もしプレイヤーが二人いて、片方だけ盤面が見えたら
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向かい合って座るふたりの間に、一枚の盤があります。片方の画面には全マスの配置が映り、もう片方の画面にはほとんど何も映りません。見えない側は、一手ごとに相手の反応を頼りに進むしかありません。この遊びは、公平だと言えるでしょうか。 直感では、見える側が圧倒的に有利に思えます。ところが、見える側の動きや言葉は、そのまま見えない側への手がかりにもなります。情報を持つことは強みであると同時に、隠し通す難しさも背負うことです。この記事では、情報の差が極端なゲームで公平さを組み立てる方法を整理します。最後に、紙と鉛筆だけで自分で答えを出せる実験の設計書も載せています。
「公平」には少なくとも三つの意味があります
「公平なゲーム」と言うとき、実は別々のことを指していることがあります。非対称なゲームでは、この区別が特に大事です。
- 結果の公平:同じ実力のふたりが何度も遊んだとき、勝ち数が極端に偏らないことです。
- 機会の公平:役割を交代すれば、誰もが同じ立場を同じだけ経験できることです。
- 体験の公平:どちらの役も、考える余地があって面白いことです。勝てても何もしていない感覚が残るなら、体験は公平とは言えません。
盤面が片方にしか見えないゲームで、1回ごとの結果を完全に五分にするのは困難です。そこで、機会の公平を役割交代で確保します。そのうえで、結果と体験の公平を、ルールの調整で近づけていきます。
見える側は本当に得なのか
情報の持ち方によるゲームの分類を、先に整理しておきます。オセロやチェスのように、盤面のすべてが両者に見えるゲームを「完全情報ゲーム」と呼びます。トランプの手札のように、相手に見えない情報があるゲームは「不完全情報ゲーム」です。今回の問いは、不完全情報の差を片方に極端に寄せた場合にあたります。
見える側には、確かに利点があります。相手の位置も、危険な場所も、すべて分かっているからです。しかし、弱点もあります。
- 見える側の行動は、見えない側にとって唯一の手がかりになります。
- 本当のことを言うだけなら、相手を助けるだけになります。
- 嘘をつけるなら、いつ使うかを悩むことになります。使いすぎると信用されなくなります。
ポーカーのように、手札を隠して賭けるゲームがよく似た構造です。強い手札で大きく賭けると、相手は「強いのだろう」と読みます。そこで強い札でも小さく賭ける、弱い札で大きく賭ける、という工夫が生まれます。見える側の仕事は、見えていることを活かしながら、見えていることを悟らせないことです。
つまり、見える側が一方的に有利かどうかは、ルール次第です。ルールを変えれば、見える側の勝ち筋を細くすることも、広げることもできます。
公平さを組み立てる五つの道具
情報の差があるゲームで、公平さを調整する手段を、次の五つに整理してみます。
- 役割交代、何を動かすか:ラウンドごとに見える側と見えない側を入れ替えます、気をつける点:役の習熟差が出ないよう、交代の回数をそろえます
- 見えない側への補償、何を動かすか:質問できる回数、ヒント、やり直しを与えます、気をつける点:与えすぎると、見える側の役割が空洞になります
- 見える側への制約、何を動かすか:話せる言葉の種類を限る、時間を区切る、といった縛りです、気をつける点:縛りが厳しすぎると、考える余地がなくなります
- 情報の部分公開、何を動かすか:盤面の一部を最初から両者に見せます、気をつける点:公開する場所によって、勝ち筋が偏ることがあります
- 勝利条件の非対称、何を動かすか:見える側と見えない側で、勝ち方を別に決めます、気をつける点:勝敗の重みが釣り合っているかを、数回遊んで確かめます
どの道具も、1つだけを強く効かせるより、少しずつ組み合わせるほうが扱いやすいです。たとえば「役割交代+見えない側に質問回数を少し」のように重ねます。なお、道具を足すときは1度に1つだけにします。複数を同時に変えると、どれが効いたのか分からなくなるためです。
紙と鉛筆で確かめる設計書「案内人と旅人」
ここからは、読者が自分で行える実験の設計書です。結果はここでは書きません。ふたり、紙、鉛筆、衝立(ついたて)代わりの本があれば足ります。
問い
見える側の嘘の上限を変えると、勝敗はどう偏るでしょうか。どの上限なら、ふたりとも「納得して負けられる」でしょうか。
準備するもの
- 5×5の格子を描いた紙(案内人用に10枚ほど)
- 鉛筆
- 案内人の紙を旅人から隠す本や板
- 記録用の紙
- 時計かタイマー(任意)
ルール
- 案内人が、旅人から見えないように、紙の格子に罠を5個描きます。スタートの左下とゴールの右上には置きません。
- 案内人は、罠を避けてゴールへ行ける道が少なくとも1本あることを、自分で確認します。
- 旅人は左下から出発し、一手ごとに「上」「下」「左」「右」のどれかを宣言します。盤の外へ向かう宣言は無効で、数えません。
