素材を先に集めすぎると、ゲームは完成しなくなるのか:工程の順番を入れ替えて確かめる実験設計
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

素材フォルダに画像が200枚、効果音が40個、BGMが5曲そろっているのに、画面を開いても何も動かない場面を考えてみます。ゲームを作るはずが、気づけば素材を探して名前を付けて並べる作業の方が長くなっています。こうして未完成のまま止まる工程は、制作の失敗としてよく語られます。 この記事では、その工程を実験として再現します。同じ時間枠で「素材から始める順番」と「灰色の図形で遊びの核から始める順番」を入れ替えて作り、差が出るかを自分のデータで確かめます。結果は書きません。比べ方、記録の取り方、結果の読み方、間違えやすい点までを設計書としてまとめます。 確かめたいのは次の問いです。素材を先に集める順番だと、「一周遊べる状態」になるまでの時間と、仕組みづくりに使える時間はどう変わるのか。
何を比べるのか:条件と「遊べる」の定義
比べる条件は2つです。
- 素材先行:素材を先に集める、または作ってから、仕組みを組み始める。素材フェーズの終わりは自分で決めます。
- 核先行:最初は四角や丸だけで作る。一周遊べるようになるまで、素材は一切入れません。
どちらの条件でも、先に「遊べる」の定義を紙に書いておきます。この記事では次の3つがそろった状態を「一周遊べる」とします。
- 開始の操作ができる
- 遊んでいる間に、プレイヤーの操作で状況が変わる
- 勝ちか負けかの終わりが来て、もう一度始められる
見た目が整っていても、この3つがなければ一周遊べたことにはなりません。定義を先に固定するのは、結果を見てから基準を甘くするのを防ぐためです。
準備と手順:2つのお題を2つの順序で作る
準備するもの
- 作業用の単独HTMLを作れる環境(エディタとブラウザがあれば足ります)
- 同じ素材パック。画像・効果音・BGMを、作業開始前に1フォルダへまとめておきます。素材フェーズを「探す作業」にしたいなら、探す範囲(使うサイトや配布元)だけ先に決めます。利用条件は配布元ごとに違うので、公開を考える素材は各配布元の案内で確認してください。
- タイマー、または次節の計時ページ
- 2つのお題(後述)
お題の決め方
同じお題を続けて作ると、2回目は仕組みを覚えているため速くなります。差が順序によるものか、学習によるものか、分けられなくなります。そこで、ジャンルの違う小さなお題を2つ用意します。
- お題A:左右に動くバーを、ボタンで止めて目標位置に合わせる(タイミングゲーム)
- お題B:上から落ちてくるものを、左右移動でよける(回避ゲーム)
どちらも、遊びの核を1〜2種類の入力で作れる大きさに揃えています。ただし、AとBの難しさが本当に同じかはわかりません。その差を相殺するために、次の4回を行います。
- 1、お題:A、条件:素材先行
- 2、お題:B、条件:核先行
- 3、お題:B、条件:素材先行
- 4、お題:A、条件:核先行
各お題を両方の条件で作るので、お題の難しさの差が条件の差と混ざりにくくなります。ただし3回目と4回目は、同じお題を再度作るため学習の影響が残ります。この点は結果の読み方で扱います。時間や気力の都合で回数を減らす場合は、「お題の差と条件の差が混ざる」という制約を結論に書き添えてください。
各回のルール
- 制限時間は1回につき90分とします。長すぎると素材探しが終わらず、短すぎると核が作れないため、90分は出発点の目安です。自分の経験に合わせて決め、4回とも同じ長さにします。
- 素材先行では、素材フェーズの終わりを自分の判断で決めます。時間を区切らないことが、「集めすぎる」状態を再現する条件になります。
- 核先行では、一周遊べるまで画像も音も入れません。入れてよいのは、四角、円、文字、色だけです。
- 一周遊べた後は、どちらの条件でも素材を入れて構いません。
- 90分で作業を止め、その時点の状態を記録します。
記録の取り方:何を、どの単位で、何回
区間ログ
作業を次の5種類に分け、種類が変わるたびに記録します。
- 素材探し
- 素材加工(切り抜き、リサイズ、名前付け、音量調整など)
- 仕組み(入力、動き、判定、終了条件)
- 調整(速度、難易度、配置の手直し)
- その他
素材を眺めて選ぶ時間は楽しく、作業をしている実感も強いので、気づかないうちに「仕組み」に数えてしまいがちです。迷ったら「ゲームの状態が変わるコードを書いたか」で判断してください。
以下は、計時用の単独HTMLです。ファイルとして保存し、ブラウザで開くと使えます。ページを開いた時点が開始時刻です。画面を閉じると記録は消えるので、終了時に表示を書き写してください。
<!doctype html><meta charset="utf-8"><title>工程ログ</title>
<div id="b"></div><pre id="o"></pre>
<script>
const kinds=["素材探し","素材加工","仕組み","調整","その他"];
let cur=null,s=0,playable=null;const start=Date.now(),log=[];
function sw(k){const n=Date.now();if(cur)log.push([cur,n-s]);cur=k;s=n;show();}
