手描き10分と生成10分:同じ時間で何ができるか
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

「生成のほうが速い」「手描きのほうが味がある」。こうした話は、制作時間が揃っていないまま語られることが多いものです。生成に数秒しかかからないのは、画像が出るまでの待ち時間だけです。プロンプトを考える時間、何枚も出して選ぶ時間、気になる箇所を直す時間は含まれていません。手描きのほうも、下描きから仕上げまでの時間と、「ここで止める」と決める時間は別物です。 そこでこの記事では、時間を10分で固定します。同じお題を手描き10分と生成10分で作り、できたものを並べて、ゲームに置いたときにどちらが働くかを見る実験を設計します。結果は書きません。読者が自分の手と自分の道具で行い、自分の制作に合った答えを出すための設計書です。 確かめたいのは「どちらが優れているか」ではありません。「自分の制作で、10分をどこに使うと、何が手元に残るか」です。この問いなら、使う道具や得意不得意が違っても、各自が自分の答えを出せます。
問いと条件を決める
比べるものは、次の二つの条件です。
- 条件A(手描き):紙、タブレット、お絵かきソフトなど、普段使う手描きの道具で10分作ります。
- 条件B(生成):普段使う画像生成ツールで10分作ります。プロンプトの入力、待ち、選別、修正、書き出しまでを10分に含めます。
そのうえで、次の点を最初に決めて紙に書いておきます。後から変えると、結果を都合よく読んでしまうからです。
- お題:「ゲームの中で実際に使う素材」を3つ用意します。たとえば「主人公の立ち絵1体」「アイテムのアイコン1つ」「タイトル画面の背景1枚」です。3つとも、自分が作っているゲーム、または作りたいゲームのために選びます。
- 完成の定義:「保存して、ゲームの画面に置ける状態になっていること」とします。書き出しの手間も10分に入れます。
- 道具の慣れ:ツールの契約やログイン、ブラシ設定などの準備は、10分の開始前に済ませます。慣れていない操作を試す時間は、本番に混ぜません。
お題は3つ、条件は2つなので、作業は計6回、60分です。一度にやる必要はありません。ただし、1回ごとに「休む・飲み物を取る・手を振る」など、集中が切れない程度の間を置いてください。
準備するもの
次のものを揃えます。
- 10分のタイマーと、行動を記録する欄(後述の最小のHTMLを使えます)。
- 手描きの道具と、生成ツール。普段使っているものを選びます。
- 保存先のフォルダ。ファイル名は 01_A_hero.png のように、お題番号、条件、お題名で付けます。
- 評価に使う小さなテスト画面。後で作ります。
- 評価してくれる人(任意)。自分だけで評価してもかまいませんが、お題の意図を知っている本人は評価が甘くなりがちです。可能なら、お題を知らない人に1人でも見てもらいます。
生成ツールの利用規約と、生成物の商用利用や再配布の扱いは、実験の前に公式の案内で確認してください。著作権や権利関係は、ツールや状況によって扱いが異なります。この記事で断定できる範囲ではありません。作品として公開する予定がある場合は、権利に詳しい専門家や公式情報での確認もお勧めします。
手順:10分をどう計り、何を記録するか
順序を入れ替える
A→Bの順で毎回やると、Aで固まったイメージをBが引き継いでしまいます。逆も同じです。次のように、お題ごとに順序を入れ替えます。
- 1. 主人公の立ち絵、1回目:A(手描き)、2回目:B(生成)
- 2. アイテムのアイコン、1回目:B(生成)、2回目:A(手描き)
- 3. タイトル背景、1回目:A(手描き)、2回目:B(生成)
同じお題の1回目と2回目の間は、できれば半日以上、無理なら一晩あけます。直前に作ったものの記憶が残っていると、2回目が有利になるためです。
10分の記録を取る
10分間の行動は、後から思い出そうとすると正確に残りません。そこで、作業中に一言ずつ記録します。次の最小のHTMLを timer.html として保存し、ブラウザで開けば動きます。外部ライブラリもサーバーも使いません。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<title>10分ログ</title>
<p id="t" style="font-size:2em">10:00</p>
<button id="s">開始</button>
