もしオセロの盤が無限に広かったら:角のないゲーム
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オセロの上達で最初に教わる原則の一つが「角を取る」です。角に置いた石は、どの方向からも挟まれず、一度置けば最後まで返りません。では、盤が上下左右にどこまでも広がっていて、角も辺もなかったらどうでしょうか。最強の定石が消えた盤で、勝ち負けを分ける軸は何になるのかを考えてみます。 場面を一つ仮定します。大きな方眼の中央に、白黒2枚ずつの石が斜めに並んでいます。黒の最初の手は、標準のオセロと同じ4か所のどれかです。ここまでは有限の盤と変わりません。ところが数手進むと、石の列の外側に壁がなく、どの方向にも置き場所が残ります。「壁際に追い詰める」「壁を使って守る」といった発想がそのままでは使えません。 先にこの記事の見立てを置いておきます。角と辺は、盤の端が「挟む側になれない」ことから生まれた価値です。端がなくなると、価値の源は「相手に手を渡さないこと」と「自分の石の周囲にどれだけ空きがあるか」に移ると考えられます。ただし、これは結論ではなく仮説です。後半では、方眼紙と数枚の石で、この仮説を自分で確かめる設計を示します。
角が強い理由を分解する
オセロで石が返るのは、同じ直線上で、相手の石の連なりが両端から自分の石に挟まれたときです。挟むには、両端に石が必要です。ここで、盤の外側には石を置けないことが効いてきます。
- 角の石:横・縦・斜めのどの直線でも、片側が盤の外です。どの方向からも挟めないため、置いた時点で返らない石になります。
- 辺の石:辺に沿った直線では挟まれる可能性がありますが、辺に垂直な縦方向と、斜め方向は片側が盤の外です。返される可能性のある向きは、辺に沿った1方向に絞られます。
- 内側の石:4方向すべてで挟まれる可能性があります。
つまり角の強さは、「挟まれない方向が多いほど石は安全」という単純な幾何から来ています。そして、挟まれない方向を作っているのは壁です。壁の向こうに石は置けないので、壁側の端は挟む側に回れません。
もう一つ、壁には間接的な効果があります。有限の盤では空きマスがいずれ尽き、「どこに置かされるか」が勝負になります。角の近くのマスに置くと相手に角を取らせてしまう、といった「置きたくないマス」の発想は、盤が埋まっていく有限性に支えられています。
無限盤で消えるもの、変わらないもの
変わらないもの
開始の配置と、序盤の数手です。標準の開始局面では、黒の合法手は4通りで、盤の対称性から互いに同じ価値を持ちます。この点は盤が無限でも同じです。また、石の集まりがまだ盤の端から離れているうちは、有限の盤でも壁は影響しません。違いが出るのは、壁に触れる局面からです。
消えるもの
壁による永続的な安全。有限の盤では、角を起点に辺沿いに石がつながると、返らない石が連鎖して増えます。無限盤では、どの石も各方向の直線が両側に伸びていて、片側に壁がありません。少なくとも「盤の端が守ってくれる」という種類の安全は消えます。一時的に両端が空いていて今は返せない石はありますが、後から端に相手の石が置かれれば状況は変わります。無限盤に壁以外の形で永続的に返らない石が存在するかは、ここでは断定できません。
盤が埋まることによる終局。標準のオセロでは、盤が埋まるか、双方が打てなくなると終わります。無限盤では「埋まる」ことが起こりません。終わるのは、双方に合法手がなくなったときだけです。石は一手ごとに少なくとも1枚増えますが、増える先が無限にあるため、対局が必ず有限の手数で終わるかどうかはここでは断定しません。現実には、手数の上限や、使う範囲(たとえば中央から一定のマス数まで)を決めて対局することになります。
新しく目立つもの
直線が長くなることです。壁で切られていないため、一手で遠くの自分の石までを挟む長い返しが、斜めを含めて起こり得ます。返す枚数が一手で大きく動くので、「いまの石数」の意味が有限盤より薄くなります。
戦略の軸の候補
角を失った盤で、価値を持ちそうな軸を並べます。これらは確かめられた結果ではなく、考えるための候補です。
- 合法手の数(モビリティ)、内容:自分が打てる手と、相手が打てる手の差、有限盤での対応物:有限盤でも重要。壁がない分、より中心的になる可能性
