作者が隣にいると、見え方は変わるのか:声をかけない練習
遊びをつくる執筆にClaudeを使用しています。

自作のゲームを友達に渡し、隣に座る場面を考えてみます。友達が最初の画面で手を止めた瞬間に、「あ、右上のボタンです」と言いかけて、慌てて口をつぐみます。あるいは言ってしまい、友達は「ああ、なるほど」と進みます。この一言で、いちばん知りたかったはずの「初めて見た人がどこで止まるか」は、画面の外へ消えてしまいます。 一般に、人は見られていると行動が変わることがあると言われます。ゲームの初見プレイでも、作者が隣にいると、分かったふりをしたり、急いで操作したり、逆に慎重になったりするかもしれません。ただし、それがどの程度なのか、自分のゲームでも起きるのかは、この記事では分かりません。確かめるには手順が必要です。 そこで以下では、2つのことを設計します。1つは、隣にいる作者が口を出さないための約束です。もう1つは、どうしても質問されたときの答え方です。この2つを守れば、隣にいても観察は成り立つのか。同席しない場合と比べて何が違って見えるのか。読者が自分で確かめられる形に組みます。
問いと条件を決める
比べたいのは、次の2つの条件です。
- 条件A:作者が隣に座り、無言で見ている。
- 条件B:作者は同席せず、画面録画だけが残る。
初見の体験は一度きりなので、同じ人に両方をやってもらうことはできません。2回目は最初の操作をすでに知っているため、別の観察になってしまいます。そのため、人を2グループに分けて、条件ごとに別の人を割り当てます。割り振りは「A、B、A、B」と交互にすると、偏りを抑えられます。
1人あたりの観察は「ゲームを開いてから30秒」に絞ります。この区間には、タイトル画面で迷う、遊び方を読むか飛ばす、最初に触る場所を選ぶといった判断が詰まっています。30秒を過ぎたら、条件に関係なく観察を終えて話しかけます。
人数の目安は、条件ごとに3〜5人です。数が少ないので統計的な結論は出ません。ここで狙うのは、「同じ現象が複数人に出るか」を見ることです。
もう一つ、割り切りがあります。同席しない条件Bを用意できない場合は、条件Aだけを行っても構いません。その場合の目的は、AとBの比較ではなく、「隣にいながら口を出さずに、30秒を記録しきる」ことの練習になります。
準備するもの
- 開いた直後の状態から始められるゲーム。自分の端末のブラウザで開けば足ります。
- 画面録画の手段。パソコンやスマートフォンのOS標準の機能で十分です。顔は映さず、画面だけを録ります。
- 秒を測れるタイマー。録画があれば、後から秒数を読み取れます。
- 記録シート。後述の項目を書ける紙かメモ。
- 約束カード。次の章の内容を手元に置いておきます。
ここで1点、状態の持ち越しに注意します。アソバースでは、ログインしないで遊んだ場合の履歴や進行は端末内に保存されます。前の人の進行が残ったまま次の人に渡すと、初見の画面にならない可能性があります。保存のあるゲームなら、1人終わるごとに保存の状態を確認し、必要に応じて初期状態に戻してから次の人に渡します。保存のないゲームでも、ページを開き直してからの方が確実です。この部分は、自作ゲームの保存の仕組みを自分で確かめてから決めます。
録画については、遊ぶ人に事前に伝えて了承を得ます。映すのは画面と音声だけであること、用途は作品の改善であることを、短く言葉にして伝えます。
口を出さないための約束
核となるのは、観察の前に決めておく約束です。その場で我慢しようとしても、人はたいてい口を出してしまいます。あらかじめ紙に書いて、見える場所に置きます。
- 開始前に言うのは、決めた一言だけにします。たとえば「ゲームを開いたところから30秒だけ遊んでください。途中の質問には30秒後にお答えします」です。ゲームの目的や操作は説明しません。
- 手を出しません。マウスやタッチ画面に触れず、画面を指差しません。
- 声と表情を抑えます。「あっ」「そこじゃなくて」といった声や、ため息、うなずきも、答えの合図として働いてしまいます。
- 止まっても助けません。手が止まったら、それが記録したい事実です。
- 30秒が過ぎるまで、話しかけられても答えを保留します。
5つめの約束を守るために、役に立つ工夫があります。口に出したくなった言葉を、声の代わりにシートへ書くのです。「ボタンを押すと言いたかった」「目的が伝わっていないと思った」などです。これは観察者側の記録として、あとで大きな意味を持ちます。作者が何度も言いたくなる一言は、ゲームの中で伝わっていない一言である可能性が高いからです。
どうしても聞かれたときの答え方
遊ぶ人から質問が出ることは避けられません。質問されても答えないのは気まずいので、返し方もあらかじめ決めておきます。
- 「これ、どうやるの?」、返し方の例:「思ったとおりに試してみてください」、避ける答え:操作を教える
