「CPUの相手」を作り込む:ランダムから先読みまで
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

ひとり用の対戦ゲームを作り、CPU の相手を入れる場面を考えてみます。最初に書くのは、置ける手の中から一つを選ぶだけの処理です。動くようになると、次の問題が出ます。弱すぎて勝負にならないか、逆に強すぎて初心者が一度も勝てないかのどちらかになりがちです。 この記事の問いは、「CPU の強さは、どこを変えれば段階的に調整できるか」です。答えは 3 段階の作り方です。ランダムに選ぶ、一手先の結果で選ぶ、数手先まで読んで選ぶ。この 3 つは同じ「手を選ぶ関数」の差し替えで作れます。ルールの部分は変えません。 ここでは、短い例題のゲームで 3 段階を実際に書き、段階同士を戦わせて強さを測る手順まで進めます。結果の数字は書きません。コードを動かして、読者が自分で確かめる形にします。
この記事の目次
1. 3 段階の違いを先に整理する
3 つの段階で変わるのは「手を選ぶとき、何を見るか」だけです。
- 1 ランダム、見るもの:置ける手の一覧だけ、手の選び方:一覧から無作為に選ぶ、向いている役割:入門。ルールの確認相手
- 2 一手先、見るもの:自分の一手の直後の盤面、手の選び方:直後の評価が最もよい手、向いている役割:中級。目先の得は逃さない相手
- 3 先読み、見るもの:相手の返しも含む数手先、手の選び方:相手が最善を返す前提で最良の手、向いている役割:上級。罠にかかりにくい相手
段階 2 と 3 の差は、相手の返しを考えるかどうかです。段階 2 は、目先で得でも次に取り返される手を平気で選びます。段階 3 は、相手の返しを織り込みます。この「相手は自分に不利な手を選ぶ」という前提で最良の手を探す方法を、ミニマックス法と呼びます。
アソバースの公式作品では、「潮目のオセロ」と「灯りのチェス」が 3 段階の相手を用意しています。段階の中身は公開情報からは分かりません。作品を開いて段階ごとに打ち比べ、どこで差を感じるか確かめてみてください。この記事のコードを書く前に一度触っておくと、各段階に何を期待するかが見えてきます。
2. 手順 0:ルールを 3 つの関数に切り分ける
CPU を書く前に、ゲームのルールを CPU から呼べる形に整えます。必要なのは次の 3 つです。
- 今の盤面で打てる手の一覧を返す関数
- 盤面に手を適用して、次の盤面を返す関数(元の盤面は壊さない)
- 終局かどうかを返す関数
この切り分けができていれば、CPU は盤面の中身を知らなくて済みます。例題には「15 個の石の山から 1〜3 個ずつ取り合い、最後の石を取った側が勝ち」というゲームを使います。ルールが短く、先読みの効果が分かりやすいからです。
以降のコードは、上から順に 1 つのファイルへ貼れば単独で動きます。Node.js でもブラウザのコンソールでも実行できます。
const game = {
moves: (s) => [1, 2, 3].filter((n) => n <= s.left),
apply: (s, m) => ({ left: s.left - m, turn: 1 - s.turn }),
over: (s) => s.left === 0,
};
function evaluate(s, me) {
if (!game.over(s)) return 0;
return 1 - s.turn === me ? 1 : -1;
}turn は 0 か 1 で、手番の側を表します。evaluate は「自分から見た盤面の点数」を返す関数です。終局で勝ちなら 1、負けなら -1、決着がついていなければ 0 とします。最後の石を取った側は、その手で手番が相手に移っているので、1 - s.turn が勝者です。
自分のゲームに移すときは、この evaluate を書き換えます。オセロなら石の数の差、チェスなら駒の価値の合計などが出発点になります。
3. 手順 1〜3:手を選ぶ関数を 3 段階で書く
3 段階を、一つの関数 pickMove にまとめます。まず先読み用の search を用意します。
- search(s, depth, me) を書きます。終局か、読む深さが 0 になったら evaluate を返します。
- それ以外は、打てる手を一つずつ適用して search を再帰で呼び、点数の一覧を作ります。
- 手番が自分なら最大値を、相手なら最小値を返します。相手は自分に最も不利な手を選ぶ、という前提です。
function search(s, depth, me) {
if (game.over(s) || depth === 0) return evaluate(s, me);
const vals = game.moves(s).map((m) => search(game.apply(s, m), depth - 1, me));
return s.turn === me ? Math.max(...vals) : Math.min(...vals);
}次に pickMove を書きます。段階 1 は無作為に選ぶだけです。段階 2 と 3 は、各手を適用した後の盤面に search で点数をつけ、最高点の手から選びます。
function pickMove(s, level, depth = 20) {
const ms = game.moves(s), me = s.turn;
