「初心者向けに」と「子供向けに」で変わるものは何か:一行差を比べる実験の設計書
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

同じお題で、AIにゲームを作ってもらう場面を考えてみます。お題は「落ちてくる果物をカゴで受け止めるゲーム」とします。末尾に「初心者向けに」と足した場合と、「子供向けに」と足した場合では、出てくるHTMLは同じでしょうか。どちらも「やさしくしてほしい」という意図に見えます。しかしAIが「やさしさ」をどこに表すかは、語によって違うかもしれません。 「初心者向け」には少なくとも二つの読み方があります。遊ぶ人が初心者なのか、作る人が初心者なのかです。「子供向け」は年齢の話に見えますが、ルールの少なさ、文字の大きさ、言葉遣い、色や音の賑やかさのうち、どれを動かすのかは決まっていません。 この記事は結果を示しません。一行だけ違う指示から生成されたゲームを、読者が自分で並べて比べるための設計書です。何を同じにして、何を数え、どう読めば差と言えるのかを順に示します。
問いを一行に絞る
問いは次の一文にします。「共通のお題の末尾に『初心者向けに』『子供向けに』のどちらかを足すと、生成されるゲームのどの観点が、何も足さない場合から離れるのか」。
見るのは「差があるか」ではなく「どの観点に差があるか」です。観点を決めずに眺めると、目立つ派手さだけが印象に残ります。説明文の量や難易度の傾きのような地味な差が見落とされるので、比べる観点を先に決めておきます。
仮説も、検証前に書いておくと読み直しやすくなります。たとえば次のような形です。
- 仮説1:「初心者向け」は説明や段階の追加として表れる。
- 仮説2:「子供向け」は、ひらがな、大きい文字、明るい色、音として表れる。
- 仮説3:どちらも、ミスの罰則が軽くなる。
仮説は外れて構いません。外れた箇所が、この実験の収穫になります。
準備するものと手順
準備するもの
- 生成に使うAIツールを一つ決め、同じモデル・同じ設定で通します。
- 新規の会話を9回開ける環境を用意します。過去のやり取りや記憶機能が混ざらないようにするためです。
- 記録用の表計算ソフトまたはノート、ブラウザ、開発者ツール(コンソール)を使います。
- 可能なら、ファイル名を付け替えてくれる協力者を一人お願いします。
プロンプトの作り方
共通のお題を一つ固定します。
ブラウザで遊べる、落ちてくる果物をカゴで受け止めるゲームを、index.html 1ファイルで作ってください。外部ライブラリと通信は使わないでください。
この文に、末尾の一行だけを変えて三つの条件を作ります。
- A、末尾に足す一行:初心者向けに作ってください。
- B、末尾に足す一行:子供向けに作ってください。
- C(対照)、末尾に足す一行:何も足さない
お題の本文に「簡単な」「やさしい」「シンプルな」といった語を入れてはいけません。入れると、三条件すべてに難易度の指示が入り、差が薄まります。
生成と保存
各条件を3回ずつ、毎回新規の会話で生成し、計9本にします。1本ごとに「条件・回数・生成日時」を控えてからファイルを保存します。たとえば A1.html、B2.html のようにします。
出てきたゲームに「ここを直してください」と追加で頼むのは禁止です。最初の1回の出力だけを比べます。動かないゲームが出た場合は、動かなかったという事実を記録し、再生成して置き換えることはしません。あとで「動作不良の割合」も一つの観点にできるからです。
記録の取り方
条件を隠す
協力者に、9本のファイル名を g01〜g09 のようなランダムな名前に付け替えてもらい、対応表は別の場所に置いてもらいます。記録がすべて終わるまで対応表は開きません。一人で行う場合も、付け替えた対応表を別フォルダに移してから始めます。
画面や説明文に「こどもむけ」のような文言が出ていて、条件が見えてしまうことがあります。その場合は「条件が見えた」と記し、それも観察の一部にします。
観点と単位
1本につき、起動直後の画面を最初に見ます。そのあと、最低でも2プレイして記録します。
- 最初の10秒の分かりやすさ、数え方・単位:起動直後に表示される説明文の文字数、説明の位置(画面内か別画面か)、始め方のボタンの有無
- ルールの量、数え方・単位:操作の種類の数、画面上で同時に追う要素の数
- 難易度の傾き、数え方・単位:制限時間の有無、ゲームオーバーの有無、ミスの罰則の有無、段階(レベルや速度の変化)の有無
- 言葉遣い、数え方・単位:ひらがな・漢字の数と漢字率、敬体か常体か
- 見た目、数え方・単位:使われている色数、文字の大きさ、アニメーションの有無
- 音、数え方・単位:効果音やBGMの有無(音を出す記述があるか)
