録音を聞き返して、ずれた音を探す
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弾いている最中の耳は、次に押す鍵盤のほうへ向いています。そのため、自分では揃っているつもりの8音が、聞き返すと3音目だけ詰まっていたり、最後の音だけ遅れていたりすることがあります。演奏中は「次を弾く」ことで頭がいっぱいで、今鳴った音を評価する余裕がほとんどないからです。 この記事で確かめる問いは、録音を聞き返せば、ずれた音を「どの音が、どの方向に、どんな種類で」ずれたかまで特定できるか、です。感覚で「なんとなく不揃い」と思うだけでは、次の練習で何を直せばよいか決まりません。録音を材料にして、音ごとにメモを取る手順を作ります。 使うのは「雨音のピアノ」です。30秒・128音までの録音をその場で再生できるので、短いフレーズを弾いて、すぐ聞き返す練習に向いています。結果は読者それぞれの演奏で決まるため、ここでは結果を書かず、記録の取り方と読み方を示します。
ずれには3種類ある
聞き返す前に、探すものを分けておきます。「ずれ」を一つの言葉でまとめると、聞き返しても「なんか変」で終わってしまうからです。
- タイミングのずれ:前の音との間隔が、ほかの音より長い、または短いずれです。拍に対して早い、遅いも含みます。
- 音のずれ:押す鍵盤そのものを間違えたものです。隣のキーを押した場合などです。
- 強さ・長さのずれ:1音だけ極端に強い、または弱い、あるいは前の音が消える前に次が重なってしまうずれです。
最初の聞き返しでは、この3種類に「T(タイミング)」「P(音の高さ)」「D(強弱・長さ)」の記号を割り当て、聞こえた順に印をつけます。Dは、タッチの設定や余韻の長さにも左右されます。「機械が悪い」のか「指が悪い」のかを混同しないために、手順の最初で設定を固定します。
準備:条件を固定して、動かすのは指だけにする
録音を比べるときの原則は、1回ごとに変えてよいものを一つだけにすることです。以下を決めてメモしておきます。
- 音色:フェルトかガラスのどちらか一つ。
- タッチ:3段階のうち中間を目安にします。強すぎると音量の差が目立ち、弱すぎると差が聞き取りにくくなります。
- 余韻:切り替えられるので、最初は短めにします。余韻が長いと音が重なって、間隔の違いが聞き分けにくくなります。どちらが短いかは、作品を開いて実際に鳴らして確かめてください。
- フレーズ:8音程度の短いもの。たとえばキーボードの A S D F G F D S の並びです。キーはA W S E D F T G Y H U Jが使えます。それぞれがどの高さに当たるかは、Z/Xで音域を変えた状態で画面を見て確かめてください。白鍵に当たるキーだけを使えば、押し間違いの原因が減ります。
- テンポ:1拍1音で、ゆっくりした1分間60〜80拍。速さは「余裕で弾ける」より少し遅いくらいが適切です。
テンポの基準には、簡単なメトロノームを使います。次のコードを metronome.html のような名前で保存し、ブラウザで開くと使えます。外部の通信もライブラリも使いません。
<button id="b">開始 / 停止</button>
BPM <input id="t" type="number" value="70" min="30" max="160">
<script>
let ctx, timer = null;
const b = document.getElementById('b');
const t = document.getElementById('t');
function click() {
const o = ctx.createOscillator();
const g = ctx.createGain();
o.frequency.value = 1000;
g.gain.setValueAtTime(0.3, ctx.currentTime);
g.gain.exponentialRampToValueAtTime(0.001, ctx.currentTime + 0.05);
o.connect(g);
g.connect(ctx.destination);
o.start();
o.stop(ctx.currentTime + 0.06);
}
function tick() {
click();
timer = setTimeout(tick, 60000 / Number(t.value));
}
b.onclick = () => {
ctx = ctx || new AudioContext();
if (timer) { clearTimeout(timer); timer = null; }
else tick();
};
</script>このメトロノームは setTimeout で動くため、ブラウザの状況によって間隔が少し揺れることがあります。厳密な計測器ではなく、拍の目安として使います。別のタブに隠れると間引かれることがあるので、ウィンドウを並べて表示してください。
