翻訳で崩れやすい数字・日付・単位・通貨の表記:英語と日本語の点検表
AIを使いこなす執筆にClaudeを使用しています。

翻訳で数字の事故が起きるのは、数字そのものよりも、数字に付いてくる暗黙の約束事が訳で外れたときです。主なものは次の4つです。 1. 区切り記号の意味(1,000 と 1.000) 2. 並び順(03/04/2026 は3月4日か、4月3日か) 3. 基準の体系(ton、gallon、$、EST がどれを指すか) 4. 数え方の単位(million・billion と、万・億・兆) 対策は、数値表現を原文と訳文からそれぞれ抜き出し、表で突き合わせることです。この記事では、表記の違い一覧、訳文のどこを見るかを示した点検項目10、AIに照合を手伝わせる依頼文を用意しました。AIには抜き出しと曖昧さの指摘を任せ、どれを正とするかは人が決めます。
表記の違い一覧
英語どうしでも国で違うものがあり、ドイツ語などの原文では逆転するものもあります。次の表は編集用の整理で、公式規格の引用ではありません。納品先にスタイルガイドがあれば、そちらを優先してください。
- 桁区切り・小数点、原文でよくある形:英語 1,000 は千。ドイツ語やスペイン語などでは 1.000 が千、1,5 が1.5。フランス語はスペース区切り(1 000,50)が一般的、読み違いの例:1.000 を「1」と訳す。$1,200.50 と 1.200,50 € の区切りを取り違え、桁を誤る、日本語側の注意:3桁ごとのコンマ、小数点はピリオドに統一する
- 位取り、原文でよくある形:million(10⁶)、billion(10⁹)、trillion(10¹²)、読み違いの例:日本語は4桁区切りなので、ゼロの数を数え違える、日本語側の注意:1 billion は10億、1 trillion は1兆。ドイツ語の Milliarde は10⁹、Billion は10¹²
- インド式、原文でよくある形:1,00,000(lakh)、crore、読み違いの例:区切り位置から桁を誤読する、日本語側の注意:1 lakh は10万、1 crore は1,000万
- 日付の順序、原文でよくある形:03/04/2026、3 April 2026、2026-04-03、読み違いの例:米国式は3月4日、英国式は4月3日と読むのが一般的、日本語側の注意:訳文は「2026年4月3日」と文字で書くと誤読が減る
- 年・期間、原文でよくある形:fiscal year、Q3、読み違いの例:会計年度の開始月は組織や国で違う、日本語側の注意:「第3四半期」と訳す前に期間の始まりを確認する
- 時刻、原文でよくある形:10:00 AM、22:00、12:00 AM、読み違いの例:12:00 AM は真夜中だが、正午と訳してしまう、日本語側の注意:午前・午後を訳に明示する
- タイムゾーン、原文でよくある形:EST、EDT、PST、JST、読み違いの例:夏時間の期間に EST と書かれていると不整合の可能性がある、日本語側の注意:略称は原文のまま残し、必要なら「米国東部時間」と併記する
- 質量・容量、原文でよくある形:ton、gallon、読み違いの例:ton は short ton(約907 kg)、long ton(約1,016 kg)、metric tonne(1,000 kg)。gallon は米国約3.785 L、英国約4.546 L、日本語側の注意:「トン」「ガロン」とだけ訳すと基準が消える
- 温度・距離、原文でよくある形:°F、mile、読み違いの例:68°F は20°C、日本語側の注意:換算するか原文維持かを先に決める
- 通貨記号、原文でよくある形:$、¥、kr、読み違いの例:$ は米ドル以外のドルにも使われる。¥ は日本円と人民元の両方。kr は複数の北欧通貨、日本語側の注意:USD、CAD、JPY、CNY などの通貨コードで確認する
- 割合、原文でよくある形:increased by 20%、increased to 20%、読み違いの例:「20%増」と「20%に」は別の意味、日本語側の注意:percentage points は「ポイント」と訳し分ける
- 階数、原文でよくある形:first floor、読み違いの例:米国では1階、英国では2階を指すのが一般的、日本語側の注意:原文の地域を確認して決める
- 境界、原文でよくある形:up to 10、under 10、more than 10、読み違いの例:以上・以下・超・未満の取り違え、日本語側の注意:10以下、10未満、10超、10以上を使い分ける
訳文のどこで確認するか:点検項目10
数字の誤りは本文の途中より、表のセル、見出し、図のキャプション、脚注、画像内の文字に残りやすいものです。確認場所とセットで点検します。
- 1、点検項目:桁区切りと小数点、確認する場所:本文、表、請求額、見方:原文の言語を確認し、1,000 と 1.000 の意味を固定してから訳す
- 2、点検項目:位取り(万・億・兆)、確認する場所:売上、人口、件数、見方:桁数を検算する。million は100万、billion は10億
- 3、点検項目:日付の順序、確認する場所:数字だけの日付、ファイル名、ヘッダー、見方:13日以降の日付が文書内にあれば手がかりになる。なければ発信元の国を確認し、決められなければ「要確認」にする
- 4、点検項目:年・期間の基準、確認する場所:年度、四半期、Q1〜Q4、見方:期間の開始月を原文か依頼者に確認する
- 5、点検項目:時刻とタイムゾーン、確認する場所:締切、開始時刻、サポート時間、見方:AM/PM、24時間表記、略称(EST/EDT/JST)を訳に残す
- 6、点検項目:範囲と境界、確認する場所:between、from–to、up to、under、見方:以上・以下・超・未満、起算日を含むかを確認する
