ボタンの言葉は動詞か名詞か:「開始」と「はじめる」
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ゲームのタイトル画面に、ボタンが一つだけ置かれている場面を考えてみます。ラベルが「開始」の画面と「はじめる」の画面があり、どちらも押せば同じゲームが始まります。それでも、先に指が動くのはどちらでしょうか。遊ぶ人の気分も、迷う時間も変わるのかもしれません。 この記事は、その答えを断定しません。「開始」は名詞、「はじめる」は動詞という文法上の違いが、押しやすさの印象にどう関わるかを仮説として整理します。そのうえで、ボタンの文言だけを変えて印象を比べるための実験を、読者が自分で行える形に設計します。結果は書きません。比べた結果を読み取る基準までを扱います。 途中で、アソバースの公式作品とサイトの案内に出てくる語を手がかりにします。ただし、確認できるのは機能の呼び名までで、各作品のボタンに実際に何と書かれているかは確認済みの範囲にありません。その部分は、作品を開いて確かめる手順にします。
「開始」と「はじめる」の違いを分解する
まず、言葉の側にある違いを三つに分けて考えます。
- 品詞:「開始」は「開始する」のように「する」を付けて動詞になる名詞です。「はじめる」はそれ自体が動詞です。
- 表記:「開始」は漢字二字で、画面上でも引き締まって見えます。「はじめる」はひらがなで、やわらかく、読める年齢の幅も広くなります。
- 話し手の位置:動詞の言い切りは、「いまから自分が行う」という動作を指します。名詞は、操作盤の項目名や状態の名前にも見えます。
三つ目が、この記事の仮説の中心です。名詞のラベルは「機械に付いたスイッチの名前」に近く、動詞のラベルは「自分の行為の宣言」に近い、という見立てです。
ただし、これは仮説です。「開始」は操作盤の表示として古くから見慣れた形なので、迷わず押せる人も多いはずです。逆に、動詞形でも「進む」「決める」のようにあいまいな語なら、何が起こるのか分かりにくくなります。
ここで、ボタンの文言についての一般的な考え方を一つ確認します。ボタンは、押した結果を先に伝える表示です。その観点では、品詞より「押したら何が起きるかが読み取れるか」のほうが効く可能性があります。
そこで、問いを次のように言い換えます。
- 動詞か名詞かで、押しやすさの印象は変わるのか。
- 変わるとすれば、それは品詞のせいなのか、表記(漢字かひらがなか)のせいなのか。
この二つを混ぜないために、比較の条件を分けて設計します。
公式作品とサイトの案内から、文言を観察する
実験の前に、すでにある文言を観察して、比べる候補を集めておきます。
確認済み事項には、機能の呼び名が数多く出てきます。たとえば次のとおりです。
- 動詞の形に近いもの:「一手戻す」「聴き直し」「やり直す」「一歩戻る」
- 名詞の形に近いもの:「ヒント」「投了」「一時停止」「録音」
- コースや難易度の選択:「見習い」と「本番」(時計じかけの台所)、6・8・10ラウンドの3コース(こだまの森)、海辺・丘・山の3ルート(紙ひこうき郵便)
サイトの側にも、画面の操作として案内されている語があります。投稿画面の「紹介文と遊び方を作成」は「作成」という名詞で終わっています。一方、アバターの「自分だけのアバターを作る」と、生成した文章を反映する「この文章を使う」は動詞で終わっています。
同じサイトの案内の中に、名詞止めと動詞止めが両方あることが分かります。ここから読み取れるのは、品詞がそろえられていないこと自体ではなく、使い分けの観点を探す手がかりがあるということです。たとえば、次のように考えてみます。
- 選択肢の名前(コース名、難易度名)は名詞のほうが自然です。
- 押すと実行される操作は、動詞のほうが自然かもしれません。
- 「投了」のような将棋・囲碁・チェスなどの対局用語は、名詞のまま定着していて、動詞にしにくい語です。
ただし、これらはあくまで案内に出てくる呼び名です。実際のボタンの表示と一致しているかどうかは、確認済み事項からは分かりません。そこで次の手順で、作品を開いて確かめます。
観察の手順
- 気になる作品を3〜5本選びます。種類が違うものを混ぜます(対局、音、パズル、育てる系など)。
- 日本語表示にして、タイトル画面と、プレイ中に出てくるボタンを順に見ます。ヒントや戻す操作、一時停止、終了、再挑戦の操作も対象です。
- 見つけた文言を下の表のように記録します。
- (記入)、画面:タイトル、ボタンの文言:(記入)、品詞(動詞/名詞/その他):、表記(漢字/ひらがな/カタカナ/英字):、押すと何が起きるか:
- 記録が終わったら、「押す前に結果が想像できたか」を自分に問います。想像しづらかった文言には印を付けます。
- 英語表示にも切り替えて、同じ場所の文言を確かめます。サイトは日本語と英語の表示切り替えに対応していますが、作者が入力した作品名や紹介文は書き換えません。ボタンが動詞から始まる形になっているか、名詞なのかも見比べられます。
この観察だけでも、「このアプリは名詞止めが多い」「ここだけ動詞だ」といった癖が見えてきます。比較実験の候補語を選ぶ材料にもなります。
文言だけを変えて印象を比べる実験の設計
ここからが本題です。ボタンの文言だけを変えて、押しやすさの印象を比べる実験を設計します。
問いと条件
問いは「同じ場面で、ラベルを変えると、押しやすいという印象は変わるか」です。