- 周囲の空き(フロンティア)、内容:自分の石のうち、空きマスに隣接しているものの数、有限盤での対応物:少なく取って内側に留まる定石
- 挟みの線の長さ、内容:一手で返せる最大枚数と、返された後の線の形、有限盤での対応物:辺や角での安定石の連鎖
- 手番の主導権、内容:相手にパスさせる、または打てる手を絞る、有限盤での対応物:終盤のパスとテンポ
特に注目したいのは、フロンティアです。自分の石が空きマスに多く接していると、相手はそこに置いて挟める可能性が増えます。逆に、周囲が埋まった石は、相手に手を与えません。有限盤の序盤で「少なく取り、内側に打つ」と言われるのは、この性質の表れと読めます。無限盤では壁がないため、石の集団の周りには常に空きがあり、「外周を増やしすぎない」という制約が一貫して残ります。
もう一つの見立ては、角の代わりに「一度返されても取り返しやすい形」や「相手の手を断つ形」が価値の中心になる、というものです。これも仮説の段階です。
自分で確かめる設計
仮説が当たっているかは、実際に打てば確かめられます。紙と石があれば足ります。
準備するもの
- 40マス四方程度の方眼紙(大きいほど無限盤に近づきます)
- 表裏で色が分かれるコインや碁石など、白黒に見立てられる石
- 記録用紙(手ごとに1行)
- 比較用に、方眼の中央へ8×8の枠を鉛筆で薄く描いておきます
手順
- 枠の中央4マスに、標準の開始配置どおり石を置きます。
- 対局A:枠の内側だけで通常どおり打ちます(有限盤の対照)。
- 対局B:枠を無視して、方眼全体を盤として打ちます。方眼の端に石が届きそうになったら、その局は「端に到達」と記録して中断します。
- A・Bをそれぞれ3局ずつ行います。二人で打つか、一人で両方の手を担当します。
記録の取り方
一手ごとに、次の3つを書きます。
- その手番の合法手の数
- 返した石の枚数
- 盤上で空きマスに隣り合っている自分の石の数(その手の後)
局の終わりには、手数と最終的な石数、それから「一度も返されなかった石」がどこにあったかを記録します。
結果の読み方
- 合法手の数が先に尽きた側が負けた局が多ければ、モビリティが中心的な軸だと読めます。
- フロンティアの数が少ない側が、その後の合法手の数でも優位になっていれば、「外周を増やさない」が有効という見立てに近づきます。
- 対局Bで、手数がAの上限(4石開始の8×8では60手)を超えた局が複数あれば、無限盤では「埋まる」以外の終わり方を考える必要があると判断できます。
- 一度も返されなかった石が、特定のマスや形に集まっていれば、角に代わる「守られる形」の候補です。
3局ずつでは傾向の目安にしかなりません。局数を増やしても、一人で両側を打つと打ち筋が偏ります。可能なら別の人と組んで打ってください。
起こりやすい誤り
- 端に近づいてから無理に続けると、無限盤の近似でなくなります。
- 斜め方向の挟みを見落としやすく、合法手の数え間違いが起こります。数えるときは、空きマスごとに8方向を順にたどる手順に決めておきます。
- 盤が大きいと一局が長引きます。時間を決めて、決めた手数で打ち切り、そこまでの記録を比べる方法でも構いません。
潮目のオセロで、有限盤の軸を確かめる
有限盤で角や辺がどう効くかを確かめる場としては、「潮目のオセロ」が使えます。ひとり対局には、返る石のプレビュー、理由付きヒント、一手戻すがあり、ヒントと一手戻すはひとり対局でのみ使えます。
- 一手戻すで同じ局面に戻り、別の手を試します。そのとき、返る石の枚数と、直後に相手が打てる手の数を見比べてみます。
- 返る石のプレビューで、たくさん返る手を選んだ場合と少なく返す手を選んだ場合を並べ、フロンティアの差を観察します。
- 理由付きヒントが、どんな観点で手を勧めているのかは、作品を開いて確かめてください。角に関する説明が出るかどうかも、実際の画面で確認できます。
先に有限盤で「角の価値がどこから来るか」を体感しておくと、上の方眼紙の実験で、何が失われて何が残るのかが見えやすくなります。
次の行動
まず、方眼紙と石を用意して、対局Bを1局だけ打ってみてください。一手ごとの合法手の数を書き留めるだけで、盤が広がったときに数字がどう動くかが見えてきます。そのあと「潮目のオセロ」を開き、一手戻すを使って、角を取る手とそうでない手の違いを見比べると、角を失った盤の軸が考えやすくなります。

