結果ではありません。

  • 操作が分からず戸惑っていた、事実に直した書き方(例):8秒に画面中央を1回押した。画面に変化はなかった。12秒まで何も押していない
  • ルールを理解した様子だった、事実に直した書き方(例):14秒に表示された指示と同じ場所を押した。以降は間隔を空けずに3回押した
  • ボタンの位置が分かりにくい、事実に直した書き方(例):5〜11秒に画面の左上と右下を順に押した。押したのは表示されたボタンではない場所だった
  • すぐに始めた、事実に直した書き方(例):開いて2秒後に最初の操作をした

直した後の書き方では、書き手の気持ちが入る余地がなくなっています。ただし「表示されたボタンではない場所」のように、書き手の画面理解が入る言い回しは残りやすいので、「どの場所か」を言葉で示せるか確認します。

4. 解釈は別の列に書く

解釈を書くこと自体は悪くありません。仮説の種になるからです。ただし、事実の列と混ぜずに、隣の列に書きます。1つの事実に解釈を複数並べられるなら、並べておきます。

例(仮定):事実「8秒に画面中央を1回押した。変化はなかった」解釈1:中央が押せる場所だと思った。解釈2:始める合図を探していた。解釈3:何となく押した。

3つ並べられない場合、解釈が1つに固まっています。その1つは、想定メモと同じ方向ではないか、後で確認します。

5. 回数と人数

1人分は事例にすぎません。事実率とくせを見るには、少なくとも3人分を同じ書式で集めます。人数が増えるほど、特定の人の癖と自分の記録のくせを切り分けやすくなります。

結果の読み方

記録がそろったら、次の4つを数えます。

1. 事実率

事実の行数 ÷ 全行数。一つの行に事実と解釈が混ざっていれば、2行に分けて数えます。

目標値は決めません。比べる相手は他人ではなく、自分の前回の記録です。練習用の作品で測った事実率と、自作で測った事実率の差も参考になります。

  • 自作のほうが明らかに低い:想定が記録に入り込んでいる可能性があります。
  • どちらも低い:書式や言葉の癖が原因と考えられます。形容詞や推測の動詞の使用を、まず見直します。
  • どちらも高い:次の2を見ます。事実が多くても、選んで書いているかもしれません。

2. 想定との一致率

解釈の行のうち、想定メモと同じ方向のものが何行あるかを数えます。「想定メモとの関係」列に「一致」「不一致」「関係なし」を書き入れます。

一致ばかりが並んでいるなら、想定に合う場面だけを拾っている疑いがあります。想定に反する出来事は、事実の列に残っているかを録画で見直します。

3. 想定になかった事実の数

想定メモに書かれていなかった操作や時間の使い方が、事実の列に何行あるか。ゼロなら、本当に想定どおりだったか、想定外の出来事を書き落としたかのどちらかです。判断するには、録画をもう一度、事実の列を隠して見直します。

4. 事実列だけを他の人に読んでもらう

事実の列だけを切り出し、解釈の列を見せずに別の人へ渡します。「ここで何が起きていたと思いますか」と聞いて、返ってきた解釈を並べます。

  • 自分の解釈と同じ:事実列が解釈を支えている可能性があります。ただし、2人とも同じ思い込みを持っているだけかもしれないので、決め手にはなりません。
  • 人によって解釈が分かれる:事実列だけでは理由が絞れていないということです。無理に一つに決めず、次の観察で何を記録すれば絞れるかを書き出します。
  • 自分と違う解釈が出た:自分の想定がその解釈を除外していた証拠です。

起こりやすい誤り

  • 想定メモを観察後に書く:結果を見てから書くと、必ず当たります。観察前の日時を紙に入れておきます。
  • その場で助ける:遊び手が止まったときに声をかけると、その後の30秒が別の観察になります。助けた場合は、助けた時刻を事実の行に書き、その回は参考扱いにします。
  • 沈黙を理解と読む:何も操作しなかった時間は、納得とも、困惑とも、画面を読んでいるとも考えられます。「12秒から20秒まで操作なし」と事実だけを書きます。
  • 記憶で補う:録画なしで後から書くと、解釈が事実に混ざります。録画できない場合は、行数を絞って、書けないところは空欄にします。
  • 書き落としを疑わない:想定に合わない場面ほど、書かれにくくなります。録画の中で、用紙に対応する行のない操作がないか確認します。
  • 1人で結論を出す:1人分の観察は、1つの事例です。複数人の記録を並べて、共通する事実だけを手がかりにします。
  • ゲーム内の計測値と混ぜる:ゲームが記録する数値と、観察者が書いた事実は出所が別です。同じ列に書かず、別の紙にします。
  • 録画の扱い:了承の範囲外に共有しません。顔や声を残さない設定にして、観察が済んだら不要な録画は消します。

次の行動

まず、他人が作った公式作品(「かたちのあいだ」「こだまの森」など)で1回、想定メモを書いてから30秒を録画し、4列の用紙を埋めて事実率を数えてみてください。次に、同じ書式で自作ゲームを3人分観察し、練習用の作品との事実率と想定一致率を比べます。差が出た行を録画で見直すと、自分がどの言葉で解釈を事実の列に持ち込んでいるかが見つかります。