比べる文言は、次の4条件を基本にします。
- A:開始(漢字の名詞)
- B:はじめる(ひらがなの動詞)
- C:始める(漢字の動詞)
- D:スタート(カタカナ)
AとBだけでなくCを入れるのは、品詞の効果と表記の効果を切り分けるためです。AとCは同じ漢字表記で、品詞が違います。BとCは同じ動詞で、表記が違います。
準備するもの
- 比較用のページ(下のコードをそのまま使えます)
- 協力してくれる人(家族、友人、教室の生徒など)
- 記録用の紙か表計算ソフト
比較ページのコード
保存して、ブラウザで開くだけで動く最小構成です。アドレスの末尾に ?l=0 から ?l=3 を付けると、A〜Dを切り替えられます。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<title>ボタン文言の比較</title>
<p>ゲームを遊びたいとき、下のボタンを押してください。</p>
<button id="b" style="font-size:1.2rem;padding:.6em 1.6em"></button>
<p id="r"></p>
<script>
const labels = ["開始", "はじめる", "始める", "スタート"];
const i = Number(new URLSearchParams(location.search).get("l")) || 0;
const b = document.getElementById("b");
b.textContent = labels[i];
const t0 = performance.now();
b.addEventListener("click", () => {
const ms = Math.round(performance.now() - t0);
document.getElementById("r").textContent =
"条件 " + "ABCD"[i] + ":" + labels[i] + " / 表示から押すまで " + ms + "ミリ秒";
});
</script>ボタンの大きさ、色、位置は4条件で同じです。文言以外の違いを入れないことが、この実験の前提です。
手順と記録
- 協力者一人につき、見せる条件は一つだけにします(人ごとにA〜Dを割り振ります)。同じ人にすべてを見せると、比較していることに気づかれ、答えが変わるためです。
- 割り振りは、順番に並べるのではなく、くじや乱数で決めます。年齢や得意不得意が条件に偏らないようにするためです。
- 協力者にボタンを押してもらい、表示された「押すまでの時間」を記録します。
- 押した直後に、次の二つを聞きます。
- 「このボタンは押しやすそうでしたか」(1〜5の5段階)
- 「押す前に、押したら何が起きるか想像できましたか」(はい/いいえ)
- 記録は「条件・協力者の識別番号・時間・5段階の評価・想像できたか」の1行を1人分とします。
人数は、各条件で少なくとも5〜10人程度は集めたいところです。これは目安で、人数が少ないほど、結果は偶然の影響を受けやすくなります。
結果の読み方と、起こりやすい誤り
結果が出たら、次の順で読みます。
1. 時間より先に「想像できたか」を見る。 「いいえ」が特定の条件に集中していたら、その文言は、押す前の意味が伝わりにくい可能性があります。時間の差よりも、判断材料としては強いです。
2. 評価の分布を見る。 平均だけでなく、1や2を付けた人がどの条件にいたかも見ます。少人数では、一人の極端な評価で平均が動きます。
3. AとC、BとCを分けて読む。
- AとCに差が出て、BとCに差がなければ、品詞の違いが効いている可能性があります。
- BとCに差が出て、AとCに差がなければ、表記の違いが効いている可能性があります。
- どちらも差がなければ、この場面では文言の違いは大きくない、と読めます。
差が出なかったときは「どれでもよい」という有用な結論です。ここで無理に優劣を付けないでください。
起こりやすい誤り
- 説明文が答えを誘導している。 「ゲームを始めたいとき」と書くと、「始める」系の語が有利になります。コードの文面は「遊びたいとき」にしてありますが、条件に近い語を避けているか、自分の文面でも確かめてください。
- 押す時間を迷いの指標にしすぎる。 画面を読む速さや、そもそもの注意の向きに左右されます。時間は参考にとどめ、想像できたかの回答と合わせて読みます。
- 文言以外が揃っていない。 大きさ・色・位置が違うと、文言の効果と区別がつきません。
- 対象が偏っている。 保護者が子どもに、学習者が同じ学習者に聞くなど、似た人ばかりに聞くと、他の層に当てはまらないかもしれません。ひらがなのほうが読みやすいのは、読み書きを学び始めた子にとっては当然ありえます。大人だけで比べた結果を、子どもにそのまま当てはめないでください。
- 少人数の結果を一般化する。 数人で出た差は、傾向のヒントにとどまります。
次の行動
まずは、気になる公式作品を3本ほど開いて、ボタンの文言を観察表に書き出してみてください。品詞と、押す前に結果を想像できたかを並べるだけで、候補の語が見えてきます。そのうえで、上のコードを保存し、身近な数人に条件を割り振って押してもらい、印象を5段階で聞いてみましょう。自分で作るゲームがあれば、そのタイトル画面のボタンで同じ比較をすると、答えがそのまま改善に使えます。