- 案内人は「進んで」か「待って」の一言だけで答えます。「進んで」と言われたら、旅人はそのマスへ進みます。そこが罠なら旅人の負けです。「待って」と言われたら、その場にとどまって次の宣言をします。
- 正直な答えは、安全なマスに「進んで」、罠のマスに「待って」です。案内人は、嘘を最大K回までつけます。嘘とは、罠のマスに「進んで」と言うこと、または安全なマスに「待って」と言うことです。
- Kは旅人に公開します。案内人は、使った回数を自分の紙にメモします。
- 旅人がゴールに着けば旅人の勝ちです。罠を踏むか、宣言が合計20回に達してゴールできなければ、案内人の勝ちです。
Kが0なら案内人は嘘をつけないので、基準の条件になります。Kが1以上になると、旅人は「待って」を本当と受け取るか、嘘かもしれないと疑うかを考えることになります。たとえば同じマスへの宣言に2回続けて「待って」が返り、Kが1なら、少なくとも1回は本当です。こうした推論が、旅人の側の楽しさです。
記録の取り方
条件はK=0、1、2、3の4通りで、罠の数は5個に固定します。1度に変えるのはKだけです。各条件で10ゲームを遊び、そのうち5ゲームずつ、案内人と旅人を交代します。1ゲームごとに、次の項目を記録します。
- 条件(Kの値)
- 案内人は誰か
- 罠の配置を描いた紙の番号
- 勝った側
- 宣言の回数
- 案内人が実際に使った嘘の回数
- 旅人の納得感(1〜5点)
- 案内人の納得感(1〜5点)
納得感は、ゲームの直後に、相談せずに各自が書きます。勝ち負けを聞いてから書くと、結果に引きずられるためです。
結果の読み方
読み方の目安を、先に決めておきます。以下は判断のものさしであり、実験の結果ではありません。
- 10ゲームのうち、案内人が勝った数が極端に片側へ偏る(たとえば8勝以上、または2勝以下)なら、その条件は調整の候補です。5勝前後なら、偶然の範囲に収まっている可能性が高いです。
- 10ゲームは少ないので、差が小さければ「どちらとも言えない」と判断し、その条件を20ゲームまで増やします。
- Kを上げても案内人の勝ち数がほとんど変わらないなら、嘘が効いていないと考えられます。旅人が「待って」を信用していないか、宣言の上限が緩すぎる可能性があります。
- 勝敗が五分でも、双方の納得感が低いなら、体験の公平は満たせていません。「運で決まった」感覚が強いなら、質問回数のような補償を足す案を検討します。
- 案内人の納得感だけが低いなら、見える側の役割に考える余地が足りない可能性があります。嘘をつくべき場面が少ないか、制約が厳しすぎないかを見直します。
起こりやすい誤り
- 罠の並びの癖:案内人が毎回同じ形を選ぶと、旅人が先に学習します。紙ごとに配置を変えます。
- 表情や間で嘘が漏れる:嘘をつくときに声の調子や間が変わると、情報が漏れます。気になるなら、旅人は目を閉じて聞くか、案内人は顔を隠して答えます。
- 条件の順番:K=0から順に上げると、旅人がだんだん慣れていきます。順番は入れ替えて試します。
- 役の習熟差:片方が先に案内人を経験すると、勝ち方を覚えます。交代のタイミングは前もって決めます。
- 経路の確認忘れ:ゴールへの道がない配置を作ると、必ず案内人が勝ちます。描いたあとに必ず確かめます。
作る人へ:画面を共有して作るときの考え方
この考え方をブラウザゲームにするとき、隠し情報の扱いが最大の課題です。アソバースの確認済みの範囲で整理します。
潮目のオセロや灯りのチェスのように、オセロやチェスは盤面のすべてが両者に見えるゲームとして知られています。アソバースではこの2作品のオンライン対戦で、手番・合法手・勝敗をサーバーで確認しています。ただし、オンライン対戦の対象はこの2作品のみで、投稿作品向けの共通対戦APIは現在未提供です。投稿作品でオンラインの非対称対戦を作れるかどうかは、現在の案内で確認してください。
そこで、投稿作品で試すなら、同じ画面を交代で使う形が現実的です。
- 見える側の入力が終わったら、いったん「画面を相手に渡してください」という確認画面を挟みます。
- 見えない側の番では、秘密の情報を画面に出さないようにします。
- 見える側が見ている間は、見えない側が目を閉じるか、背を向けます。
一般論として、秘密の情報を端末のなかに持っているゲームは、仕組み次第で、その端末の持ち主に読み取られる可能性があります。ブラウザで動くプログラムは、使う人が中身を調べられるためです。公平さが大事なゲームほど、「秘密をどこに置くか」を最初に決めておく必要があります。
次の行動
まず、紙と鉛筆で「案内人と旅人」を、K=0とK=1の2条件だけでも10ゲームずつ遊んでみてください。勝敗と納得感の両方を記録すると、どこを調整すべきかが見えてきます。全情報が見える遊びとの違いを体感したいときは、アソバースで潮目のオセロや灯りのチェスをひとり対局で開き、盤面が両者に見える遊びの感覚と比べてみるのも一案です。

