紙の試作を他人に遊んでもらう:画面がなくてもテストはできる
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

カードゲーム風のパズルを思いついて、画面を作る前に、厚紙を切ってルールカードを1枚書いたところを考えてみます。初めて見る人にそれを渡して、「好きに遊んでみてください」とだけ言います。作者は何も説明せず、横で黙って見ています。 そこで起きることは、頭の中の想像とだいぶ違うかもしれません。最初の一手の前で手が止まる、目標の一文を読み飛ばす、想定していない置き方をする、などです。これらはコードが1行もない段階で見えます。コードを書いてから気づくと、直す対象が画面、入力処理、演出と広がっていますが、紙の段階なら書き換えるのはカードの文字と配置だけです。 この記事の問いは、「画面がなくても、どこまで確かめられるのか」です。以下は、その答えを読者自身が出すための実験の設計書です。何人に、何を、どう記録し、どう読むかを順に示します。結果はここには書きません。結果は、読者が行う観察から得られるものです。
紙で確かめられること、確かめられないこと
最初に、紙の試作で答えが出る問いと出ない問いを分けます。この線引きを曖昧にすると、観察の結論が過大にも過小にもなります。
- ルールが読んで伝わるか、確かめられない:操作の気持ちよさ
- 最初の一手で迷う場所、確かめられない:反応速度に対する難しさ
- 目標が伝わるか、確かめられない:アニメーションや効果音の印象
- 選択肢が多すぎないか、確かめられない:画面の小ささによる見づらさ
- 一周(一局)の長さの感覚、確かめられない:長時間遊んだときの疲れ
- 詰まる場所、手が止まる場所、確かめられない:画面上の文字の読みやすさ
左の列は、ルールと判断に関する問いです。右の列は、体で感じる部分と見た目に関する問いです。紙の試作が得意なのは左の列です。
実験の最初の作業は、問いを一つに絞ることです。たとえば次のような文にします。
- 説明なしで、ルールカードだけから最初の一手まで進めるか。
- 3ターン目までに、「何をすれば勝ちに近づくか」が言葉になるか。
- 選択肢が増えるターンで、手が止まる時間が極端に長くならないか。
一度の実験で問いを複数立てると、記録が散らかります。まず「最初の一手まで進めるか」のように、行動で判定できる問いを一つ選びます。「面白いか」は問いとして広すぎるので、このあと観察の結果から別途考えます。
準備するもの
高価なものは不要です。以下を用意します。
- ルールカード1枚:目標と、1ターンでできることだけを書きます。紙の裏表に収まる分量にします。
- 盤・カード・駒:厚紙、付箋、硬貨、消しゴムなどで代用します。
- 記録用紙:次の節の表を印刷するか、手書きで写します。
- タイマー:スマートフォンのストップウォッチで十分です。
- 遊んでもらう人:3〜5人。制作の事情を知らない人が理想です。家族や友人なら、ゲームの内容を聞いたことがない人を選びます。
- 録音の手段:相手の同意が取れる場合のみ、音声を録ります。録らない場合は記録用紙に頼ります。
画面で動くはずの処理は、作者が「コンピューター役」として代行します。たとえば得点計算や山札の入れ替えです。ただし、代行するのは規則どおりの処理だけです。ルールに書いていない助け舟は出しません。
手順
一人あたりの所要時間は10〜15分を目安に、次の順で進めます。
- ルールカードを渡します。 渡すときに言う台詞は、「このカードを読んで、好きなように遊んでみてください。途中で質問されても、答えられないことがあります」の程度にします。ゲームの狙い、おすすめの戦略、面白い点は話しません。
- 声に出してもらいます。 「考えていることを、そのまま口に出してください」と頼みます。黙って考える人には、「いま何を見ていますか」と一度だけ聞きます。聞きすぎると考えの流れを壊します。
- 作者は黙って記録します。 質問されたら、「ルールカードに書いてある範囲で」と返します。カードに書いていないことを聞かれたら、答えずにその質問を記録します。この質問こそが、直すべき箇所の候補です。
- 5秒以上止まったら印をつけます。 止まった場所(どのターン、どの場面か)と、おおよその長さを書きます。
- 決めた区切りで終了します。 区切りは、「ゲームが終わるまで」か「5ターン目まで」のように、実験前に決めておきます。
- 終了後に三つだけ聞きます。 「このゲームの目標を、自分の言葉で説明してください」「いちばん迷ったのはどこですか」「次に遊ぶとしたら、何を変えたいですか」の三つです。感想を広く聞くより、短い質問のほうが答えが具体的になります。
直すタイミングを決めておく
1人終わるごとに直すかどうかは、事前に決めておきます。目安は次のとおりです。
- 最初の2〜3人は、同じ版のまま続けます。同じ場所で止まるかどうかを比べるためです。
- ルールの誤記や、明らかな抜け(駒の置き場所が書かれていない、など)は、その場で直してかまいません。直した版には「版2」のように名前をつけ、記録用紙にも版を書きます。
- 3〜5人終えたら、記録を並べて直す箇所を選びます。
記録の取り方
記録は、観察したことと解釈したことを別の欄に書きます。この二つが混ざると、後から読み返したときに、事実と推測の区別がつかなくなります。
- ターン、書くこと:何ターン目か、例:2ターン目
- 発話、書くこと:聞こえた言葉をそのまま、例:「これ、どっちに置くの?」
- 止まった長さ、書くこと:5秒以上の沈黙に印と秒数、例:約10秒
- 質問、書くこと:カードに書かれていない問い、例:「同じ色は続けて使える?」
- ルールの誤り、書くこと:誤解したまま進めた箇所、例:目標を「多く集める」と読んだ
- 反応、書くこと:笑い、ため息、身を乗り出す、例:ため息
- 解釈(後で記入)、書くこと:原因の推測、例:目標の一文が、最後に書いてある?
