1か月抱え込んだ作品を初めて見せるとき、何が起きるか:最初の5分を観察する実験設計
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

毎晩少しずつ作ってきたゲームを、1か月ぶりに誰かの目の前に差し出す場面を考えてみます。作者は操作も目的も頭に入っているので、遊び方を説明したくなります。ところが、説明なしで渡された人は、最初のボタンを押す前に画面を見回して止まるかもしれません。その数十秒に、1か月分の「慣れ」が表れます。 この記事は結果を報告するものではありません。「長く抱え込んだ作品を初めて見せたとき、最初の5分に何が起きるか」を、読者が自分の作品で確かめるための設計書です。確かめるのは、作者が事前に予測した反応と、実際に起きた行動とのずれです。このずれが大きい箇所ほど、作者の目が作品に慣れて見えなくなっている可能性があります。 なお、1か月という期間は題名の条件です。2週間や3日に変えてもかまいませんが、その場合は別の条件の実験になります。結果を比べるときは期間を揃えてください。
問いを決め、予測を先に書く
問いは一つに絞ります。
1か月誰にも見せなかった作品を、説明なしで初めて見せたとき、見た人は最初の5分でどこに触れ、どこで止まり、どこで反応するか。
次に、見せる前に予測を書き出します。これが実験の土台です。見た後に書くと「やっぱりそうなると思っていた」と記憶が書き換わるため、必ず先に書き、日付を添えてください。
予測は次の5項目について、各1行で十分です。
- 最初に触る場所はどこか。
- 最初に止まる場所はどこか。
- 笑う、声を出すなど、反応が出る場所はどこか。
- 「何をするゲームか」を理解するまで何秒かかるか。
- 途中でやめるとしたら、どこでか。
あわせて、見せる直前の自分の気持ちを0〜10の数字で書きます。0は「まったく不安がない」、10は「見せたくないほど不安」です。見せた直後にも同じ尺度で書きます。観察者の行動だけでなく、見せる側に起きる変化も、この実験の大事な記録です。
準備するもの
- 1か月作り続けた作品。ブラウザで動く状態にします。
- 観察者3〜5人。作品ジャンルに慣れた人と、そうでない人を混ぜます。作者と親しすぎる人だけに偏らないようにしてください。
- 同じ端末。観察者ごとに端末が変わると、画面サイズや操作方法の違いが結果に混ざります。
- 紙のメモ。事前予測と、観察者ごとの記録欄を用意します。
- 後述の観察ログ用ページ。キー入力で経過時間を記録します。
- 観察者に伝える一文。次の文面を固定して、全員に同じように読み上げます。
「遊んでみてください。途中でやめても構いません。考えていることを、できれば声に出してください。」
作品を人に渡す方法は、画面の前で直接遊んでもらうのが一番確実です。アソバースに投稿する場合は、入力→表示の確認→公開の3段階を踏み、下書き保存もできます。ただし、この実験の観察は目の前で行うほうが向いています。レビューは1〜5点と文章で届きますが、どこで止まったかという行動は残りません。プレイ回数も作品起動の実測回数で、人数ではなく、反応の中身も分かりません。公開後の反応は、この実験とは別の材料として扱ってください。
手順
観察者1人あたり10分程度を見込みます。
- 事前予測と、見せる前の不安度を書きます。観察者の前に、この紙を見直さないでください。
- 作品を開いた状態で、端末を観察者に渡します。固定の一文だけを伝えます。
- 観察ログ用ページを開き、観察者が最初の操作をした瞬間に「開始」を押します。
- 作者は横か斜め後ろに座り、黙って見ます。画面と手元と表情を見て、気づいたことをログのキーとメモで記録します。
- 観察者に質問されたら、答えずに「どうなると思いますか」と返します。操作の正解を教えるのは、観察者が止まって5分たった後、または自分からやめたいと言った後だけにします。
- 5分たつか、観察者がやめたら「終了」を押します。
- 終了後に、次の3つだけを聞きます。順番も固定します。
- 何をするゲームだと思いましたか。
- いちばん印象に残った場面はどこですか。
- もう一度遊ぶとしたら、どこから始めますか。
- 作者の不安度を、すぐに書きます。
- 次の観察者の前に、作品を最初の状態に戻します。
全員が終わるまで、作品は修正しないでください。途中で直すと、観察者ごとの条件が揃わなくなります。
記録の取り方
記録する項目は、観察者1人につき次のとおりです。
- 最初に触った場所、単位:場所の名前、取り方:メモ
- 止まった回数と場所、単位:回、場所名、取り方:約5秒以上操作が止まったら「迷い」を記録
- 質問された回数と内容、単位:回、発言のまま、取り方:「質問」を記録し、言葉はメモ
- 笑い、声、うなずきなど、単位:回、場面、取り方:「笑い」を記録
