もし失敗するほど簡単になるゲームがあったら
遊びを見つける執筆にClaudeを使用しています。

あるアクションゲームを遊ぶ場面を考えてみます。敵の弾に当たってやられるたびに、次の挑戦では弾が少し遅くなり、当たり判定が少し小さくなります。三回やられれば、かなり楽になります。十回やられれば、ほとんど何も起きない画面を歩くだけになります。逆に、一度もやられずに進むと難しさはそのままです。つまりこのゲームでは、失敗が増えるほど先へ進みやすくなります。 この仕組みは、つまずいた人を置き去りにしないという点では親切です。それでも多くの人は、どこかに違和感を覚えるはずです。この記事で確かめたいのは、救済を極端にしたときに「やってやろう」という挑戦の気持ちが残るのかどうかです。残るなら、どんな条件でか。壊れるなら、どこで壊れるのか。答えを断定するのではなく、判断の材料と、自分で確かめる手順を並べていきます。
救済には三つの種類がある
「失敗した人を助ける」仕組みは、ひとまとめにされがちですが、働き方で三つに分けられます。
- 難しさそのものを下げる:弾が遅くなる、的が大きくなる、制限時間が延びる。ゲームの側が黙って条件を変えます。
- やり直しを安くする:一手戻す、チェックポイントから再開する。条件は変えず、失敗の痛みだけを減らします。
- 情報を足す:ヒントや軌道の予測線を見せる。条件は同じまま、何をすればよいかが分かりやすくなります。
題名のゲームは一つ目の極端な形です。ゲーム業界では、プレイヤーの状況に合わせて難しさを動かす考え方を「動的難易度調整」と呼びます。レースゲームで先頭との差が開くと後続が追いつきやすくなる仕組みも、この仲間として広く知られています。
三つの違いが大切なのは、「挑戦の気持ち」が何に支えられているかが違うからです。二つ目と三つ目は、プレイヤーが自分で使うかどうかを選べます。一つ目は多くの場合、選べません。選べないまま効いてしまう救済は、次の節で見るように別の問題を生みます。
極端にすると何が起きるか
思考実験として、救済を極端にしたゲームを考えてみます。失敗のたびに難しさが大きく下がり、成功しても上がらないとします。
失敗が最良の戦略になる
まず起きそうなのは、「わざと失敗する」という動きです。最初の数回をあえて落とせば、その先が楽になります。しかも、全力でやって成功するより、手を抜いて失敗を重ねてから進むほうが安全です。このとき、プレイヤーの上手さと進行の関係が逆転します。
ここで大事なのは、わざと失敗する人が悪いわけではないという点です。ルールがそうすることを最適にしているので、合理的な人ほど同じ行動を選びます。仕組みが挑戦をゆがめている、と読むのが自然です。
成功の価値が薄まる
次に、わざと失敗しない人にも影響が出ます。クリアしたあとで「自分の腕でここまで来た」と思えるかどうかです。後半の難しさが、そこまでの失敗の数で決まっていたと知ったら、成功の手応えは下がりそうです。挑戦の気持ちには、「うまくいくかどうか分からない」という不確実さと、「成功したら自分の力だ」という帰属の二つが関わっていると考えられます。極端な救済は、この二つを同時に削ります。
気づかれない救済と気づかれる救済
もう一つの分かれ目は、救済に気づくかどうかです。気づかれない救済は、プレイヤーが自分の上達だと思い込めるので、気分は保ちやすい反面、あとで知ったときに裏切られた感じを生みやすくなります。気づかれる救済は、プレイヤーが「助けてもらっている」と分かった上で受け取れますが、使うこと自体に心理的な抵抗が生まれることがあります。
ここまでの話は、あくまで考え方の整理です。実際にどの程度そうなるかは、ゲームの種類や遊ぶ人で変わります。だからこそ、後の節で確かめ方を示します。
公式作品に見る救済の置き場所
アソバースの公式作品には、救済の入れ方が異なるものがいくつかあります。確認済みの範囲で、設計から読み取れることを挙げます。細かな画面や数値のふるまいは、作品を開いて確かめてください。
- こだまの森:光る葉の順番を覚えて音色で返す記憶ゲームです。聴き直しは15点減、間違いは30点減で、3回で終了です。救済(聴き直し)に点数という代償が付いています。助けは使えますが、無料ではありません。
- かたちのあいだ:ヒントは次の一手を示しますが、最短とは限りません。一手戻しても手数は減りません。助けるけれど、成績への影響は残る形です。ここから、救済は「失敗をなかったことにする」のではなく「失敗しても続けられる」ために置かれている、と読み取れます。
- 時計じかけの台所:時間制限なしの見習いと、1皿28秒・配膳6秒・ミス3回までの本番があります。難しさの救済が、ゲームの中で自動的に変わるのではなく、モードとして遊ぶ人に選ばせる形です。
- 潮目のオセロ:ひとり対局には3段階の相手、理由付きヒント、一手戻すがあります。ヒントと一手戻すはひとり対局のみで、友達とのオンライン対局では使えません。人と競う場面では、救済を外しているわけです。
並べると、救済を入れるときの共通の工夫が見えてきます。
- 代償を付ける、例:こだまの森の聴き直し、挑戦への効き方:使うかどうかが判断になる
- 成績に痕跡を残す、例:かたちのあいだの手数、挑戦への効き方:助けを使っても達成の質が見える
- 選ばせる、例:台所の見習い/本番、挑戦への効き方:遊ぶ人が難しさを決める
- 場面で切る、例:オセロのオンライン対局、挑戦への効き方:対人では公平さを優先する