- 「これで合ってる?」、返し方の例:「30秒後に、そう思った理由を聞かせてください」、避ける答え:うなずく、正解を言う
- 「何をすればいいの?」、返し方の例:「画面にある情報だけで進めてみてください」、避ける答え:目的を口頭で説明する
- 「壊れてる?」、返し方の例:「そう見えたところを覚えておいてください」、避ける答え:「大丈夫です」と安心させる
どの返し方でも、質問の言葉をそのまま記録します。質問は、観察者にとっていちばん正直なデータだからです。
例外は、本当に壊れている場合です。画面がまったく変化しない、音も出ず操作も効かないといった状態です。「何秒止まったら中断するか」を事前に決めておきます。たとえば15秒間まったく反応がなければ中断し、不具合として記録します。この秒数に正解はありません。迷ったら短めに決め、あとで調整します。
どうしても答えてしまった場合は、その回に「介入あり」の印を付けます。そして、集計では分けて扱います。印を付けずに混ぜてしまうと、比較の意味が薄れます。
記録の取り方
記録は2種類に分けます。録画から後で読み取るものと、その場で書くものです。
録画から読み取るもの(1人1回、0〜30秒)
- 最初の操作までの秒数
- 最初に触れた場所(ボタン、文字、画面の端など)
- 5秒以上手が止まった回数と、その開始秒
- 遊び方の画面や説明があるなら、開いたか、読み飛ばしたか
- 30秒時点の画面の状態(どこまで進んだか)
「5秒」は、この観察用に決める目安です。ゲームのテンポに合わせて、3秒や8秒に変えても構いません。ただし、全員の記録で同じ値を使います。
その場で書くもの
- 遊ぶ人が声に出した言葉(できるだけ原文のまま)
- 質問の文言と、その時刻
- 観察者が言いたくなった一言と、その時刻
- 介入の有無
隣にいる作者は、秒数を書かなくて構いません。秒数は録画に任せ、手元では言葉だけに集中します。書くことが多すぎると、画面から目が離れてしまうからです。
30秒が終わったら、初めて会話を始めます。聞くことは3つで十分です。「どこで迷いましたか」「何をするゲームだと思いましたか」「次に何を押そうとしていましたか」。ここで初めて出てくる言葉も、そのまま記録します。
結果の読み方
記録が揃ったら、まず条件AとBを並べて眺めます。見る箇所は次のとおりです。
- 最初の操作までの秒数:Aのほうが短いか、長いか、同じくらいか。
- 手が止まった回数:Aでは止まりにくくなっていないか。
- 声に出した言葉の量:Aでは独り言が減っていないか。
差が見えたら、次の問いで判断します。同じ方向の差が複数人に出ているか。1人の極端な記録が全体を引っ張っていないか。差が全員に出ていれば、隣にいること自体が影響している可能性を考えます。差が1人だけなら、個人差の可能性が高く、まだ判断できません。
差が見えなかった場合は、「隣にいても大丈夫」と読むのは早すぎます。人数が少ないだけかもしれません。その場合は、同じ手順で人数を足すか、記録の項目を見直します。
次に、言いたくなった一言を集計します。同じ内容の一言が複数の観察で出ていれば、最優先で直す候補です。1回しか出ていない一言は保留にします。
質問は、内容で3つに分けます。
- 目的が分からない(何をするゲームか)
- 操作が分からない(どこをどう触るか)
- 状況が分からない(今、何が起きたのか)
目的が分からない質問が多ければ、タイトルや最初の画面の文言を見直します。操作が分からなければ、ボタンの見た目や配置です。状況が分からなければ、押したあとの反応の出し方が課題かもしれません。
隣にいる条件で特に気をつけたいのは、質問が出なかった人です。質問が出なかったのは、分かったからとは限りません。気を遣って、分かったふりをしている可能性もあります。30秒後の会話で「次に何を押そうとしていましたか」と聞くと、実際の理解度が見えてきます。
起こりやすい誤り
- 同じ人に2回やらせる。 2回目は初見ではありません。
- 開始前の一言が長くなる。 説明を足すほど、ゲーム側の説明が測れなくなります。
- 30秒を過ぎても観察を続ける。 区間が揃わず、比較できなくなります。
- 家族や開発仲間に頼む。 ゲームの背景を知っている人は、初見の目で見られません。
- 録画を見ずに、記憶で書く。 止まった時間は、記憶では長く感じがちです。
- 途中で直して、同じ人に再度見てもらう。 修正の効果を測りたいなら、新しい人に頼みます。
- 介入した回を混ぜる。 印を付けて、集計を分けます。
次の行動
まず、約束カードを1枚書いてください。開始前の一言、5つの約束、返し方の表を、手元に置ける大きさにまとめます。そのうえで、次に誰かにゲームを渡す機会に、30秒だけ録画して、隣で無言のまま、言いたくなった一言を紙に書き留めてみてください。結果を急いで判断せず、一言のメモが何枚たまったかを数えるところから始めると、続けやすくなります。

