機械翻訳の誤訳を見つける:抜け・付け足し・取り違えを種類別に点検する
AIを使いこなす執筆にClaudeを使用しています。

機械翻訳の誤訳は、訳文を読んで不自然なところを探すだけでは見つかりにくいものです。誤りの種類ごとに観点を決め、原文と1文ずつ突き合わせると見つけやすくなります。 逆翻訳(訳文をもとの言語に戻して比べる方法)は手軽ですが、それだけだと見逃しが出ます。以下は公式資料の記述ではなく、編集部の考察です。 • 戻す段階でも機械翻訳が働くため、曖昧な箇所をもっともらしく補い、原文に近く見えることがある • 訳文が自然な日本語だと、情報が抜けていても違和感が出ない • 「ない」が落ちて意味が反対になる誤りは、戻す側が同じ向きに読み違えると気づけない この記事では、点検の観点を6種類にまとめたチェックリストと、AIに点検の手伝いを頼む依頼文を示します。AIは怪しい箇所の候補を挙げる係で、原文に当たって直すかどうかを決めるのは人、という分担です。
点検の前に:原文を区切って印を付ける
長い文章を丸ごと見比べると、抜けは特に見落とします。先に次の準備をします。
- 原文を1文、または意味のまとまりごとに区切り、訳文と並べる
- 数字、日付、金額、固有名詞に印を付ける
- 用途を決める。社内で大意を把握できればよいのか、相手に送るのか。後者ほど点検を厳しくする
誤訳の種類6つのチェックリスト
- 1、種類:抜け、見る場所:修飾語、列挙の項目、「両方」「すべて」などの範囲語、典型的な問い:原文の要素が訳文に全部あるか
- 2、種類:付け足し、見る場所:文末、文のつなぎ、丁寧な言い回し、典型的な問い:原文にない情報や評価が増えていないか
- 3、種類:数・日付・単位・固有名詞、見る場所:数字、日付表記、通貨、人名・社名・製品名、典型的な問い:桁、順序、単位、表記が原文と一致するか
- 4、種類:否定・条件・程度、見る場所:not、unless、only if、must/may、典型的な問い:「しない/する」「必須/任意」が反転していないか
- 5、種類:語義・用語、見る場所:多義語、専門用語、略語、典型的な問い:その文脈で正しい意味か、訳語が統一されているか
- 6、種類:係り受け・主語・指示語、見る場所:it、they、this、長い修飾、省略された主語、典型的な問い:「誰が」「何を」「どれが」が原文と同じ関係か
各観点のコツ
- 抜け:訳文が原文より短くなっている文は要注意です。both、each、at least のような範囲語は、落ちても文が成立するので気づきにくい部分です。列挙は項目数を数えます。
- 付け足し:原文にない注意書き、強調、推測が入っていないかを見ます。訳文のほうが親切で滑らかなときほど疑います。
- 数・日付・単位・固有名詞:目で比べるより、原文と訳文から数字だけを抜き出して並べるほうが確実です。03/04 のように月日の順序が地域で異なる表記は、書き手の地域や文書内の他の日付で確認します。単位や通貨が換算されたのか、そのままなのかも見ます。
- 否定・条件・程度:意味が反対になる誤りは影響が大きい部類です。unless、only if、no later than などを原文で拾い、訳文が同じ論理か確認します。義務と許可の強さ(must と may)も対象です。
- 語義・用語:同じ原語に別の訳語があてられていないか、用語一覧にして確かめます。訳語を先に固定したいなら、DeepLの用語集機能のように、語と訳語を指定できるサービスもあります。利用できるプランや保存方法には条件があるため、使うサービスの案内で確認してください。
- 係り受け・主語・指示語:代名詞や長い修飾の取り違えは、文法的に正しい別の文を生みます。日本語側で補われた主語が原文と合っているかを見ます。
なお、です・ます/だ・である、敬称、二人称といった丁寧さは、誤訳というより文体の問題なので、翻訳前に指定しておくと手戻りが減ります。DeepLの日本語版ヘルプでは、語調機能は日本語を含む複数言語が対象で、DeepL Pro利用者(APIでは語調パラメータ)向けと説明されています。日本語への翻訳で丁寧/平易を切り替える機能は、別のヘルプで、DeepL Proが必要、日本語への翻訳のみ対象と記載されています(いずれも2026年10月28日に閲覧。提供条件は変わることがあります)。
説明用の例:6観点で見ると何が見つかるか
以下は観点の使い方を示すために編集部が作った架空の例で、実際の翻訳サービスの出力ではありません。
原文(英語)
The meeting will be held on 03/04 at 10:30. Please do not submit the form unless you have received approval from both managers. Fees are not refundable after 14 days.
