「初心者向け」と書いたゲームは、なぜ初心者に遊べないのか——宣言と難しさのずれを観察する実験設計
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

自作のパズルゲームを公開する前に、紹介文へ「初心者向け」と書き込む場面を考えてみます。作者は何百回も遊んでいるので、最初のステージは十分にやさしく感じます。ところが、普段そのジャンルを遊ばない人に画面を渡すと、最初の操作に入るまでに手が止まるかもしれません。「初心者向け」という宣言は作者の頭の中では成立していても、遊ぶ人の手元で成立するとは限りません。 この記事が確かめるのは、宣言と実際の難しさがどこで、どれくらいずれるのかです。結果は書きません。その代わり、自作ゲームを使ってずれを観察する実験を、準備から結果の読み方まで設計します。ゲームの難しさを測る実験ではなく、「初心者向け」という言葉が約束していることを、検証できる基準に書き直す実験です。 観察の途中で「ゲームが悪い」と「宣言が悪い」を混ぜると、直す場所を間違えます。最後に、ずれが見つかったときにどちらを直すかの判断基準も示します。
「初心者向け」の中身を、測れる基準に書き直す
「初心者」は一つの状態ではありません。ゲームを遊び慣れていない人もいれば、そのジャンルの慣習を知らないだけの人もいます。操作に慣れていないのか、ルールの理解が追いつかないのか、失敗が続くと気持ちが折れるのか。「初心者向け」の一言には、少なくとも次の約束が混ざっています。
- 説明を読まなくても、最初の操作ができます(操作の約束)。
- 画面を見れば、何を目指すのかが分かります(目標の約束)。
- 最初の目標を、数分のうちに一度は達成できます(到達の約束)。
- 失敗しても、続ける気になれます(回復の約束)。
- 専門用語や、そのジャンルの暗黙の知識を前提にしません(前提知識の約束)。
実験の最初の作業は、この5つに自分の閾値を決めて、遊ぶ前に紙に書くことです。閾値は例えば「最初の入力まで15秒以内」「最初の目標達成まで3分以内」「失敗から5秒以内に再挑戦する」などです。これらは例であって、正解の数字ではありません。自分のゲームの長さと想定する遊び方に合わせて決めてください。
大事なのは、結果を見てから基準を決めないことです。観察のあとに基準を決めると、見えた結果に合わせて「このくらいなら初心者向けと言える」と甘く調整しやすくなります。
準備するもの
観察する相手は、そのゲームのジャンルを普段あまり遊ばず、あなたのゲームを一度も見ていない人です。3〜5人を目安にします。この人数は統計的な裏づけのある数ではなく、同じ場所でつまずく人が複数出るかを見るための現実的な規模です。家族や同僚でも構いませんが、制作過程を知っている人は避けます。
用意するものは次のとおりです。
- 公開予定と同じ内容に固定したビルドです。観察中に直すと、人ごとに条件が変わります。
- 実際に公開する紹介文です。「初心者向け」の一文を含め、遊ぶ前に読んでもらいます。宣言を見た状態で遊ぶことが、この実験の条件です。
- 想定する端末です。スマートフォンで遊ばれる想定なら、スマートフォンで観察します。
- 画面の録画です。録画する場合は、事前に相手の同意を得て、保存と削除の扱いも伝えます。
- 時計と記録シートです。シートの形は次の節で示します。
- 事前に聞く2項目です。「普段どんなゲームを遊ぶか」と「このジャンルは遊ぶか」だけにします。
作品の中に簡単な計測を仕込む方法もあります。次の最小構成は、最初の入力と、任意の節目を秒数つきで残します。PCの開発者ツールで確認する前提です。
<script>
const log = [];
const t0 = performance.now();
function mark(name) {
log.push({ name, sec: Math.round((performance.now() - t0) / 100) / 10 });
}
addEventListener('pointerdown', () => mark('first-pointer'), { once: true });
addEventListener('keydown', () => mark('first-key'), { once: true });
window.mark = mark; // ゲーム側から mark('first-goal') などを呼ぶ
</script>ゲーム側の「最初の目標を達成した瞬間」や「最初の失敗」で mark('first-goal')、mark('first-fail') を呼びます。観察が終わったら開発者ツールのコンソールで console.table(log) を実行して書き写します。ページを閉じると消えるので、書き写してから閉じてください。計測が難しい環境では、録画とストップウォッチで同じことができます。
観察の手順
一人ひとりに対して、同じ手順で進めます。
- 事前の2項目を聞きます。
- 紹介文を読んでもらい、「この説明から、どんなゲームだと思いますか」と一度だけ尋ねて、答えを書き留めます。
- 「分からなくなったら思ったことを声に出してください。質問に答えられないことがありますが、そのまま続けてください」と伝えます。
