紙と画面で同じルールを遊ぶと、所要時間と集中はどう違うか:記録で確かめる実験の設計書
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

紙のタイルで3×3のスライドパズルを解く場面と、同じルールの画面版を解く場面を考えてみます。どちらも「数字を順にそろえる」だけです。それでも、終わったあとに「紙のほうが長く感じた」「画面のほうが手が止まらなかった」と思うことはありそうです。この感覚は、実際の所要時間の差なのか、集中の質の差なのか、単に記憶の偏りなのか。感覚だけでは切り分けられません。 この記事は結果を報告するものではなく、読者が自分で行える実験の設計書です。確かめるのは次の問いです。「同じルールのゲームを紙と画面で遊ぶと、所要時間と集中の度合いは、自分の場合どれだけ違うのか」。ゲームを作る人にとっては、紙のプロトタイプで得た手応えが画面に移したときにも保たれるかの目安になります。 題材には、アソバースの公式作品「かたちのあいだ」の3×3の入門を使えます。自作ゲームがあるなら、紙版と画面版をそのまま比べても構いません。
問いを三つに分ける
「体感の違い」を一つの指標で測ろうとすると、結果が読めなくなります。そこで三つに分けます。
- 所要時間:開始から完成までの実測の秒数と、その間の手数です。
- 集中:手が止まった回数と、終了直後に自分でつける5段階の評価です。
- 時間の体感:終了直後の「何秒くらいかかったと思うか」の見積もりと、実測との差です。
三つ目が見落とされやすい指標です。実測が同じでも、媒体によって「長く感じた」が変わるなら、それは所要時間ではなく没入の違いを示している可能性があります。三つの指標が同じ方向を向くか、バラバラかを見るのが、この実験の中心です。
比べる要因は媒体(紙か画面か)だけにします。それ以外は、できるだけ同じに揃えます。
準備するものと、条件の揃え方
用意するもの
- 紙版:厚紙で作った3×3の枠と、1〜8の数字を書いたタイル8枚です。
- 画面版:「かたちのあいだ」の3×3の入門です。
- 外部タイマー:スマートフォンのストップウォッチなど、ゲーム画面の外にあるものです。
- 録画の手段:スマートフォンのカメラです。紙は手元を真上から、画面は手元と画面が入る位置で撮ります。
- 記録シート:後述の表を印刷するか、表計算ソフトに作ります。
ルールを揃える
紙にはヒントも「一手戻す」もありません。画面側でも、ヒントと一手戻すは使わないと決めます。画面版では一手戻しても手数が減らないとされているので、使うと手数の比較が崩れます。時計の一時停止も使いません。止めたくなった場合は、止めずに記録シートの「中断」欄に残します。
画面版には時計の表示があります。これが見える状態で遊ぶと、紙側と条件が変わります。画面の時計を隠せるか、隠せない場合にどう見えるかは、作品を開いて確かめてください。所要時間は、どちらの媒体も外部タイマーの値を採用します。画面の時計は参考にとどめます。
紙の配置の作り方
紙版の初期配置は、必ずゴール状態からタイルを実際に動かして作ります。数字をランダムに並べ替えると、3×3では解けない配置が半数ほど混じることが知られています。解けない配置を引くと実験が台無しになります。
ゴールから決まった回数、たとえば30手ほどを、目を閉じてでたらめな方向に動かします。動かした手数を揃えても、実際の難しさは同じになりません。往復して元に戻る手が混ざるためです。そのため、各回の「解いた手数」を必ず記録し、あとで難しさの目安として使います。
画面側は作品が出す配置をそのまま遊びます。画面と紙で配置を完全に一致させる必要はありません。8回分の配置を用意して、手数の記録で補正する方針です。
一回の流れと割り当て
割り当て:ABBA方式
一人で行う場合の最大の誤りは、慣れと疲れの影響を媒体の差と取り違えることです。たとえば、紙を先に4回、画面を後に4回と並べると、後半の「画面」は慣れて速いだけかもしれません。これを避けるため、媒体の順番を紙・画面・画面・紙・紙・画面・画面・紙の並びにします。慣れや疲れの影響が両方の媒体に均等にかかります。
- 1、媒体:紙、配置:A
- 2、媒体:画面、配置:B
- 3、媒体:画面、配置:C
- 4、媒体:紙、配置:D
- 5、媒体:紙、配置:E
- 6、媒体:画面、配置:F
- 7、媒体:画面、配置:G
- 8、媒体:紙、配置:H
紙は1・4・5・8回、画面は2・3・6・7回です。配置と媒体の対応は、くじで決めておきます。協力者がいる場合は、協力者の割り当てを逆の媒体にします。
一回の手順
- 録画を始めます。
- 外部タイマーを画面や手元から見えない位置に置き、開始と同時に押します。
- 完成したらタイマーを止め、終了時刻を記録します。
- 結果を見る前に、「何秒くらいかかったと思うか」を紙に書きます。
