作り直しを3回すると何が残り、何が消えるのか:作品の核を見つける実験設計
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

自作のブラウザゲームを、最初から数えて4回作る場面を考えてみます。初版を作り、遊んで違和感を覚え、作り直します。2版目にも納得がいかず3版目へ、さらにもう一度で4版目です。こうして「作り直しを3回した作品」ができたとして、4つの版を並べたときに共通して残っているものは何でしょうか。残ったものを見れば、その作品の核が分かるはずです。 ただし、残った要素がそのまま核とは限りません。作り直しのたびに、作者の手癖や記憶の偏りで残ってしまった要素が混ざります。逆に、時間が足りずに落ちたものの中に、本当は核だった要素が含まれている可能性もあります。 そこでこの記事では、作り直しを「何が核かを調べる装置」として使う実験の設計書を示します。準備するもの、手順、記録の取り方、結果の読み方、起こりやすい誤りまでを順に書きます。結果は書きません。読者が自分の作品で行えば、その作品の答えが出る形にしてあります。
この実験が確かめること
問いは次の一つに絞ります。「作り直しを繰り返したとき、版をまたいで残る要素と消える要素は何で、そのうち抜くと別の作品になってしまう要素はどれか」です。
ここで「核」を作業用に定義します。核とは、それを抜いたときに、作者自身が「これはもう同じ作品ではない」と感じる要素です。面白さの源泉と言い換えてもかまいません。この定義には二つの利点があります。一つは、作者の感覚という測りにくいものを、「同じ作品かどうか」という二択の判断に落とせることです。もう一つは、後で「抜く」実験によって確かめられることです。
実験は二段構えです。
- 第1段:作り直しを通して「核の候補」を絞り込みます。
- 第2段:候補を実際に抜いた版と、候補でない要素を抜いた版を作り、遊び比べて確かめます。
第1段だけでは、残ったという事実しか分かりません。第2段を足すことで、残った理由が核だからなのか、癖だからなのかを切り分けられます。
準備するもの
次のものを用意します。
- 題材のゲーム1本。すでに作った作品でも、小さく新しく作る作品でもかまいません。1回遊べば仕組みが分かる程度の小ささを勧めます。作り直しを3回するので、1版の制作に数時間以内で収まる規模が現実的です。
- 版ごとに分けて保存する場所。上書きすると前の版が消えます。版1、版2、版3、版4と名前を付けた別々のファイルかフォルダで残します。アソバースに投稿する場合は、下書き保存や公開内容の更新があるので、版ごとの履歴を手元のファイルでも持っておくと比較しやすくなります。
- 要素の棚卸しシート。表計算でもメモ帳でも構いません。
- 作り直しのルールを書いた紙。後述します。
- 時計。各版の制作時間を測るために使います。
手順
手順0:版1の要素を棚卸しする
版1が完成したら、そのゲームを構成している要素を10〜20個書き出します。粒度は「操作」「勝ち負けの条件」「ミスの罰」「一回の長さ」「画面の見た目」「音」「失敗したときの気持ちよさ」のように、1行で言い切れる大きさにそろえます。「操作全般」のように大きすぎる項目は、「左右キーで動く」「長押しで加速する」など二つ以上に割ります。
最初に注意したいのは、見た目や音といった感覚的な要素と、ルールや操作といった仕組みの要素を混ぜて書き出すことです。どちらが核になるかは先入観で決めず、最初は同じ棚に並べます。
手順1:作り直しのルールを決める
作り直しは「前の版を見ながら直す」のではなく、白紙から作ります。このとき、何を頼りに作るかで結果の意味が変わるので、ルールを先に固定します。
- 前の版のコードは開かない。
- 手元に置くのは、前の版を遊んだ直後に書く「3行のメモ」だけにする。メモは「どんなゲームか」「いちばん気持ちよかった瞬間」「いちばん直したい点」の3項目です。
- 棚卸しシートは作り直している間は見ない。見ると、リストの項目を機械的に再現してしまうためです。
- 制作時間の上限を、版ごとに決めておく。版1と同じ時間にそろえる方法と、版を重ねるごとに短くする方法があります。短くする場合は、各版を「前の版の半分」のように比率で決めます。時間を絞ると、削る判断が強制的に起きて、核が浮き出やすくなります。