解釈の欄は、その場では書かず、セッションが終わってから埋めます。その場で原因を考え始めると、次の観察を取りこぼします。
回数の目安は、一人1セッションで、3〜5人です。1人だけでも発見はありますが、「その人だけの癖」か「共通の詰まり」かは判別できません。
記録の単位は、ターンごとです。ターンの区切りが曖昧なゲームでは、「プレイヤーが何かを置く・動かす・捨てる」といった一つの操作を1行として扱います。
結果の読み方と、起こりやすい誤り
記録をどう読むか
記録が3〜5人分たまったら、人ごとではなく場所ごとに並べ直します。「2ターン目の止まり」「目標の読み違い」のように、同じ場所に印が集まるかを見ます。
読み方の目安を、判断のしかたとして示します。なお「3人中2人以上」などの数字は、統計的な根拠のある基準ではなく、直すかどうかの目安です。
- 複数の人が同じ場所で止まった場合は、ルールの書き方か、配置の見せ方に原因がある可能性があります。説明の順番、図の有無、用語を見直します。
- 一人だけが止まった場合は、個人の癖や、その日の状態かもしれません。次の人でも起きるか確かめるまで、直さずに保留します。
- 似た質問が繰り返された場合は、その答えをルールカードに書き足す候補です。答えが一文で済むなら書き足し、済まないなら、ルール自体が複雑すぎないかを疑います。
- 誤解が同じ方向に揃った場合は、人が間違えたのではなく、ルールが自然な推測と逆向きになっている可能性があります。ルールを説明に合わせるより、ルールを推測に合わせる選択肢も考えます。
- 全員が同じ手を選んだ場合は、選択肢に実質的な違いがないのかもしれません。「選ぶ意味」が設計できているか検討します。
- 手が止まる時間が毎ターン長い場合は、選択肢が多すぎるか、情報が散らばっている可能性があります。選択肢を減らすか、判断に必要な情報を一か所にまとめます。
発言にも注意が必要です。「面白かった」という感想は嬉しいものですが、次にどこを直すかを教えてくれません。それよりも、手が止まった場所、笑った場面、もう一度やりたいと言った瞬間といった行動のほうが、設計の手がかりになります。
起こりやすい誤り
- 作者が説明してしまう。 黙って見ているのは苦しいものですが、説明した瞬間、その箇所は「伝わるか」を確かめられなくなります。質問は記録だけして、答えを後に回します。
- 遠慮されやすい相手に頼む。 親しい人は「分かりにくい」と言いにくいことがあります。感想ではなく、行動を見る設計にしておけば、遠慮の影響を減らせます。
- 誘導する質問をする。 「ここ、分かりにくくなかったですか」と聞くと、相手は「そう言われれば」と答えます。「どこで迷いましたか」のように、内容を指定しない聞き方にします。
- コンピューター役が気を利かせる。 紙の盤で、ルール上は不可能な動きを黙って許したり、逆に止めたりしてしまうと、観察が歪みます。ルールどおりに処理し、判断に迷った場面を記録します。
- 紙で確かめられないことを結論にする。 「操作が楽しいかどうか」は、紙では答えが出ません。そこは画面化してからの課題として、記録用紙の端に書き残します。
- 全部を一度に直す。 3〜5人の記録からは、直したい箇所が多く見つかります。一度に直す箇所は、最も多くの人が止まった1〜2か所に絞ります。そうすれば、次の回で直した効果を確かめられます。
次の行動
まず、いま頭の中にあるゲームのルールカードを1枚書き、「最初の一手まで進めるか」という問いを一つ決めてください。そして、ゲームの内容を知らない人を1人だけ見つけて、黙って10分見てみてください。画面にした後は、アソバースの投稿画面で下書き保存をしながら、表示を確認して公開内容を整えられます。紙で見つけた詰まりの箇所が、画面でも同じように出るかどうかも、確かめる価値があります。

