実在の顧客情報を入れずにAIへメールを相談する:仮名化と置き換えのルール
AIを使いこなす執筆にClaudeを使用しています。

実在の顧客情報を入れなくても、AIに返信メールを相談できます。文面の推敲に必要なのは「誰に、どんな関係で、何を伝えたいか」であり、氏名や注文番号そのものではないからです。固有情報を【顧客A】のようなラベルに置き換え、事実の種類と相手との関係だけを残して相談し、返ってきた文面のラベルを自分の手元で元に戻します。 この記事では、そのための分類表、依頼文、戻し方の手順を示します。ここでいう「仮名化」は作業上の置き換えを指す呼び方です。法令上の加工情報として扱えることを保証するものではなく、置き換えたから問題ないと言い切れるものでもありません。 なお、本文中のメールや情報はすべて説明用の例です。実際にAIで実行した結果ではありません。
伏せる情報の分類表
最初に、手元のメール原文を次の5区分に分けます。
- A 直接識別できる情報、例:氏名、メールアドレス、電話番号、住所、相手が特定できる社名、扱い:必ず伏せる、置き換え例:【顧客A】【会社X】
- B 番号・リンク類、例:注文番号、契約番号、請求書番号、個別のURL、扱い:必ず伏せる、置き換え例:【注文番号1】
- C 組み合わせで特定されうる情報、例:役職+部署、具体的な日付、金額、案件名、地名、扱い:ぼかす、置き換え例:「担当部長」「納期から数日後」「約1割の差額」
- D 置き換えても入れない情報、例:健康・病歴、パスワード、認証コード、カード番号、マイナンバー、係争中の内容、未公表の契約条件、扱い:入力しない、置き換え例:「事情があり」と抽象化し、詳細は自分で書く
- E 残してよい情報、例:相手との関係(初回か継続か)、依頼の種類、望むトーン、事実の種類(遅延、誤請求など)、文字数の希望、扱い:残す、置き換え例:そのまま
迷ったときは、「この情報を消すとAIの文面が悪くなるか」で判断します。氏名を消しても敬語の質は変わりません。一方、「怒っている」「初めての取引」といった関係やトーンは、消すと精度が落ちるので残します。
見落としやすいのはCです。名前を消しても、「3月12日に納品予定だった○○市の工場向け特注品」まで書くと、事情を知る人には相手が分かります。日付は相対表現に、金額や地名は粗くします。
置き換えて相談する手順
- 原文をAIに貼らず、テキストエディタに写す。 置き換えは自分の手元で行います。
- A・Bを【ラベル】に置き換え、対応表を作る。 アルファベット1字だけだと本文と混ざるため、全角の角括弧で囲みます。同じ相手には必ず同じラベルを使います。
- Cをぼかす。 日付は相対表現、金額は概数にします。
- Dを削除して抽象化する。 後で自分が書き足す箇所には【要追記】と印を付けます。
- 依頼文と一緒にAIへ貼る。 対応表は貼りません。
- 返ってきた文面を、次の章の手順で確認してから元に戻す。
依頼文のテンプレート
次のメールの下書きを推敲してください。
・固有名詞や番号は【】のラベルに置き換えてあります。ラベルはそのまま残してください。
・ラベルの中身を推測して実名や数字を補わないでください。
・事実として書かれていないこと(原因、納期、補償)は付け足さず、必要な場合は【要確認】と書いてください。
・相手:【顧客A】(継続取引の担当者)/トーン:丁寧で誠実/300字程度
[下書き]「補わない」「付け足さない」と明示するのがポイントです。AIが「3営業日以内に」などを善意で書き足すと、約束していない内容が入ってしまいます。
入力例(説明用)
置き換え前(自分の手元だけで使う):
山田商事の佐藤様。3月12日納品予定の注文番号A-5521が、仕入先の都合で4日遅れます。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。
AIに渡す文面:
【顧客A】様。【納期】に納品予定の【注文番号1】が、仕入先の都合で数日遅れます。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。
対応表(AIには渡さず、自分で保管):
- 【顧客A】、元の情報:山田商事 佐藤
- 【納期】、元の情報:3月12日
- 【注文番号1】、元の情報:A-5521
敬称はラベルに含めず本文側に残しているので、戻したときに「様様」になりません。遅れの日数は「数日」とぼかしてあり、正確な日数は戻す段階で自分が入れます。
元に戻すときの確認
AIが返した文面は、そのまま検索置換で戻さず、次の順で見ます。
- ラベルが全部残っているか。 【】の外に実名らしき語や数字が出ていれば、AIの推測なので削除します。
- 足された内容がないか。 原因、日付、補償、再発防止策など、自分が書いていない約束がないか確認します。
- 置換する。 検索置換でラベルごとに元の情報へ戻し、敬称の重複や欠けがないかを見ます。
- ぼかした箇所と【要追記】【要確認】を自分で埋める。 正確な日数や金額はここで書きます。
- 送信前に宛先、添付、署名を目で確認する。 戻した後の文面が最終版になるためです。
対応表は、送信後に不要なら削除します。保管するなら、その場所が業務で認められているかを確認してください。
学習オフ設定は秘密保持の代わりになりません
置き換えをしても、設定は確認しておきます。ただし、学習に使われない設定は、情報が外部に渡らないことや、保管・確認されないことを意味しません。以下は2026年10月28日に確認した各社の公式ヘルプの範囲で、プランや組織の設定によって異なります。
- ChatGPT: 個人向けのFree、Plus、Proでは、既定でモデル改善への利用がオンで、「Improve the model for everyone」をオフにできます。フィードバック(評価ボタン)を送ると、オフにしていてもその会話が学習に使われうると説明されています。一時チャットは学習に使われませんが、安全目的で最大30日間保持されるとされています。Business、Enterprise、Edu、Healthcareのワークスペースは、内容をモデルの学習に使わないと説明されています。(OpenAIヘルプ:Data controls FAQ)
- Claude: インコグニートチャットは学習に使われません。ただし、既定で30日間(組織の設定によってはそれ以上)保持されると説明されています。(Claudeヘルプ:インコグニート)また、安全性の分類器にフラグを立てられた会話は、信頼・安全面の改善やポリシー執行のために使われうるとされています。(Claudeヘルプ:機微な情報)
学習オフにしても、保管や確認の可能性はゼロになりません。だから、最初から入れない置き換えが有効です。仕事で使う場合は、会社が契約しているプランと社内ルールを先に確認してください。
個人情報保護委員会は2023年6月2日付で、生成AIサービスの利用に関する注意喚起等を公表しています(注意情報の一覧、該当ページ)。個人データを扱う事業者が入力してよい範囲は、この原文と社内の担当者に確認してください。この記事の置き換え手順は、その判断の代わりにはなりません。
置き換えが向かないケース
相談の中身自体が機微なら、置き換えても意味がありません。係争中の案件、健康に関わる事情、未公表の契約条件がやり取りの核心なら、AIには文面の型(お詫びの構成、断りの言い回し)だけを相談し、事情の部分は自分で書くほうが安全です。
型だけを相談する依頼文は次のとおりです。
取引先に、事情があって依頼を断るメールを書きます。
事情の詳細は書きません。丁寧で角の立たない断りの構成と、
結びの一文の例を3パターン出してください。事情の具体的な記述は、返ってきた型に自分で入れます。

