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主語のない日本語をAIに英訳させる:誰の行為か取り違えを防ぐ確認法

AIを使いこなす

執筆にClaudeを使用しています。

無地の付箋と赤い糸で文中の行為者を確かめるイメージ
記事の内容をもとに制作したAI生成イメージです。実際の製品画面や検証結果の写真ではありません。

結論から言うと、省略された主語の取り違えは、AIに「うまく訳して」と頼むだけでは防げません。英語は命令文などを除いて文ごとに主語が要るため、AIは日本語にない主語をどこかで選ぶことになります。その選択が合っているかは、訳文を眺めるだけでは分かりません。 有効なのは次の3段階です。 1. 英訳に出す前に、日本語側で「誰が・誰に」を書き足す。 2. 依頼文で、補った主語を一覧にして出させる。 3. 訳文だけを別のチャットに入れ、動詞ごとの主語を答えさせて、自分の意図と突き合わせる。 この記事の例文と出力例はすべて説明用で、実際にAIへ入力して得た結果ではありません。出力はツールやモデルで変わるため、お使いの環境で必ず試してください。

この記事の目次
  1. どんな文で取り違えが起きやすいか
  2. 書き足しの型:英訳前に日本語を整える
  3. 依頼文:訳させると同時に、補った主語を一覧にさせる
  4. 訳文から主語を確かめる手順と質問例
  5. ツール別の使い分けと提出前の確認

どんな文で取り違えが起きやすいか

主語が省かれても日本語の読み手が迷わないのは、「いただく」「くれる」といった言い方や文脈が、動作の向きを示してくれるからです。AIが間違えやすいのは、その手がかりが弱い文です。

  • 「見積書を送付したので、ご確認をお願いします。」送付したのは自社、確認するのは相手です。しかし英語にすると、\"I\" か \"we\" か、確認の主体を \"you\" と書くか、受け身にして主語を消すかを訳し手が選ぶことになります。
  • 「納品が遅れていると聞いたので、連絡しました。」誰が聞いたのか、誰に連絡したのかが文中にありません。
  • 「先日いただいた資料をもとに修正しました。」相手から受け取ったことは分かりますが、修正したのが本人かチームかは書かれていません。

共通するのは、動作の向き(誰から誰へ)が文中に書かれていない点です。AIは自然な英語にするために主語を推測で補い、その結果、依頼する側とされる側が逆になる、確認の責任が相手側に移る、といった実務上の問題が起こり得ます。

書き足しの型:英訳前に日本語を整える

型1:登場人物表を先に渡す

文章の前に、役割を短く定義します(説明用の例)。

【登場人物】
話し手=私(営業担当の田中)
相手=取引先の佐藤さん
第三者=自社の製造部

文中では「製造部」「佐藤さん」と表の呼び方で固定します。途中で「担当者」「先方」と言い換えると、別人として扱われる原因になります。

型2:省いた主語を丸括弧で補う

(私は)納品が遅れていると(製造部から)聞いたので、(佐藤さんに)連絡しました。

括弧は訳文に残ることがあるため、依頼文に「括弧内は訳さず、主語・相手の指定として扱う」と書き添えます。

型3:授受表現は向きを平文にする

元:先日いただいた資料をもとに修正しました。
補:先日、佐藤さんが私に送ってくれた資料をもとに、私が修正しました。

型4:依頼文は「誰が何をするか」を二つに分ける

「ご確認をお願いします」には、「私が頼む」と「相手が確認する」が畳まれています。

元:見積書を送付したので、ご確認をお願いします。
補:私は見積書を送付しました。佐藤さんにはその内容を確認していただきたいです。

補った日本語が不自然でも構いません。英訳の入力としての正確さを優先し、最終的な表現は英語で整えます。

依頼文:訳させると同時に、補った主語を一覧にさせる

登場人物表と原文を渡し、訳文と主語の一覧を同時に出させる形です(説明用の例)。

次の日本語を英訳してください。

【登場人物】
話し手=私(営業担当の田中)
相手=取引先の佐藤さん
第三者=自社の製造部

【条件】
・原文に主語がない文は、推測で主語を決めず、下の表で「推測」と明記してください。
・どうしても決められない文は、訳す前に私に質問してください。
・括弧内は訳さず、主語の指定として扱ってください。