<input id="m" placeholder="いま何をしている?">
<button id="a">記録</button>
<ol id="l"></ol>
<script>
const t=document.getElementById('t'), l=document.getElementById('l');
const m=document.getElementById('m');
let start=0, timer=null;
const f=s=>String(Math.floor(s/60)).padStart(2,'0')+':'+String(s%60).padStart(2,'0');
document.getElementById('s').onclick=()=>{
start=Date.now(); l.innerHTML=''; clearInterval(timer);
timer=setInterval(()=>{
const r=Math.max(0,600-Math.floor((Date.now()-start)/1000));
t.textContent=r>0?f(r):'終了';
if(r===0) clearInterval(timer);
},200);
};
document.getElementById('a').onclick=()=>{
if(!start||!m.value) return;
const e=Math.min(600,Math.floor((Date.now()-start)/1000));
const li=document.createElement('li');
li.textContent=f(e)+' '+m.value;
l.appendChild(li); m.value='';
};
</script>「記録」を押すたびに、開始からの経過時間と一言が並びます。終了後は、画面の内容を手元のメモに写して保存してください。ページを閉じると消えます。
記録する一言は、作業を次の5種類のどれかに寄せて書くと、後で集計できます。
- 考:構図や言葉を考えている
- 操:描く、プロンプトを入力する、といった手を動かす作業
- 待:生成や読み込みを待っている
- 選:複数の候補から選んでいる
- 直:修正している(描き直し、再生成、切り抜き、サイズ調整)
作業が切り替わったときだけ記録します。1分ごとに無理に書く必要はありません。ただし、記録のために手が止まりすぎるなら、2分ごとの区切りに緩めてください。ここで大事なのは、条件AとBで記録の粒度を揃えることです。
終了時に残すもの
10分が終わったら、次の項目をその場で書きます。
- 完成したものの保存(ファイル名は前述の規則)。
- 生成の場合:生成した回数、採用した枚数、プロンプトの全文。
- 手描きの場合:やり直した回数(取り消しではなく、描き直しの回数)。
- 「あと何分あれば完成と言えるか」の自己見積もり。
- 10分で諦めた要素(背景、手、小物など)。
最後の二つは、結果を読むときに効いてきます。
評価する:ゲームに置いて比べる
作ったものは、見た目の好みで比べるだけでは不十分です。ゲームの素材なので、置いて、小さくして、並べて確かめます。
評価の軸を先に固定する
次の5軸を、評価を始める前に決めます。後から軸を足したり入れ替えたりしないでください。
- 意図の伝わり方:お題を伏せて見せたとき、何を描いたものか当てられるか。
- 小さいサイズでの読みやすさ:64px程度に縮小しても形がわかるか。
- 統一感:自分のゲームの既存の素材と並べたとき、浮かないか。
- 手直しの余地:もう10分あれば、どこまで直せそうか。直す場所が見えているか。
- 愛着:このまま使い続けたいか。
それぞれ○・△・×の三段階で付けます。数字の細かな点数にしないのは、少人数の評価では細かい差に意味が出にくいからです。
ゲームに置くテスト画面を作る
評価は、素材を実際に置いた画面で行います。次のような簡単なHTMLに、画像を相対パスで並べるだけで十分です。同じフォルダに画像を入れ、<img src="01_A_hero.png" width="64"> のように幅を指定して並べます。大きいサイズと64pxの2段で見られるようにすると、軸2の確認が楽になります。
素材を後で作品に使い、アソバースに投稿する場合は、アップロードが20MiB以内、素材は相対パス、入口はディレクトリ直下の index.html という決まりがあります。生成画像は書き出し設定によっては容量が大きくなりやすいため、書き出し時に必要なサイズへ縮小するところまでを、10分の中の「直」に含めて記録しておくと、実際の制作に近い比較になります。
