「分からない」と言われる前の3つの沈黙を見分ける観察の設計書
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

自作のゲームを初めて他の人に遊んでもらう場面を考えてみます。起動してから数秒、その人は何も言わず、画面を見たまま動きません。やがて「これ、どうすればいいんですか」と聞かれます。作り手には、この質問が「分からない」の始まりに見えます。しかし、質問の前にはすでに何秒かの沈黙があり、その沈黙の中で、手がかりを探すか、反応を待つか、選択に迷うかのいずれかが起きていたかもしれません。 この記事が確かめる問いは、「言葉になる前の沈黙は、種類を分けて記録できるか。分けると、直す場所は変わるか」です。結果は書きません。ここにあるのは、読者が自分で行うための設計書です。沈黙を「探す」「待つ」「迷う」の3つに分けて起動後30秒の間に記録し、どの作品要素に対応するかを読み取る手順を示します。 この3分類は、観察の道具として仮に置く枠組みです。実際の人の反応がこの3つにきれいに収まるとは限りません。収まらない沈黙が見つかった場合は、その記録自体が成果になります。
準備するもの
次のものを用意します。
- 観察対象のゲーム(自作の試作でも、ほかの人の作品でも構いません)
- 初見の人を3〜5人。作品の説明をすでに聞いている人や、制作を手伝った人は避けます
- 画面録画の手段と、録画してよいという事前の同意
- 記録用の小さなツール(下に載せます)またはストップウォッチと紙
- 全員に同じ文面で伝える一言。たとえば「遊び方は伝えません。自由に触ってください。途中で質問されても、お答えできません」
最後の一言は、あらかじめ書いておくことが大切です。当日に口頭で言い換えると、人によって言い方が変わり、条件がそろいません。
記録用のツールは、次の最小構成のHTMLで足ります。ファイルとして保存してブラウザで開くと、外部通信なしで動きます。Spaceで開始し、沈黙が始まったと感じた瞬間に1・2・3のキーを押します。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<title>沈黙ログ</title>
<p>Space: 開始 / 1: 探す / 2: 待つ / 3: 迷う / 0: 取り消し</p>
<pre id="out"></pre>
<script>
let t0 = null;
const log = [];
const names = {1:"探す", 2:"待つ", 3:"迷う"};
const out = document.getElementById("out");
function draw() {
out.textContent = log.map(r => r.sec + "秒 " + r.name).join("\n");
}
addEventListener("keydown", e => {
if (e.code === "Space") { e.preventDefault(); t0 = performance.now(); log.length = 0; draw(); return; }
if (t0 === null) return;
if (e.key === "0") { log.pop(); draw(); return; }
if (names[e.key]) {
log.push({sec: ((performance.now()-t0)/1000).toFixed(1), name: names[e.key]});
draw();
}
});
</script>このツールが記録するのは、沈黙が始まった時刻と種類だけです。沈黙の長さは、後で画面録画を見て確定します。観察中は、キーを押す作業で目を離さないことを優先します。
3つの沈黙の見分け方
観察中に判断が割れないよう、3つの沈黙を「何が起きていないか」で定義します。
探す沈黙
触れる対象が見つかっていない沈黙です。ポインターやカーソルが画面上を広く動く、視線が端から端へ移る、といった様子が手がかりになります。まだ操作そのものが始まっておらず、「どこが入口か」が見えていない状態です。
待つ沈黙
操作をした直後に、反応が来るのを待っている沈黙です。入力の直後に手が止まり、画面の同じ場所を見続けます。入力が受け付けられたのか、何かが進んでいるのか、判断できない状態と考えられます。
迷う沈黙
操作の対象は見えていて、反応も分かっているのに、次に何を選ぶかで止まる沈黙です。ポインターが複数の候補の上を行き来する、手が操作の上で止まる、といった動きが見られます。選択肢の違いや、選んだ結果の見通しが立たないことが背景にある可能性があります。
沈黙に数えないもの
読んでいる時間、見とれている時間、考えながら試している時間は、困惑とは限りません。画面に説明文がある間の沈黙や、表情が動いている沈黙は、「読む」「味わう」の候補として別欄にメモします。3つの沈黙に無理に押し込まないことが、記録の精度を保ちます。
30秒の手順
起動から30秒を1回の観察単位にします。1人ずつ、次の順で進めます。
- 録画を始め、記録用ツールを開いておきます。