【出力形式】
1. 英訳
2. 表:原文の文/訳文の主語/原文に主語があったか(有・無)/推測した場合の根拠

【原文】
見積書を送付したので、ご確認をお願いします。納品が遅れていると聞いたので、連絡しました。

肝は「推測と明記させる」「決められなければ質問させる」の2点です。Claudeのヘルプは、背景知識のない相手に頼むつもりで文脈をできるだけ書くこと、複雑な依頼は小さな手順に分けることを挙げています。OpenAIのヘルプ(API向け)は、指示を冒頭に置き、### や引用符で指示と対象文を区切ること、望む出力形式を例で示すことを挙げています。上の依頼文はこれらを参考にした編集上の組み立てで、各社が翻訳用にこの形を推奨しているわけではありません。

なお、表に書かれる「根拠」は後付けの説明かもしれません。表は見直しの入口とし、判断は次の手順で人が行います。

訳文から主語を確かめる手順と質問例

手順1:訳文だけを新しいチャットに入れる

原文や登場人物表を見せたままだと、AIは意図を知っているので正しい主語を答えがちです。訳文だけを別のチャットに貼り、読み手の立場で答えさせます(説明用の例)。

次の英文の各文について、動詞ごとに「誰が(主語)」「誰に(相手)」を一覧にしてください。
英文に書かれていないことは補わず、「不明」と答えてください。

【英文】
(訳文を貼る)

「不明」が出る、または主語が意図と違う文は、直す対象です。

手順2:自分の意図と突き合わせる

答えを見る前に、自分の意図を書いておきます。下の表は説明用の例で、「訳文から読めた内容」は仮の出力です。

  • 見積書を送付した、意図した主語→相手:私(自社)→佐藤さん、訳文から読めた内容(仮):一致、対応:そのまま
  • ご確認をお願いします、意図した主語→相手:佐藤さんが確認、訳文から読めた内容(仮):主語なし(\"Please check\")、対応:依頼として自然なら可。責任の所在を明確にしたいなら \"Could you review it\" などに直す
  • 納品が遅れていると聞いた、意図した主語→相手:私←製造部、訳文から読めた内容(仮):\"I heard\" のみで情報源なし、対応:情報源が重要なら修正依頼
  • 連絡しました、意図した主語→相手:私→佐藤さん、訳文から読めた内容(仮):\"contacted them\"(誰か不明)、対応:相手を明示して修正依頼

手順3:不一致の文だけ、主語を指定して再訳させる

次の文を、主語と相手を指定して訳し直してください。
他の文は変更しないでください。

主語:I(田中)
相手:Mr. Sato
該当の原文:納品が遅れていると聞いたので、連絡しました。

逆翻訳だけで済ませない

英文を日本語に戻して原文と比べる方法は、主語が欠けたまま訳された場合に見逃しやすいです。戻した日本語でも主語は省けるので、一致して見えるからです。逆翻訳は補助にとどめ、主語の列挙を主な確認にしてください。

ツール別の使い分けと提出前の確認

チャット型AIでは、上の依頼文のように条件や質問への応答を指示できます。

DeepLのような翻訳専用のツールは扱いが異なります。DeepLのAPI向け文書では、contextパラメーターは曖昧な語や短い文の訳を、周辺の内容で補助するものです。一方、ChatGPTのシステムプロンプトのように使うと確実には働かないとされ、配列で送った複数のtextは互いに文脈を共有せず独立して訳されます。そのため「推測するな」といった指示は期待できません。この種のツールでは、括弧を使わず型3・型4のように平文で主語を書き足し、原文の時点で明示するのが現実的です。括弧は訳文に残るおそれがあります。確認したのは開発者向け文書のため、画面上の翻訳機能で同じ扱いになるかは確認していません。

提出前のチェックリストです。

  • 人物の呼び名は、全文を通して表と同じか
  • 「いただく」「もらう」「くれる」を含む文に、向きを補ったか
  • 「お願いします」「と思います」「予定です」の文で、誰の依頼・判断・予定かを決めたか
  • 訳文だけを別チャットに入れ、動詞ごとの主語を出させたか
  • 書き足した括弧や注記が、訳文に混ざっていないか
  • 契約・納期・金額・責任に関わる文は、英語に詳しい人も目を通したか

AIの主語一覧は取り違えを見つける補助で、正しさの保証ではありません。主語の取り違えが金銭や責任の所在を動かす文ほど、人の確認を省かないでください。

出典・参考資料