- ゲームを開いてもらい、時計を始めます。
- 観察者は原則として黙ります。操作の方法も、目標も、ヒントも教えません。
- 相手が「やめます」と言うか、あらかじめ決めた上限時間(例:10分)に達したら終わります。
- 終了後に「一番迷ったのはどこですか」「初心者向けという言葉から期待したことと違った点はありますか」と聞きます。
声をかけないことが、この実験で最も守りにくい点です。相手が困っている姿を見ると、つい「そこをタップするんですよ」と言いたくなります。しかし、その一言で、宣言と実際のずれを示す一番の証拠が消えます。どうしても止めたい場合は、その時点を記録して「介入」と記し、以降のデータは別扱いにします。
1人に遊んでもらうのは1回だけです。同じ人に2回遊んでもらうと、2回目は学習した状態になり、初心者の初回体験ではなくなります。
記録の取り方
記録は「時間」「停止」「誤り」「言葉」の4種類に分けます。単位は1人1セッションごとです。
時間は、次の3つを秒で記録します。
- 遊び始めてから最初の入力までの秒数です。
- 最初の目標を達成するまでの秒数です。達成できなかった場合は「未達」と書きます。
- 最初の失敗から次の挑戦までの秒数です。
停止は、5秒以上入力がなかった場面を数え、その場面が画面のどこで何が起きていたかを一行で記します。「タイトル画面で5秒」「ステージ1の2手目で12秒」のように場所が分かる形にします。
誤りは、意図と違う結果になった操作です。押すべきでない場所を押した、方向を間違えた、といった操作を数え、何をしようとしていたかは本人の発話から推測せず、聞き取りで確認します。
言葉は、発話をそのまま書き取ります。「これは何ですか」「これ押していいのかな」「分からない」といった言葉は、あとで分類するための材料になります。要約せず、言った通りに書き留めます。
最後に、離脱した場合は、離脱の直前に起きていたことを書きます。離脱の理由は推測せず、終了後の質問で本人に聞きます。
結果の読み方
記録がそろったら、最初に決めた5つの約束に照らして、基準を満たした人の数を数えます。そのうえで、人数の多寡より、停止や誤りが同じ場所に集まっているかを見ます。
読み方の目安は次のとおりです。
- 最初の入力までが長い場合は、目標の約束が伝わっていない可能性があります。紹介文で想像したゲームと、起動直後の画面が一致しているかを見ます。
- 入力はしたのに、目標達成までが長い場合は、操作の結果が見えにくいのかもしれません。入力に対して画面が何を返しているかを確かめます。
- 同じ場所で複数人が止まっている場合は、ずれの中心です。人によって止まる場所がばらばらなら、個人差の可能性があるので、すぐに直さず、次の観察で再現するかを見ます。
- 失敗が続いたあとに離脱した場合は、回復の約束が弱い可能性があります。やり直しの手軽さや、失敗の理由が見える作りかどうかを見ます。
- 発話に未説明の用語が出る場合は、前提知識の約束に抜けがあります。
直す方向は二つあります。ゲームのほうを調整するか、宣言のほうを具体的に書き換えるかです。基準を満たす人が少なかったなら、まずゲームを調整する道を考えます。調整が難しい、または調整すると別のゲームになってしまう場合は、宣言を書き換えます。たとえば「初心者向け」を、実際に観察で成り立った事実だけに置き換えます。まだ成り立つと確認していないことは、書き足しません。
アソバースでは、投稿の下書き保存や公開内容の更新ができるので、紹介文の見直しはあとからできます。投稿画面の「紹介文と遊び方を作成」は下書きを作る機能ですが、生成された文が観察で確かめた事実と合っているかは、自分で見て判断してください。また、プレイ回数は作品の起動回数であり、人数ではありません。起動数が多いことは、初心者が遊べたことを示しません。
起こりやすい誤り
- 作者が横に座って解説してしまいます。声かけをしないルールを、始める前に自分に課してください。
- 基準を観察のあとで決めてしまいます。基準は紙に書いてから始めます。
- 友人の感想を観察の代わりにします。「面白かったよ」という感想は、止まった場所を教えてくれません。
- 1人の挙動を全体に広げます。1人だけの停止は仮説にとどめ、複数人で重なった停止を優先します。
- 難しさの原因を操作に決めつけます。停止の前後で何が画面に出ていたか、発話は何だったかを見て、操作・目標・前提知識のどれかを分けて判断します。
観察の練習をしたいときは、公式作品を同じ手順で観察する方法もあります。たとえば「かたちのあいだ」には3×3の入門があり、次の一手のヒントや一手戻す機能があります。「時計じかけの台所」には、時間制限のない見習いと、1皿28秒の本番があります。入門や見習いという段階が、実際に初心者に遊べるものかどうか、見習いから本番への段差で誰がどこで止まるかは、作品を開いてこの手順で確かめてください。結果は、確かめた人の記録にだけ現れます。
次の行動
まず、自分のゲームの「初心者向け」を、上の5つの約束に分けて、閾値つきで紙に書いてください。そのうえで、そのジャンルを普段遊ばない人を3人探し、声をかけずに最初の数分を見守る時間を作ってみてください。止まった場所が重なったら、ゲームを直すか、紹介文を書き換えるかを、記録をもとに決めます。