- 前述の一言を読み上げます。以降は話しかけません。
- 本人がゲームを起動した瞬間にSpaceを押します。ブラウザの読み込みなどで起動の瞬間が曖昧なときは、最初に画面が変化した時点を起点にします。
- 手が3秒以上止まった、または画面の同じ場所を見たまま入力がない状態を「沈黙」と見なします。始まった瞬間に1・2・3を押します。
- 30秒たったら観察を止めます。続けて遊んでもらうかは本人に任せます。
- 終了後に初めて質問します。「今、止まった場面がありましたか」とだけ聞き、誘導する言い方は避けます。
3秒という基準は、仮の目安です。短すぎると自然な操作の間まで拾い、長すぎると見逃します。1人目の録画を見てから、全員に同じ基準を適用できるよう調整します。人によって基準を変えると、比較ができません。
練習として、公式作品を使う方法もあります。「時計じかけの台所」には、時間制限なしの見習いと、1皿28秒・配膳6秒・ミス3回までの本番があります。材料をレシピ順に入れ、火にかけ、針が緑の範囲に来たら止める、という流れです。どの場面で沈黙が起きそうかを遊ぶ前に予想して書き出し、観察と比べる練習ができます。見習いと本番で沈黙の出方が違うかは、作品を開いて、実際に観察して確かめてください。
記録の取り方
記録は2段階に分けます。観察中はツールのキーだけを押し、観察後に録画を見ながら表を埋めます。
- 観察者番号、内容:1人ごとの通し番号、単位:1〜5など
- 開始時刻、内容:沈黙が始まった秒数、単位:起動からの秒(小数点1桁)
- 種類、内容:探す/待つ/迷う/その他、単位:4択
- 長さ、内容:沈黙が終わるまで、単位:秒
- 直前の操作、内容:沈黙の前に触ったもの、単位:自由記述
- 直後の操作、内容:沈黙を破った最初の動き、単位:自由記述
- 画面の状態、内容:そのとき何が表示されていたか、単位:自由記述
「直前の操作」と「画面の状態」は、結果の読み方で最も効く欄です。種類だけを数えても、どの要素を直すかは決まりません。
回数は、1人につき1回の30秒を基本にします。余裕があれば、翌日以降に同じ人にもう一度遊んでもらい、2回目の30秒を別の表に記録します。1回目と2回目で沈黙の種類が変わるかは、学習の影響を見る手がかりになります。ただし、これは観察の拡張であり、必須ではありません。
結果の読み方
記録が揃ったら、まず種類ごとに、沈黙が起きた時刻と画面の状態を並べます。次に、次の表を手がかりに、直す候補を絞ります。
- 探す沈黙が最初の10秒に集まる、疑う場所:入口の手がかり(ボタンの見た目、ラベル、配置)、最初の確認:触れる場所と背景の見分けがつくか
- 待つ沈黙が操作の直後に出る、疑う場所:操作への反応(動き、音、表示の変化)、最初の確認:入力から反応までの時間と、反応の大きさ
- 迷う沈黙が選択肢の前に出る、疑う場所:選択肢の違いと、結果の見通し、最初の確認:候補の差が見た目や説明で伝わるか
- 複数人が同じ場面で止まる、疑う場所:作品側の要因の可能性が高い、最初の確認:その場面の画面を並べて見比べる
- 1人だけが止まる、疑う場所:個人の経験や端末の影響の可能性、最初の確認:別の観察者でも起きるかを追加で確認
人数が3〜5人と少ないので、この表は断定のためではなく、仮説を立てるための道具です。「同じ場所で3人が止まった」ことは強い手がかりになりますが、それだけで原因は確定しません。直したあとで、もう一度別の人に同じ手順で観察して、沈黙が減るかを確認して初めて、仮説が支持されたかが言えます。
「その他」に分類した沈黙が多かった場合は、3分類が作品に合っていない合図です。その沈黙の直前の操作と画面の状態を読み直して、新しい種類を足すかどうかを判断します。
起こりやすい誤り
観察の精度を落とす典型的な誤りを挙げます。
- 途中で助け舟を出す:沈黙が長いと気まずくなり、つい声をかけたくなります。声をかけた時点で、その後の記録は条件が変わります。
- 終了後に誘導する質問をする:「ボタンが分かりにくかったですか」と聞くと、答えがその言葉に引きずられます。「止まったときに何を考えていましたか」のように、中立に聞きます。
- 読む時間を困惑と混同する:説明文を読んでいる沈黙は、分類の対象外です。画面に文章があるかを必ずメモします。
- 起動時の読み込みを沈黙に数える:作品が表示される前の待ち時間は、作品の沈黙ではなく環境の問題です。起点を決めておきます。
- 作者の友人だけで観察する:作品の背景を知っている人は、手がかりがなくても進めてしまいます。
- 1回の観察で結論を出す:1人の記録は、事例の一つにとどまります。
端末の違いも見落としがちです。パソコンとスマートフォンでは、触れる場所の見え方も反応の返り方も変わります。想定する遊び方の端末で観察し、使った端末を表に書き添えます。
次の行動
まず、自作または公式作品を一つ選び、起動後30秒の観察を1人分だけ行ってください。沈黙が一つも記録されなかった場合も、その記録が次の人との比較の基準になります。直したくなった箇所が出てきたら、投稿済みの作品であれば公開内容の更新機能を使って反映し、同じ手順でもう一度別の人に観察してもらってください。