- 続けて、集中の5段階評価をつけます。5は「ずっとパズルだけを考えていた」、1は「何度も別のことが頭に浮かんだ」です。
- 最後に、実測の秒数を見て、記録シートに写します。
見積もりを書く前に実測を見てしまうと、体感の指標が使えなくなります。順番は必ず守ってください。
回と回の間には、2分ほどの休憩を入れます。8回を続けて行うと疲れがたまるため、4回ずつ2日に分ける場合は、ABBAの前半と後半で日を分け、同じ時間帯に行います。
記録の取り方
一回ごとに1行、次の項目を記録します。
- 回・媒体・配置、取り方:割り当て表のとおりです。
- 所要時間(秒)、取り方:外部タイマーの値です。
- 手数、取り方:タイルを動かした回数です。録画から数えます。
- 止まった回数、取り方:3秒以上手が動かなかった回数です。録画を見返して数えます。
- 集中評価(1〜5)、取り方:終了直後に自己申告します。
- 見積もり(秒)、取り方:実測を見る前に書いた値です。
- 見積もりの差、取り方:見積もり−実測です。
- 中断、取り方:席を立った、通知が来たなど、出来事をメモします。
「止まった」の基準を「3秒以上」と決めておくのは、数える人の気分で変わらないようにするためです。基準自体は他の長さにしても構いませんが、8回すべてで同じにします。
録画を手元で見返すのは手間ですが、止まった回数と手数は、遊んでいる最中に数えると集中を乱します。後から数える形にしてください。
結果の読み方
8回分が埋まったら、媒体ごとに中央値を出します。平均ではなく中央値を使うのは、1回だけ極端に長い回があっても結果が引きずられにくいためです。
所要時間
紙4回と画面4回の所要時間を並べ、各媒体の最小値と最大値を見ます。
- 二つの媒体の範囲がまったく重ならないなら、この条件では媒体の差が出ていると見てよさそうです。
- 範囲が重なり、中央値の差が各媒体のばらつき(最大−最小)より小さいなら、この回数では差と言い切れません。回数を増やすか、配置を増やして同じ手順を繰り返します。
手数も見ます。紙のほうが速くても、手数が少ないだけなら、配置が易しかった可能性があります。「秒÷手数」で一手あたりの時間を出すと、配置の難しさをある程度ならして比べられます。
集中
止まった回数と集中評価が同じ方向を示すかを見ます。
- 止まった回数が多い媒体で集中評価も低いなら、集中の差が出ていると読めます。
- 止まった回数は同程度なのに評価だけ差があるなら、媒体への印象が評価に混ざっている可能性があります。録画を見返し、止まった場面の中身を確認します。
- 中断欄に外的な出来事(通知など)が集中している媒体があれば、その回は別に分けて見ます。
時間の体感
見積もりの差が、片方の媒体で一貫してプラス(長く見積もる)、もう片方でマイナスに偏るなら、時間の感じ方に媒体の影響がある可能性があります。ただし、4回ずつでは偶然の偏りも起こります。符号がそろわない場合は、偏りがあるとは言えません。
三つがそろわない場合
実測は同じで体感だけ違う、集中評価だけ違う、といった結果もあり得ます。これは失敗ではなく、「所要時間は同じでも没入の質が違う」という読み方ができる材料です。ゲームを作る側にとっては、画面版で何を足せば(あるいは引けば)紙の手応えに近づくかを考える入口になります。
起こりやすい誤り
- 同じ配置を二度解く:配置を覚えるため、後の回が速くなります。配置は回ごとに別のものを使います。画面の「同じ配置の再挑戦」は、練習効果そのものを調べる別の実験に向いています。
- ゴール以外から配置を作る:数字をでたらめに並べると解けない配置が混じります。必ずゴールから動かして作ります。
- ヒントや一手戻すを一部の回だけ使う:手数と時間の意味が回ごとに変わります。使うなら全回で使うと決めます。
- 画面の時計を見ながら遊ぶ:時計を見る行為が集中や急ぎ方に影響します。見えるかどうかを両媒体で揃えられないなら、その点を記録シートに書き残します。
- 体感の見積もりを実測の後に書く:実測に引きずられ、指標が使えなくなります。
- 数える作業を遊びながら行う:手数や止まった回数は録画から数えます。
- 結果を見てから基準を変える:「止まった」を3秒以上とするなどの基準は、1回目の前に決めます。
- 一人の結果を一般化する:この実験で分かるのは、あくまでその人の、その題材での傾向です。「紙のほうが集中できる」と広く言うには、多くの人での確認が必要です。
次の行動
まず厚紙とペンで3×3のタイルを作り、ゴール状態から動かして配置を8つ用意してください。「かたちのあいだ」の3×3の入門を開き、ヒントと一手戻すを使わないルールで、ABBAの順に8回遊んで記録します。自作ゲームがある場合は、その紙版と画面版で同じ手順を行うと、プロトタイプの感触が移ったかどうかの手がかりが得られます。