名前を伏せて並べる
評価の前に、ファイル名をランダムな文字列に変えて、A・Bが分からない状態にします。ただし、画風の癖で分かってしまうこともあります。完全な目隠しは難しいので、「分かってしまった場合は、その旨をメモする」と決めておけば十分です。
誰かに見てもらうなら、「どちらが良いか」を聞くより、「これは何に見えますか」「この中で、このゲームの主人公に近いのはどれですか」と聞くほうが、意図の伝わり方を測れます。
結果の読み方
結果が出たら、時間の使い方と、完成物の評価を重ねて読みます。以下は、あり得るパターンと、そのときの判断の目安です。
- 生成の記録で「待」と「選」が大半を占めている:生成そのものより、選別に時間が食われています。プロンプトの型(画角、画風、背景の指定)を事前に用意しておくか、候補を見る枚数に上限を決めると、同じ10分でも残る時間が変わります。
- 生成の記録で「直」がほとんど無く、意図の伝わり方が×:出てきたものを受け入れるだけで終わっている可能性があります。お題の指定が曖昧だったのかもしれません。プロンプトより先に、お題の条件(向き、ポーズ、背景なし)を言葉にする時間が必要です。
- 手描きで統一感が○なのに、完成度の自己評価が低い:描き込みよりも、形と色数を絞った様式に寄せる余地があります。省略する要素を先に決めておくと、10分の使い方が楽になります。
- 手描きの「考」が長く、手が動き始めたのが後半:10分に対して構想が重いお題です。ラフを先に作る時間を、あらかじめ区切っておくとよいでしょう。
- 軸4(手直しの余地)が、AとBで逆になっている:手描きは直せるが全体は荒く、生成は整っているが一部が直せない、といった組み合わせです。ここには、第3の条件を試す価値があります。
第3の条件として、条件C(併用)を任意で足せます。たとえば生成の候補を下絵にして、手描きで輪郭を整える方法です。ただしCを足す場合は、条件AとBと同じお題・同じ10分で、同じ記録を取ります。Cだけ時間を延ばすと、比較になりません。
読み終えたら、「自分の制作では、どの素材をどの条件で作るか」を、お題ごとに一行で書きます。たとえば「小さなアイコンは○、背景は△」のような書き方で十分です。この一覧が、実験の成果物です。
起こりやすい誤り
- 準備時間を10分に混ぜる:ログインや設定の時間が入ると、条件Bだけが不利になります。逆に、手描きの道具の準備も同様です。
- お題の難しさが偏る:人物は手描きに不利、背景は生成に有利、といったように、お題が結果を決めてしまうことがあります。お題を3種類にするのはそのためです。1回で結論を出さず、可能なら別のお題でもう一巡してください。
- 「完成」の基準が途中で変わる:生成のほうは「出た時点で完成」、手描きのほうは「細部まで完成」と、基準がずれていないか注意します。冒頭の定義(ゲームに置ける状態)に戻って判断してください。
- 結果を見てから評価軸を変える:好みの結論に合わせて軸を足したくなりますが、それは実験ではなく後付けです。気づきは別メモに残し、次の実験で試します。
- 記録が途切れる:作業に集中すると、ログを書き忘れます。その場合は「記録なし」と書いてください。後から思い出して補うと、集計の信頼性が下がります。
- 自分の作品だけで評価する:愛着の軸は自分で付けて構いませんが、意図の伝わり方は、お題を知らない人の目を借りるほうが測れます。
- 権利の確認を後回しにする:実験が終わってから、「この素材は公開できるのか」と気づく流れは避けたいところです。ツールの規約と、素材をどこに公開するかを先に確認してください。
アソバースの公式作品13本のカバー画像は、生成したアートワークであり、ゲーム画面のスクリーンショットではありません。カバー画像は紹介のための絵、ゲーム内の素材はプレイ中に読み取る絵という違いがあります。この実験で「読めるか」「並べて浮かないか」を見るのは、その違いを自分の素材で確かめるためでもあります。
次の行動
まず、自分のゲームから「実際に使う素材」を3つ選び、完成の定義を一行で書いてください。そのうえで、お題1の条件Aか条件Bのどちらかを、タイマーを回しながら10分やってみます。ログを残し、ファイル名を決めて保存するところまでが1回分です。残りの5回は、順序表に従って数日に分けて進めれば、60分の実験になります。