const rnd = (a) => a[Math.floor(Math.random() * a.length)];
if (level === 1) return rnd(ms);
const d = level === 2 ? 1 : depth;
const scored = ms.map((m) => ({ m, v: search(game.apply(s, m), d - 1, me) }));
const best = Math.max(...scored.map((x) => x.v));
return rnd(scored.filter((x) => x.v === best)).m;
}段階 2 と 3 の違いは、d の値だけです。段階 2 は d = 1 なので、search は一手指した直後の evaluate をそのまま返します。段階 3 は d が大きいので、相手の返しの先まで読みます。
同点の手が複数あるときは、無作為に選びます。最初に見つかった手を固定で選ぶと、同じ局面で毎回同じ手を返す単調な相手になります。
4. 手順 4:段階同士を戦わせて強さを測る
書いた段階が本当に強い順に並んでいるかは、CPU 同士を対戦させて確かめます。
function play(levelA, levelB) {
let s = { left: 15, turn: 0 };
while (!game.over(s)) {
const level = s.turn === 0 ? levelA : levelB;
s = game.apply(s, pickMove(s, level));
}
return 1 - s.turn; // 勝者(0か1)
}
function tally(a, b, n = 200) {
let aWins = 0;
for (let i = 0; i < n; i++) {
if (i % 2 === 0) { if (play(a, b) === 0) aWins++; }
else if (play(b, a) === 1) aWins++;
}
return aWins / n;
}
console.log(tally(2, 1), tally(3, 2), tally(3, 1));tally(a, b) は、段階 a が段階 b に勝った割合を返します。記録の取り方は次のとおりです。
- 単位:1 つの組み合わせにつき 200 戦(n で変更できます)。
- 先手と後手:交互に入れ替えます。このゲームは先手が有利になる可能性が高く、固定すると段階の差と先手の差が混ざるためです。
- 回数:乱数を使うので、同じ組み合わせを 2〜3 回繰り返し、数字がどれくらいぶれるかも見ておきます。
結果は次の基準で読みます。
- 段階 2 が段階 1 に勝ち越し、段階 3 が段階 2 に勝ち越していれば、段階が強さの順に並んでいます。
- 差がほとんど出ないなら、その段階の evaluate が弱いか、読む深さが足りないかのどちらかです。
- 段階 3 同士の対戦(tally(3, 3))も試してみてください。両方が最善に近いとき、勝敗が先手・後手のどちらかに偏るなら、ゲーム自体の有利不利が出ています。
このゲームで読み深さを pickMove(s, 3, 5) のように浅くするとどうなるかも、ぜひ試してください。先が見えない手はすべて同じ 0 点になるので、段階 3 の強さが段階 1 に近づくはずです。確かめるのは読者の手元です。
5. 実際のゲームに移すときの落とし穴
例題を自分のゲームに移すとき、つまずきやすい点が 4 つあります。
評価関数が段階 3 の強さを決める
例題は終局まで読み切れるので、評価は勝ち・負けだけで足ります。オセロやチェスは終局まで読めないため、途中の盤面に点をつけます。ここが雑だと、深く読んでも強くなりません。まずは石の差や駒の価値などの単純な式から始めて、段階 2 と 3 の勝率差で改善を確かめます。
読む深さは、待たせてよい時間で決める
深さを 1 増やすと、探索する局面数は手の選択肢の数だけ増えます。ブラウザで動かす以上、プレイヤーを長く待たせるわけにはいきません。「灯りのチェス」は CPU の思考時間を約 450ms に制限しています。自分のゲームでも、最初に待たせてよい時間を決め、その範囲に収まる深さを選ぶのが現実的です。
パスや連続手番を扱えるようにする
ゲームによっては、打てる手がなく手番が飛ぶことがあります。「潮目のオセロ」では、置けない手番は自動でパスになります。moves が空のとき、Math.max() は空の配列に対して -Infinity を返します。search の中で「手がなければ手番だけ交代して続ける」処理を足しておかないと、先読みが止まります。
段階を「強さ」だけで決めない
初心者向けの段階は、弱いだけでなく「負けても納得できる」相手にしたいところです。段階 3 の最高点の手を、たまに 2 番目の手に差し替える方法もあります。ただし、わざとの悪手は不自然に見えます。段階の差は、まず読む深さと評価の細かさで作り、そのうえで調整します。
次の行動
まず上のコードを貼って実行し、tally(2, 1)、tally(3, 2)、tally(3, 1) の数字を確かめてください。次に、同じ 3 関数の切り分けで自分のゲームの moves・apply・over を書き、evaluate を最も単純な式で入れてみます。仕上げに「潮目のオセロ」か「灯りのチェス」で 3 段階を打ち比べ、自分のゲームの段階に何を期待するかを決めておくと、作り込みの方向がはっきりします。