題名のゲームは、この四つのどれも持っていません。代償もなく、痕跡も残らず、選べず、場面でも切れていません。挑戦の気持ちが危うくなる理由は、救済の強さそのものより、この四つの欠如にあると考えられます。
自分のゲームで確かめる設計
ここからは、読み物ではなく実験の設計書として書きます。問いは次のとおりです。
問い:失敗に応じて難しさが下がる強さ(K)を変えると、遊ぶ人の「わざと失敗する行動」と「やり終えたあとの手応え」はどう変わるか。
準備するもの
次の最小のHTMLを保存して、ブラウザで開きます。的が出て0.9秒で消え、クリックできれば命中、消えれば失敗です。失敗すると的が大きくなり、命中すると少し小さくなります。Kが救済の強さで、0なら救済なしです。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<button id="b" style="position:absolute;border-radius:50%;border:0;background:#e85"></button>
<p id="log">的をクリックしてください</p>
<script>
const K = 0.15; // 0:救済なし。0.15と0.5などに書き換えて比べます
let size = 40, hit = 0, miss = 0, n = 0, timer;
const b = document.getElementById("b"), log = document.getElementById("log");
function show() {
if (n >= 30) { b.remove(); log.textContent = `命中${hit} 失敗${miss} 最終サイズ${Math.round(size)}`; return; }
n++;
b.style.width = b.style.height = size + "px";
b.style.left = Math.random() * (innerWidth - size) + "px";
b.style.top = 60 + Math.random() * Math.max(0, innerHeight - size - 80) + "px";
timer = setTimeout(() => { miss++; size = Math.min(300, size * (1 + K)); show(); }, 900);
}
b.onclick = () => { clearTimeout(timer); hit++; size = Math.max(20, size * (1 - K / 2)); show(); };
show();
</script>ほかに、遊んでくれる人(できれば複数)、紙かメモ、時計を用意します。
手順
- Kを0、0.15、0.5の3種類にして、別々のファイルとして保存します。
- 遊ぶ人ごとに、3種類を遊ぶ順番を入れ替えます。全員が同じ順だと、慣れの影響が混ざります。
- 遊ぶ前に、救済があることを伝えるグループと、伝えないグループに分けます。
- 1回につき30回の的が終わるまで遊んでもらいます。終了画面の数値を書き写します。
- 遊び終えるごとに、「手応え」を1〜5の数字で答えてもらいます。「途中でわざと見送ったか」も、はい/いいえで答えてもらいます。
記録の取り方
1回の試行ごとに、次の項目を一行で記録します。
- 遊ぶ人の識別(名前でなく番号)
- K
- 救済を伝えたか
- 命中数、失敗数、最終サイズ
- 手応え(1〜5)
- わざと見送ったか
同じ条件を、できれば一人あたり2回以上遊んでもらいます。1回だけだと、その日の調子の影響が大きくなるためです。
結果の読み方
結果は、遊ぶ人と条件によって変わります。ここでは、結果が出たときの判断の目安だけを示します。
- Kが大きいほど「わざと見送った」が増え、最終サイズが上限近くに張り付くなら、救済が最適戦略をゆがめている可能性があります。
- 手応えがKによって大きく変わらないなら、その程度の救済は挑戦の気持ちを損なっていないと考えられます。
- 救済を伝えたグループだけ手応えが低いなら、問題は強さではなく「助けられていると知ること」かもしれません。
- Kが大きくても手応えが保たれる人がいるなら、その人は難しさ以外のもの(反応の気持ちよさなど)を楽しんでいる可能性があります。
起こりやすい誤り
- 作った本人が遊ぶと、仕組みを知っているため、わざと見送る行動が出やすくなります。
- 人数が少ないうちは、一人の癖が結果を左右します。傾向としてだけ読んでください。
- 手応えの質問の言い方で答えが変わります。毎回同じ文面で聞いてください。
- 最終サイズの上限(コード中の300)に達すると、それ以上の差が見えなくなります。上限を変えると結果も変わります。
次の行動
まず上のコードをKだけ変えて三通り作り、身近な人に順番を入れ替えて遊んでもらってください。そのうえで、聴き直しに代償があるこだまの森と、見習いと本番を選べる時計じかけの台所を開き、救済がどこに置かれているかを自分の目で確かめると、数字の読み方がつかみやすくなります。自分のゲームで試した救済の形があれば、アソバースにはHTMLのまま投稿でき、公開前に下書き保存で確認できます。