手順:録って、聞いて、印をつける
ここからが本体です。用意するのは紙とペン(または表計算)です。
- メトロノームを鳴らす:BPMを70前後にして開始します。4拍ぶん聞いて、拍の感覚を作ります。
- 録音を始める:「雨音のピアノ」で録音を始めます。録音ボタンを押してから最初の音までの空白がどう扱われるかは、画面を見て確かめてください。以降の手順では、その空白を気にしなくてよいように、最初の音を基準にします。
- フレーズを2周弾く:8音を2周、計16音です。録音は30秒・128音までなので、余裕があります。長く録るほど聞き返しが大変になるため、使い切る必要はありません。
- 録音を止めて再生する(1回目):メモは取らず、通して聞くだけです。全体の印象、つまり「どこかで引っかかったか」だけを確認します。
- 再生する(2回目):最初の音に合わせて、指で机を一定の速さで叩き始めます。その拍に各音が乗っているかを聞き、乗っていない音に印をつけます。基準にするのは、録音の最初の音とその後の叩きの拍で、メトロノームの音は録音に入っていません。そのため「絶対的な遅れ」ではなく、「周回を通した間隔の揺れ」を探すことになります。
- 再生する(3回目以降):印をつけた音だけを狙って聞き直します。1音ずつ前後2音ぶん聞いて、T・P・Dのどれかを判断します。
- 表にまとめる:次のように、音の位置と種類を記録します。
- 1、何音目:3、種類(T/P/D):T、向き・様子:前より詰まった
- 1、何音目:8、種類(T/P/D):D、向き・様子:強すぎた
- 2、何音目:3、種類(T/P/D):T、向き・様子:また詰まった
表の中身は、あくまで書き方の例です。実際の記録は読者自身の演奏で決まります。
結果の読み方:どこを直すかを決める
表ができたら、次の基準で読みます。
- 同じ位置が2周とも印つき:指の運びや運指に原因がある可能性が高いと考えられます。たとえば、3音目の前で指を移動する位置の準備が遅れている、といった場合です。その位置の前後3音だけを取り出して練習します。
- 印が周ごとにバラバラ:特定の癖ではなく、集中や疲れによる揺れかもしれません。テンポをさらに落とすと、印が減るかを見ます。
- Pの印が多い:テンポより先に、鍵盤の位置の確認が必要です。キーを見ながら弾き、白鍵のキーだけに絞り直します。
- Dの印が多い:タッチ設定が合っていない可能性もあります。タッチを一段階変えて、同じフレーズで弾き直してみてください。ただし、変えるのは1回に一つだけです。
- 印がほとんどない:テンポを少し上げるか、フレーズを延ばして再度録ります。
録音は、画面を開いている間だけ残ります。再読み込みやタブを閉じると消えるので、前回の記録と比べたいときは、表を手元に残しておきます。録音そのものに頼らないほうが安全です。
起こりやすい誤り
- 一度に全部直そうとする:印が6つあっても、次の録音で直すのは1点だけにします。複数を同時に動かすと、どれが効いたか分からなくなります。
- 再生音の遅れを自分のずれと思い込む:端末やイヤホンの種類によっては、音が出るまでに遅れが出ることがあります。遅れが一定なら全体が後ろへ平行移動するだけで、音同士の間隔は変わりません。見るのは音同士の間隔の揺れで、絶対的な位置ではありません。
- 揺れをすべて失敗とみなす:人の演奏には自然な揺れがあります。フレーズの終わりで少し遅くするのは、表現として使われることもあります。印をつけたあと、「直したい揺れ」と「残したい揺れ」を分けてください。
- 聞き返しの回数を増やしすぎる:同じ録音を何度も聞くと、耳が慣れて違いが分からなくなります。聞くのは3〜4回までにして、あとは弾き直します。
- メトロノームに合わせることだけが目的になる:メトロノームは基準を与える道具です。目的は、拍に対する自分の癖を知ることです。
記憶ゲームと組み合わせる
「雨音のピアノ」には、3音から8音へ育つフレーズの記憶ゲームがあり、お手本の速さを選べます。お手本の速さを、先ほど決めたテンポに近づけて遊ぶと、お手本の間隔が自分の間隔の基準になります。遊んだあとに、同じフレーズを自由演奏で録音して聞き返すと、「お手本の間隔」と「自分の間隔」の差を耳で確かめられます。お手本の速さの選択肢がどんな段階になっているかは、作品を開いて確かめてください。
リズムの揺れをもう少し視覚的に確かめたいときは、「WAVE / WAVE」が使えます。4つの音を16ステップに並べ、テンポを決めてループ再生する作品です。同じ音型をステップに置いた状態と、パッドで演奏して録音した状態を聞き比べると、ステップの正確さに対して自分の演奏がどちらへ傾くかが分かります。保存の対象に何が含まれるかは、作品を開いて確かめてください。
次の行動
まず、8音のフレーズとテンポを決め、2周ぶんを録音してください。1回目は聞くだけ、2回目から机を叩きながら印をつけ、表を作ります。次の練習では、そのうち1点だけを直すつもりで、もう一度録音してください。



