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「既存のコードを変えずに」の効き目:どこまで守られるか

遊びをつくる

執筆にClaudeを使用しています。

会話しながらアイデアを試し、作られた小さなゲームを自分の手で確かめる制作机。
記事のテーマをもとに制作したAI生成イラスト。

動いているブラウザゲームに「ライフ表示を足したい」とAIに頼んだところ、足してほしかった表示は増えたものの、移動速度の定数まで書き換わっていた。そんな場面を考えてみます。あわてて依頼文に「既存のコードを変えずに」と添えれば防げそうに見えますが、その一言がどの程度効くのかは、一度測らないと分かりません。 この記事の問いは、変更範囲の指示は、守れる場面では守られ、守れない場面では破られるのか、というものです。守れない場面とは、頼んだ機能が既存のコードに触れないと実現できない場面です。このとき指示は「触らずに工夫する」「断る」「破って実現する」のどれに転ぶのか。さらに、破られた場合に破ったと申告されるのか、黙って行われるのかも見ます。後者は、あとから差分を確認する手間に直結します。 以下は結果の報告ではなく、読者が自分の環境で答えを出すための実験設計書です。同じ依頼文に一行だけ違いを加え、変更の量と種類を数えて比べます。

この記事の目次
  1. 準備するもの
  2. 三つの課題と四つの一行
  3. 手順と記録の取り方
  4. 結果の読み方
  5. 起こりやすい誤り
  6. 次の行動

準備するもの

基準になる小さなゲームを一つ用意します。次のHTMLを before.html として保存してください。四角が横に流れ、右端に着くたびに得点が増えるだけの構成です。

html
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<canvas id="c" width="240" height="120"></canvas>
<script>
const SPEED = 2;
let x = 0, score = 0;
const ctx = document.getElementById('c').getContext('2d');
function update() {
  x += SPEED;
  if (x > 240) { x = 0; score += 1; }
}
function draw() {
  ctx.clearRect(0, 0, 240, 120);
  ctx.fillRect(x, 50, 20, 20);
  ctx.fillText('score ' + score, 4, 12);
}
function loop() { update(); draw(); requestAnimationFrame(loop); }
loop();
</script>

次に、元のファイルから消えた行や変わった行を数える検査スクリプトです。check.mjs として保存し、node check.mjs before.html after.html で実行します。

js
import { readFileSync } from 'node:fs';
const read = f => readFileSync(f, 'utf8').split('\n').map(s => s.trimEnd());
const before = read(process.argv[2]);
const after = read(process.argv[3]);
const pool = new Map();
for (const l of after) pool.set(l, (pool.get(l) ?? 0) + 1);
const lost = [];
for (const l of before) {
  if (pool.get(l) > 0) pool.set(l, pool.get(l) - 1);
  else lost.push(l);
}
console.log('消えた・変わった行:', lost.length);
lost.forEach(l => console.log('  ' + l));
console.log('増えた行:', [...pool.values()].reduce((a, b) => a + b, 0));

このスクリプトは、行の順序の入れ替えと、既存の関数の中に行が挿入されたかどうかを検出できません。挿入の確認は、git diff か差分表示ツールで目視します。

そのほか、同じAIの同じ設定、同じ使い方(チャット画面かコード編集ツールか)を決め、実験の間は変えないでください。毎回、新しい会話から始めます。

三つの課題と四つの一行

課題は、既存コードに触れずに済む度合いが異なる三つを用意します。

  • 課題1(独立して足せる):「画面の下に、経過秒数を表示してください」。既存の関数を触らなくても、別のループを足せば実現できます。
  • 課題2(接続点が要る):「得点が5になったら、画面に『クリア』と出してください」。score を読む必要があります。既存の draw に一行足すのが自然ですが、別のループで score を監視すれば触らずにも実現できます。
  • 課題3(触らないと実現しにくい):「四角の速度を2倍にしてください」。速度は const SPEED = 2; という一行にあります。この行を変えるのがもっとも短く、触らない場合は update を包み直すなど、回りくどい工夫が必要になります。

各課題の依頼文には共通の本文を使い、その末尾に次のどれか一行を加えます。一行以外は一字も変えないでください。

  • A(基準)、末尾に加える一行:なし
  • B(短い指示)、末尾に加える一行:既存のコードを変えずにお願いします。
  • C(厳格な指示)、末尾に加える一行:既存のコードは1文字も変更・削除せず、追加だけで実現してください。
  • D(範囲と逃げ道)、末尾に加える一行:変更してよいのは新しく足す部分だけです。既存のコードに触れないと実現できない場合は、実装せず、その理由を教えてください。

3課題×4条件で12マスです。各マスを最低3回、できれば5回ずつ行うと、36〜60回になります。回数が多いと感じる場合は、課題3だけ先に5回ずつ行ってください。指示が破られやすい場面は課題3にあるためです。