訳文(誤りを含む想定)
会議は3月4日の10:30に開催されます。承認を得た場合は、フォームを提出してください。料金は14日後に返金されます。なお、遅れないようにお越しください。
- 「3月4日」、種類:3、内容:03/04 は書き手の地域によって3月4日にも4月3日にもなり得る。確認が必要
- 「承認を得た場合は…提出してください」、種類:4、内容:「承認がない限り提出しない」という禁止の条件が、「承認後に提出する」という依頼にぼやけている
- 「承認」、種類:1、内容:「both managers(両方の管理者)」が落ちている
- 「14日後に返金されます」、種類:4、内容:「返金できない」が「返金される」に反転している
- 「なお、遅れないようにお越しください」、種類:2、内容:原文にない文が追加されている
どれも訳文だけを読むと自然に見える誤りです。原文と1文ずつ照合して初めて見えてきます。
AIに点検を頼む依頼文
チャットAIには、指示と点検対象のテキストを区切って渡します。Claudeの公式プロンプトガイドは、明確に書くこと、例を示すこと、XMLタグで構造化することを扱っています。区切りを付けて渡す考え方は、ほかのAIでも使えるはずです。以下の依頼文は編集部が作った例で、特定のAIでの出力品質は検証していません。
あなたは翻訳の校閲者です。次の原文と機械翻訳の訳文を照合し、誤訳の候補を洗い出してください。
<条件>
- 原文の言語:英語 / 訳文の言語:日本語
- 用途:社内の参加者へ送る案内(誤解が出ると困る)
- 全文の訳し直しはしないでください。問題の候補だけ挙げてください。
- 次の6種類で分類してください:
1 抜け / 2 付け足し / 3 数・日付・単位・固有名詞 /
4 否定・条件・程度 / 5 語義・用語 / 6 係り受け・主語・指示語
- 各候補について、原文の該当部分、訳文の該当部分、
疑う理由、修正案を表で出してください。
- 確信が持てないものは「要確認」と書き、何を確認すればよいか添えてください。
- 問題が見つからない観点は「該当なし」と書いてください。無理に探さないでください。
- 最後に、原文の数字と日付、訳文の数字と日付を並べて一致を確認してください。
</条件>
<原文>
(ここに原文)
</原文>
<訳文>
(ここに訳文)
</訳文>使うときの注意
- 機密や個人情報を含む文書は、固有名詞や数値を架空のものに置き換えてから渡します。学習利用の設定と秘密が守られるかどうかは別の問題なので、設定を切ったから安全とは考えないでください。
- 「問題がなければそう書く」と指示しておきます。指摘を必ず出す前提だと、誤りでない箇所まで挙げられやすくなります。
- AIは同じ種類の誤りを見逃すこともあります。数字、否定、条件は、結果にかかわらず自分でも原文と照合します。
点検結果の判断表
- 数値・日付・否定・条件に疑いがある、対応:原文の書き手に確認するか、原文の他の箇所と突き合わせる。確定するまで送らない
- 抜け・付け足しが見つかった、対応:原文に合わせて訳文を直し、再度6観点で確認する
- 語義・用語の揺れ、対応:用語一覧を作って訳語を統一し、全体に反映する
- 契約、規約、安全に関わる文書、対応:自己点検で済ませず、有資格者や専門の翻訳者の確認を前提にする
全観点を毎回完璧にやるより、まず数字と日付、否定と条件の2点を必ず見るところから始めるのが現実的です。間違えたときの影響が大きく、原文との照合も機械的にできるからです。社内で大意をつかむだけの用途なら、この2点と抜けの確認を優先し、残りは余裕に応じて見ます。