どの時間配分にするかは、問いに応じて選びます。核を探すなら時間を絞る設計が向きます。一方で、時間が足りずに落ちた要素と、判断して落とした要素を区別する必要が出るので、記録でそれを分けます。
手順2:版2〜4を作る
ルールどおりに、版2、版3、版4と作ります。各版が終わるたびに、その版を3回通しで遊び、遊んだ直後に3行のメモを書きます。メモは次の版を作る材料でもあり、同時に記録でもあります。
作っている途中で「ここは元の版のほうがよかった」と感じる場面が出ます。そのときは、思い出した内容を作業メモに残すだけにして、コードや画面の見直しはしません。記憶から再現されたことそのものが、データになるからです。
手順3:各版と棚卸しを突き合わせる
4版がそろったら、棚卸しシートを開きます。版2、版3、版4のそれぞれについて、各要素を次の記号で判定します。
- K、意味:ほぼそのまま残った
- C、意味:形を変えて残った(例:操作は残ったが速さや手触りが変わった)
- X、意味:消えた
版の中で新しく入った要素は、別の欄に「N」として追記します。新規要素を無視すると、作り直しが何を足したかが見えなくなるためです。
手順4:核候補を抜く版を作る(第2段)
第1段の結果から、核候補を2〜3個、非核候補を2〜3個選びます。非核候補は、K か C が少なく、消えても気にならなかった要素を選びます。
次に、版4をもとに、候補を一つずつ抜いた小さな版を作ります。たとえば核候補が3つなら3つの版、非核候補が2つなら2つの版です。抜き方は、その要素の機能を止める、あるいは別のありふれた形に置き換えることです。作り込みはしません。数分から十数分で作れる範囲にとどめます。
記録の取り方
記録は、何を、どの単位で、何回取るかを先に決めておくと、後で読みやすくなります。
- 単位:要素1つにつき1行。列は版2・版3・版4と、新規欄、備考です。
- プレイ回数:各版を同じ条件(同じ端末、同じ時間帯、画面の明るさ、音の有無)で3回ずつ遊びます。1回だけでは、その日の調子に左右されます。
- 遊んだ直後の評価:「もう一度遊びたいか」を1〜5の数字で記録します。数字の意味を事前に決めておき、途中で基準を変えないでください。
- 第三者の視点:可能なら、まだ作品を知らない人に版4を遊んでもらい、「このゲームを一言で説明するとどうなるか」を書いてもらいます。ただし、これは参考値です。人数が少ない場合、特定の人の好みが強く出ます。結論に使うのではなく、作者自身の判断と食い違っていないかを見る補助にとどめます。
集計は、手で数えることもできますが、版が増えると手間が増えます。記号を並べたテキストを貼り付けて分類する最小のスクリプトを示します。HTMLファイルとして保存し、ブラウザで開くとそのまま動きます。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<textarea id="in" rows="8" cols="60">
左右に動かす,K,K,K
風で流される,K,C,X
手紙の数を数える,K,C,C
赤い色,X,X,K
</textarea>
<button onclick="run()">集計</button>
<pre id="out"></pre>
<script>
function run() {
const rows = document.getElementById("in").value.trim().split("\n");
const g = { "ずっと残った": [], "形を変えて残った": [],
"消えて戻った": [], "消えた": [] };
for (const row of rows) {
const [name, ...s] = row.split(",").map(t => t.trim());
if (s.every(x => x === "K")) g["ずっと残った"].push(name);
else if (s.every(x => x !== "X")) g["形を変えて残った"].push(name);