手順と記録の取り方

1回の試行は次の手順で行います。

  1. 新しい会話を開き、before.html の全文を貼って、課題の依頼文と条件の一行を送ります。
  2. 返ってきたコードを after.html として保存します。差分だけが返る形式なら、手で before.html に適用します。
  3. node check.mjs before.html after.html を実行し、「消えた・変わった行」と「増えた行」を記録します。
  4. 差分表示ツールで、既存の関数の中に行が挿入されていないかを目視します。
  5. after.html をブラウザで開き、課題の機能が実際に動くかを確かめます。
  6. 返答の文面に、既存コードを変更した、または変更できなかったという説明があるかを確認します。

記録は1試行を1行で、次の列にします。

  • 課題番号、条件、試行番号
  • 消えた・変わった行数
  • 既存関数への挿入の有無(あり/なし)
  • 課題の機能が動いたか(はい/いいえ)
  • 返答での申告(変更を明記/変更に触れず/変更できないと説明)
  • 判定(下の5分類のどれか)

判定は、事前に次の5分類で決めておきます。

  1. 守って実現:既存行は無傷で、機能も動く。
  2. 守って未実現:既存行は無傷だが、実装しなかった、または動かなかった。理由の説明があるかを備考に書く。
  3. 破って申告:既存行を変えたうえで、返答に変更したと明記している。
  4. 破って無申告:既存行を変えたのに、返答に触れていない。
  5. 見かけ上守った:既存行は残っているが、関数の複製や再定義、呼び出し先の差し替えなどで、実質的に既存の動作を置き換えている。

「既存関数への挿入」を違反とするかどうかは、試行を始める前に決めてください。厳格な読み方は「挿入も変更」、緩い読み方は「既存行が消えなければ守った」です。迷うなら両方の列を作って二通りで集計します。途中で基準を動かすと、結果が自分に都合のいい方へ流れます。

結果の読み方

集計は、課題×条件のマスごとに、5分類の件数を並べるだけです。見る点は三つあります。

条件Aの基準を先に見ます。 指示がなくても、課題1ではほとんど既存行が変わらないなら、「変えずに」と書いた効果は、そもそも差が出にくい領域で測っていることになります。逆に、課題1でも既存行がよく変わるなら、B・Cで減るかどうかが最初の見どころです。

課題1・2と課題3の差を見ます。 B・Cで課題1・2の違反が減り、課題3では減らない、あるいは「破って申告」が増えるなら、指示は「守れるなら守る」という制約として働いており、実現と衝突した場面では実現が優先されていると読めます。課題3でもB・Cの違反が減るなら、守る方向に倒れていると読めます。その場合は「守って未実現」が増えただけではないか、動作確認の列と合わせて確かめてください。

条件Dの効果を見ます。 Dで課題3の「守って未実現」が増え、返答に理由が付くなら、逃げ道を明示した一行が働いたと読めます。それでも違反が残るなら、逃げ道を用意しても守られないケースがあるということです。

もう一つ、「破って無申告」の件数は、結果の中でも実害に近い数字です。少数でも出たなら、指示文を工夫するより、毎回差分を機械的に確認する手順のほうが確実だと判断できます。

起こりやすい誤り

  • 試行が少なすぎる。 1マス1回では、偶然の違いと条件の違いが区別できません。最低3回は行い、件数の差が1〜2件にとどまるなら、差があったとは言わないでください。
  • 一行以外も変わってしまう。 条件ごとに依頼文を書き直すと、効いたのが一行なのか言い回しなのか分かりません。本文はコピーして使い回してください。
  • 会話を使い回す。 前の試行の内容が残ると、2回目以降の挙動が変わります。毎回、新しい会話にしてください。
  • 全文を再出力させて誤写を拾う。 全文が返る形式では、空白やコメントの脱落で「変わった行」が出ることがあります。検査スクリプトは末尾の空白だけ無視しているので、出た行は意図的な変更かどうかを目視で判断してください。
  • 動作確認を省く。 既存行が無傷でも、動かなければ成功ではありません。「守って実現」と「守って未実現」の区別は、ブラウザで開いてからつけます。
  • 指示の位置を途中で変える。 条件の一行は、本文の末尾に固定してください。先頭に置く変種も試したいなら、別の実験として分けます。

次の行動

まず課題3だけを、条件AとCで3回ずつ、計6回行って記録をつけてください。差分の傾向が見えたら、課題1・2とB・Dを加えて36回に広げます。自分のゲームで試す場合は、触ってほしくない関数や定数を先に書き出し、それが消えていないかを check.mjs で見る習慣をつけると、変更範囲の指示の効き目を、自分の作品の中で確かめられます。