- 目的を理解した時点、単位:開始からの秒数、取り方:本人が「あ、こういうことか」と言った時点
- やめた時点、単位:開始からの秒数、取り方:「終了」を記録
発言は要約せず、できるだけそのままの言葉で書きます。「分かりにくいと言っていた」と要約すると、「どこが」「何が」が消えます。
経過時間の記録は、次のHTMLをファイルとして保存し、ブラウザで開けば動きます。キーボードの S で計測を始め、M(迷い)、Q(質問)、W(笑い)、E(終了)で秒数つきの行が増えます。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<title>観察ログ</title>
<p>S: 開始 / M: 迷い / Q: 質問 / W: 笑い / E: 終了</p>
<pre id="out"></pre>
<script>
const keys = { s: "開始", m: "迷い", q: "質問", w: "笑い", e: "終了" };
let t0 = null;
const rows = [];
addEventListener("keydown", (ev) => {
const label = keys[ev.key.toLowerCase()];
if (!label) return;
if (label === "開始") { t0 = performance.now(); rows.length = 0; }
if (t0 === null) return;
const sec = ((performance.now() - t0) / 1000).toFixed(1);
rows.push(sec + "秒 " + label);
document.getElementById("out").textContent = rows.join("\n");
});
</script>このページは記録を保存しません。観察者が終わるたびに、画面の行を紙かテキストファイルに写してください。次の「開始」を押すと前の記録が消えます。
結果の読み方と、起こりやすい誤り
観察が終わったら、事前予測と実際の記録を並べます。判断は次の基準で行います。
- 2人以上が同じ場所で止まった。 作品の構造に原因がある可能性が高い箇所です。修正の第一候補にします。
- 1人だけが止まった。 個人差の可能性があります。他の観察者の記録と合わせて、保留にします。
- 予測が大きく外れた。 作者が慣れて見えなくなっている箇所です。外れた予測の数が多いほど、この実験を行う価値があったと言えます。
- 予測がほぼすべて当たった。 予測が現実的だったか、観察者が遠慮して手を止めずに遊んだ可能性があります。観察者の人選と、固定の一文を見直してください。
- 目的を理解するまでが長かった。 冒頭の導線に原因がある可能性があります。最初の画面の言葉と操作の順序を疑ってください。
- 褒めたのに、もう一度遊ぶ場所を答えられなかった。 好意的な言葉と実際の関心が一致していない可能性があります。行動と発言の両方を見てください。
不安度の変化も読み取ります。見せる前より見せた後が下がったのか、上がったのかで、次の作品をいつ見せるかの判断材料になります。ただし数字は主観なので、複数の作品で記録を重ねたときに初めて傾向が見えてきます。この実験1回の数字だけで結論を出さないでください。
直すのは、2人以上に共通した1〜2点だけにします。全部を一度に直すと、次に見せたときに何が効いたのか分からなくなります。
起こりやすい誤りは次のとおりです。
- 説明してしまう。 観察者が止まった瞬間に口を出すと、止まった理由の記録が消えます。我慢が難しければ、手を膝の上に置いておくと効果的です。
- 感想を誘導する。 「ここ面白いでしょう?」と聞くと、肯定の答えが返りやすくなります。質問は固定の3つに絞ります。
- 身内だけで済ませる。 作品の背景を知っている人は、分からない部分を補って遊んでしまいます。
- 観察者ごとに条件が変わる。 端末、画面の大きさ、伝える言葉が変わると、比較できなくなります。
- 作者が反論する。 「そこはこうやって遊ぶんです」という言葉が出たら、その箇所に作者の思い込みがあるというサインです。反論の代わりに、メモに書いてください。
- 1人の意見を過大に扱う。 3〜5人の観察は小さな標本です。傾向を確かめる材料であって、作品の価値の判定ではありません。
次の行動
まず、いま作っている作品の事前予測を5行書き、日付を添えて保管してください。見せる日が決まったら、固定の一文と3つの質問を紙に写し、観察者を3人以上お願いします。期間を揃えて別の作品でも繰り返すと、「抱え込んだ期間」と「見せたときのずれ」の関係を、自分のデータとして確かめられます。