- 操作方式、数え方・単位:キーボード、マウス、タッチ対応のどれか
- コード面、数え方・単位:行数、コメントの数
人が数えると誤差が出る観点は、コンソールで機械的に数えます。ゲームを開いた直後の画面で、開発者ツールのコンソールに次を貼ります。
const text = document.body.innerText;
const kana = (text.match(/[\u3040-\u309F]/g) || []).length;
const kanji = (text.match(/[\u4E00-\u9FFF]/g) || []).length;
const colors = new Set();
document.querySelectorAll('*').forEach(el => {
const s = getComputedStyle(el);
colors.add(s.color);
colors.add(s.backgroundColor);
});
console.log({
文字数: text.length, ひらがな: kana, 漢字: kanji,
漢字率: (kanji / (kana + kanji || 1)).toFixed(2),
ボタン数: document.querySelectorAll('button').length,
色数: colors.size
});このコードには限界があります。canvasに描かれた絵の色や文字は拾えませんし、起動直後以外の画面は数えません。canvas中心のゲームでは、色数と文字数が小さく出ます。その場合は目視で色を数え、方法を記録欄に書き添えます。
結果の読み方
まず条件内のばらつきを見る
同じ条件の3本で、各観点の最小値と最大値を出します。説明文の文字数が条件内で大きくばらつくなら、条件間に差があっても、その観点は一語の効果と言えません。
判断の基準は次のとおりです。
- A群の範囲とB群の範囲が重ならない場合は「差の兆候」とします。
- 範囲が重なる場合は「この回数では差と言えない」とします。
- 3本ずつでは断定できないので、兆候が出た観点だけ、各条件を追加で3本ずつ生成して確かめます。
次に、Cとの距離を見ます。AもBもCとほとんど変わらない観点は、その一語が効いていません。AだけがCから離れた観点は「初心者向け」の効果の候補です。BだけがCから離れた観点は「子供向け」の効果の候補です。
差の出た観点を仕分ける
差の兆候が見えた観点は、何を意図した変化かで仕分けると、解釈が整理できます。
- 説明の追加、段階の追加、操作の少なさ:遊び手の初心者を想定した変化です。
- コメントの多さ、構造の分かりやすさ、変数名の読みやすさ:作り手の初心者を想定した変化です。
- ひらがなの増加、文字の大きさ、色の鮮やかさ、音:年齢を想定した変化です。
この仕分けが、題名の問いへの答えの形になります。「初心者向け」が遊び手側にも作り手側にも振れるのか、「子供向け」が見た目と難易度のどちらに効くのかを、観点ごとに言葉にできます。
参考として、公式作品の「かたちのあいだ」は3×3の入門と4×4の2段階を用意し、「時計じかけの台所」は時間制限なしの見習いと、制限のある本番を分けています。段階を分ける設計が初心者への配慮の一つの形であることは、この設計から読み取れます。生成物にそうした段階があるかを見ると、比較の目安になります。
起こりやすい誤り
- 条件を2つ以上動かす:末尾の一行以外を変えると、差の原因が分からなくなります。句読点や語尾の違いも揃えます。
- 1本で判断する:生成は毎回揺れます。1本ずつの比較は、偶然の差を拾います。
- 条件を知ったまま評価する:「子供向けだから賑やかなはず」という期待が、数え方に入り込みます。
- コードだけを読む:説明文の少なさや操作の難しさは、実際に遊ばないと分かりません。必ず2プレイはします。
- 文章量の差を、そのまま質の差とみなす:説明が長い方が親切とは限りません。最初の10秒で何をすればよいか分かるかも合わせて見ます。
- お題を変える:途中でお題を変えると、条件の効果とお題の効果が混ざります。別のお題で確かめたい場合は、パズル系などで同じ手順を最初からやり直します。
次の行動
差が見えた観点があれば、その観点を自分のプロンプトに具体的に書き換えてみてください。「初心者向けに」とだけ書くのではなく、「遊ぶのは初めてゲームを触る人、最初の説明は3行まで、ミスしても続けられる」のように、誰が・どの場面で・何を軽くしたいのかを書く形です。完成したゲームは、直下に index.html を置いた形でアソバースに投稿でき、「紹介文と遊び方を作成」で下書きを作ることもできます。その際、実験で見つけた観点を遊び方の欄に反映すると、読み手に伝わりやすくなります。