else if (s.includes("X") && s[s.length - 1] !== "X")
g["消えて戻った"].push(name);
else g["消えた"].push(name);
}
document.getElementById("out").textContent = Object.entries(g)
.map(([k, v]) => k + ":" + (v.join("、") || "なし")).join("\n");
}
</script>サンプルの行は書き方を示すためのものです。自分の作品の要素名と記号に置き換えて使ってください。
結果の読み方
分類ごとに、次のように読みます。
ずっと残った要素
核の有力候補です。ただし、作り直しのルールが残した可能性を先に疑います。たとえば、3行メモに書いた項目は、記憶に頼る設計上、残りやすくなっています。メモに書いたから残ったのか、書かなくても残ったのかを、備考で確認してください。
形を変えて残った要素
核が「何であるか」より「どんな形であるか」を示す手がかりになります。変わった部分と変わらなかった部分を分けて眺めると、核の幅が見えてきます。たとえば、操作の存在は残るが速さが毎回変わるなら、核は「その操作で何かを狙うこと」であり、速さは調整の余地だと考えられます。
消えて戻った要素
一度消えたのに最後に戻ってきた要素は、作者が「やはり要る」と感じた証拠です。核の候補として強く扱います。時間を絞った版で落ち、余裕のある版で戻ったのなら、核というより「大事だが優先度が低い要素」かもしれません。判別には次の第2段の結果を使います。
消えた要素
多くの場合は不要な要素ですが、時間切れで落ちただけの要素と区別します。備考に「判断して落とした」か「間に合わなかった」かを必ず書いておくと、ここで効きます。
抜いた版の読み方
第2段では、版4と、候補を抜いた各版とを、同じ手順で遊び比べます。判断の目安は次のとおりです。
- 核候補を抜いた版で、遊びたい度が下がり、「別のゲームだ」と感じた。核の可能性が高いと読みます。
- 核候補を抜いても、遊びたい度も印象もほとんど変わらなかった。残ったのは癖や手順の影響だった可能性があります。核候補から外します。
- 非核候補を抜いたのに、大きく印象が変わった。棚卸しや分類の見落としです。その要素が核に絡んでいないかを見直します。
- 抜いた版のほうが遊びたい度が上がった。その要素は、作品にとって足を引っ張っていた可能性があります。
3回ずつ遊んでばらつきが大きいときは、結論を保留します。この実験の目的は断定ではなく、核の位置の見当をつけることです。
起こりやすい誤り
- 記憶の補正:メモを書くときに、よかった点だけを書きがちです。悪かった点、つまずいた瞬間も1行ずつ入れておきます。
- 粒度の不ぞろい:「見た目」のような大きい項目と「効果音1つ」のような小さい項目が混ざると、残った・消えたの数が比べられません。棚卸しの時点で粒度をそろえます。
- 見た目と核の混同:色や絵は作り直しで簡単に変わり、記号がXになりやすい一方、核とは関係がないことも多くあります。反対に、見た目が雰囲気を作っている作品では核になります。見た目だけを機械的に外さず、第2段で確かめてください。
- 新規要素の無視:Nの欄を空にすると、作り直しで何が足されたのかが分かりません。足されたものが、消えた核の代わりを務めている場合もあります。
- 時間条件のずれ:版ごとに制作時間や遊ぶ条件が違うと、要素の残り方の差を作品の性質と取り違えます。条件はルール表に書き、毎回見返します。
- 1回の結果の断定:作り直しの順番や、そのときの体調で結果は変わります。余力があれば、別の作品で同じ手順を繰り返し、似た傾向が出るかを確かめるとよいでしょう。
次の行動
まず、いま手元にある作品の要素を10個書き出してみてください。次に、作り直しのルール(前の版を見ない、3行メモだけを頼りにする、時間の上限)を紙に書いて、版2を作る日を決めます。4版そろったら、上のスクリプトで分類し、核候補を一つ抜いた小さな版を作って遊び比べてください。その結果を踏まえて、作品の紹介文や遊び方を書き直すと、何を最初に伝えるべきかが決まります。