function ok(){if(playable===null){playable=Date.now()-start;show();}}
function show(){
const n=Date.now(),sum={};
(cur?log.concat([[cur,n-s]]):log).forEach(([k,ms])=>sum[k]=(sum[k]||0)+ms);
o.textContent=Object.entries(sum)
.map(([k,ms])=>k+" "+(ms/60000).toFixed(1)+"分").join("\n")
+"\n初めて一周遊べた: "+(playable===null?"未":(playable/60000).toFixed(1)+"分");
}
kinds.forEach(k=>{const e=document.createElement("button");
e.textContent=k;e.onclick=()=>sw(k);b.append(e);});
const p=document.createElement("button");
p.textContent="一周遊べた";p.onclick=ok;b.append(p);
setInterval(show,1000);
</script>終了時に書く項目
90分が終わったら、次の項目を1回ごとに書き留めます。
- 初めて一周遊べるまでの分数(未達なら「未達」)
- 区間ごとの合計分数と、仕組み+調整が全体に占める割合
- 用意した素材のうち、実際にゲームで使った数と使わなかった数
- 「一周遊べる」の3条件を、90分時点で満たしているか(はい/いいえ)
- 第三者に1分遊んでもらい、「何をするゲームか」を一言で言えたか(協力者を得られるときだけ)
- 公開を想定した場合の、フォルダの合計サイズとファイル数
6はアソバースへの投稿を考える人向けの項目です。HTMLやZIPのアップロードは20MiB以内で、ZIP展開後は合計100MiB・1,000ファイル以内、直下のindex.htmlが入口、素材は相対パスで参照します。素材先行で集めた素材をそのまま入れると、使わないファイルまで同梱しがちです。投稿する見込みがあるなら、使っていないファイルがどれだけ残ったかも、工程の差として見られます。
結果の読み方:こうなればこう判断する
4回分のデータを、次の観点で並べます。以下はあくまで読み方の目安で、閾値は自分の経験に合わせて調整してください。
- 一周遊べるまでの時間、見る場所:素材先行と核先行の差、読み取れること:素材フェーズが、遊べる状態を後ろへずらしたか
- 仕組み+調整の割合、見る場所:90分に占める比率、読み取れること:素材に時間を取られ、遊びの手直しが減ったか
- 素材の使用率、見る場所:使った数÷用意した数、読み取れること:集めた量が、必要量を超えていたか
- 90分時点の達成、見る場所:3条件を満たすか、読み取れること:未完成のまま終わったのは、どちらの条件か
読み方の基本は、お題A同士、お題B同士で比べることです。素材先行と核先行の差が、AでもBでも同じ向きに出ていれば、条件の影響を疑う根拠になります。向きが逆、あるいは片方にしか出ないなら、お題との相性やその日の調子など、別の要因を先に疑います。
差が小さい場合も、それは立派な結論です。「素材を先に集めても、自分の場合は一周遊べるまでの時間が大きく変わらなかった」と読めます。その場合は、素材フェーズを自分で終わらせる判断が働いていた可能性があります。素材フェーズの長さと、終わりを決めた理由を、メモから見直してみてください。
素材の使用率が低く、素材探しの時間が長い場合は、集めた量が必要量を超えていた可能性があります。次回は「入れる素材を先に3つに絞る」といった上限を設けて、もう一度比べられます。
起こりやすい誤り
実験の質を落とす落とし穴は、次の5つです。
- 学習効果を無視する:3回目・4回目は、同じお題を再度作っています。後半の回が速いなら、条件の差より慣れの影響かもしれません。1回目と3回目、2回目と4回目のように、お題が違う回の組み合わせでも見比べてください。
- 途中で定義を変える:作っている途中で「ここまでできれば遊べたことにしよう」と基準を下げると、比較が崩れます。定義は最初に書いたものを使い続けます。
- 素材探しを仕組みに数える:前述のとおり、素材選びは作業している感覚が強く、記録がぶれやすい項目です。迷った時のルールを決めておきます。
- 核先行で素材をこっそり入れる:「ちょっとだけ」と画像を足すと、条件が崩れます。入れたくなった時は、そのこと自体をメモに残すと、素材への引力を測る材料になります。
- 素材の権利を確認しない:公開を考えるなら、使う素材の利用条件は配布元で確認が必要です。権利の解釈に迷う場合は、配布元の案内や専門家に確認してください。
次の行動
まずお題Aを素材先行で1回、90分で試し、区間ログを取ってください。そのとき、終了時に「一周遊べる」の3条件を満たしたかを、はい/いいえで書き残しておきます。その1回の記録だけでも、自分の素材フェーズがどこで膨らみやすいかが見えてきます。4回そろえば、条件の影響とお題の影響を切り分けて読めます。