- 7、点検項目:単位体系、確認する場所:仕様、レシピ、重量、容量、温度、階数、見方:体系を特定し、換算の有無と併記方針を決める
- 8、点検項目:通貨、確認する場所:価格表、契約条件、見方:記号ではなく通貨コードで確認する。為替換算は日付とレートの出所が要るので、推測で入れない
- 9、点検項目:割合と倍率、確認する場所:「増加」「減少」の文、グラフの説明、見方:by と to、%とポイント、twice as と twice more を区別する
- 10、点検項目:整合と表記ゆれ、確認する場所:合計と内訳、表と本文、全角・半角、見方:合計が合うか、同じ数値が箇所で違わないか、桁区切りが統一されているかを見る
進め方は、原文と訳文の数値表現をそれぞれ全部抜き出して1行ずつ対応させ、1〜10を順に当てて、差分と曖昧なものに印を付けます。
AIに任せる範囲と依頼文
AIに頼むのは「抜き出し、対応づけ、曖昧さの指摘」までです。訳の修正案を出させてもかまいませんが、採用は人が決めます。為替レートや会計年度の開始月のように文書に書かれていない事実は、AIも補えません。
Anthropic の公式文書は、分からないときは分からないと言ってよいと明示して許可すること、根拠となる原文の引用を示させることを幻覚を減らす手法として挙げています。ただし同じ文書は、これらでも幻覚は完全にはなくならず、重要な情報は検証するよう注意しています(Reduce hallucinations)。次の依頼文は、この考え方を数字の照合に当てはめた編集上の案です。
あなたは英日翻訳の校正者です。以下の【原文】と【訳文】を比べ、数字・日付・時刻・単位・通貨・割合の表記だけを点検してください。文体や語彙は直さないでください。
手順:
1. 【原文】から数値表現をすべて抜き出し、該当箇所をそのまま引用してください。
2. 対応する【訳文】の表現を並べてください。
3. 判定を付けてください: 一致 / 不一致 / 曖昧(原文だけでは意味が決まらない)
4. 「曖昧」と「不一致」には、理由と考えられる解釈を挙げてください。
5. 原文に書かれていない情報(為替レート、会計年度の開始月、日付の地域)は推測せず、「要確認」と書いてください。
出力は表(原文の引用 | 訳文 | 判定 | 理由・要確認事項)にしてください。
【原文】
(ここに貼る)
【訳文】
(ここに貼る)機密文書は、会社名・個人名・実際の金額を架空の値に置き換えてから貼ってください。入力の扱いは、使うサービスの規約と設定で確認してください。
入力例(説明用の架空の文章)
次は編集部が仕組みの説明用に作った文章で、実際にAIへ入力した結果ではありません。
【原文】
The fee is $1,200.50 per seat per year. Invoices dated 04/05/2026 are due within 30 days. The 3.5-ton unit ships on Friday at 10:00 AM EST.
【訳文】
料金は1席あたり年額1,200.50ドルです。2026年4月5日付の請求書は30日以内にお支払いください。3.5トンの機器は金曜日の午前10時(EST)に出荷されます。人が気づくべき点は次のとおりです。
- $1,200.50、指摘:米ドルかを原文の他の箇所で確認する(項目8)
- 04/05/2026、指摘:4月5日とも5月4日とも読めるのに、訳で確定している(項目3)
- within 30 days、指摘:請求書の日付を起算日に含めるか不明(項目6)
- 3.5-ton、指摘:short ton かメートルトンかが原文に書かれていない(項目7)
- Friday ... EST、指摘:出荷日が分からず夏時間かどうか判断できない。EDT でなくてよいか確認する(項目5)
実際のAIの出力は、使うモデルや入力によって異なります。
機械翻訳の設定で防げること、防げないこと
DeepL の開発者向け文書は、用語集(glossary)を製品名や業界用語のような特定語句の訳語指定に、日付・数字・句読点といった書式の約束事をスタイルルール(style rules)に、という分け方で整理しています。比較表では、書式の約束事は用語集では扱えず、スタイルルールで扱えるとされています。また、用語集とスタイルルールはデータセンターごとに別で、共有されないとも書かれています(DeepL Documentation: Customize)。
つまり、1.000 の扱いを用語集に登録して直そうとするのは筋が違います。本稿の校閲時(2026年10月28日)に確認したのはこの文書の記述だけで、操作手順や自分のプランで使えるかは確認していません。利用前に自分の環境で確かめてください。
設定は表記のゆれを減らせても、04/05/2026 のように原文側に答えがない曖昧さは解消できません。設定で寄せることと、人が点検表で照合することは分けて考えるのが安全です。
判断が割れたときの決め方
原文だけでは決まらない場合は、訳者が黙って選ばず、次の順で対処します。
- 文書内に手がかりがある(13日以降の日付、通貨コード、所在地など)、対処:手がかりを根拠に訳し、点検表に記録する
- 手がかりがない、対処:依頼者に質問する。できなければ訳文に注記を付けて納品する
- 換算が必要か不明、対処:原文の値を残し、換算値は併記にとどめる。レートの日付と出所も書く
- 読み方で意味が大きく変わる(金額、期限、用量)、対処:年月日表記などで曖昧さのない形にし、確認済みかを納品時に伝える
数字の誤りは、後から気づいたときの被害が大きくなりがちです。迷った箇所を「迷った」と見える形で残すほうが、きれいに訳し切るより実務では安全です。

