直訳で不自然になる日本語を、英訳の前に言い直す5つの手順
AIを使いこなす執筆にClaudeを使用しています。

結論から言うと、英訳前の下準備は「省かれたものを日本語のうちに戻す」作業です。誰が・何を・どうするかを文に書き込み、「検討します」「なるべく早く」のような幅の広い言葉を、条件や期限に置き換えます。そのうえでAIに相手・目的・丁寧さを伝えて英訳を頼み、最後に人が数字や約束の強さを確認します。 日本語は主語や目的語を省いても通じますが、英語では行為者が誰なのかを文の形で示すことが多くなります。省かれた情報はAIが推測で補うことがあり、推測が外れると、直訳調で不自然な文になったり、言っていない約束をした文になったりします。推測させる部分を減らすのが、この記事の狙いです。 なお、本文中の日本語・英語の例はすべて説明用の例です。実際にAIへ入力して得た出力ではありません。
言い直しの前後を先に見る
ビジネスメールでよく使う表現の言い直し例です。人名や日付は架空です。
- ご確認のほどよろしくお願いします。、欠けている情報:誰が、何を、いつまでに、言い直した日本語:田中さんは、添付した見積書の金額を11月6日(金)までに確認し、問題があれば返信してください。
- 前向きに検討します。、欠けている情報:誰が、何をいつ決めるか、約束の強さ、言い直した日本語:当社は、来週の社内会議で導入の可否を決め、11月13日(金)までに返答します。現時点では導入を約束するものではありません。
- 例の件、なるべく早めにお願いします。、欠けている情報:「例の件」の中身、期限、言い直した日本語:先週の打ち合わせで話した請求書の修正版を、明日17時までに送ってください。
- こちらで対応しておきます。、欠けている情報:誰が、どう対応するか、言い直した日本語:私(佐藤)が、請求書を再発行して、今日中に送ります。
右の列は、日本語としては説明的でくどく感じるかもしれません。それで構いません。英訳の入力文は、読みやすさより「情報が揃っていること」を優先します。仕上げの丁寧さは、あとで依頼文の側で指定します。
5つの手順
手順1:行為者(誰が)を書き足す
主語のない文を拾い、「誰が」を補います。「ご確認ください」なら相手の名前や役職、「対応します」なら自分の名前や部署です。複数の人が登場する文では特に効果があります。
手順2:動詞の中身(どうする)を具体的にする
「対応する」「検討する」「善処する」「調整する」は、実際の動作が見えない動詞です。何をするのかを動作に置き換えます。「対応します」は「再発行して送ります」、「調整します」は「候補日を3つ出します」のようにします。
手順3:幅のある言葉を、数字・条件・期限にする
「なるべく早く」「少し」「数日中」「のちほど」は、基準が書き手の頭の中にしかありません。日付・時刻・個数・金額など、確認できる形にします。基準を決められないなら、「決まっていない」と書くほうが安全です(例:「期限は未定です。決まり次第連絡します」)。
手順4:1文1情報に切る
修飾が長い文は、英訳で関係詞が重なったり、どこが主文か分からなくなったりしがちです。次のように分けます(いずれも説明用の例です)。
- 前:先日お送りした資料に不備があったため修正したものを改めてお送りしますのでご確認ください。
- 後:先日送った資料に不備がありました。修正版を添付します。修正版を確認してください。
手順5:背景(相手・目的・丁寧さ)を別枠で添える
文そのものに入れる必要のない情報は、依頼文の側で渡します。誰が誰に宛てる文章か、初対面か既知の相手か、メールか社内チャットか、といった情報です。
Claudeの公式ヘルプも、背景知識のない相手に頼むつもりで、できるだけ多くの文脈を含めるよう案内しています(Claude Help Center「My prompt isn't giving me a helpful answer.」)。これは翻訳専用ではなく一般的なプロンプトの指針ですが、手順5の考え方と合っています。
AIに渡す依頼文のひな形
手順1〜4で整えた日本語を、次の形で渡します。【 】の部分を書き換えて使ってください。
次の日本語を英訳してください。
# 背景
- 書き手:【例:A社の営業担当・佐藤】
- 読み手:【例:取引先B社の購買担当・初対面に近い】
- 媒体と目的:【例:メール。見積書の確認を依頼する】
- 丁寧さ:【例:丁寧だが、かしこまりすぎない】
# 守ること
- 日付、金額、固有名詞は変えない
- 日本語に書かれていない約束や情報を足さない
- 誰の行為か分かるように、主語を英文でも明確にする
# 日本語
【ここに言い直した文章】
# 出力
1. 英訳
2. 判断に迷った箇所があれば、日本語で一覧にする「判断に迷った箇所を挙げさせる」指示を入れると、AIが黙って推測した部分を拾いやすくなります。ただし、AI自身が気づいていない誤りまでは挙げられません。
逆翻訳でずれを探す
英訳が出たら、別の会話でその英語だけを日本語に戻させ、元の日本語と見比べる方法があります。
次の英文を、意訳せずに日本語に直訳してください。補足や言い換えはしないでください。
【英訳をここに貼る】戻った日本語で主語が入れ替わっていたり、数字や期限が消えていたりしたら、そこが怪しい箇所です。ただし、逆翻訳で一致しても、英語として自然だという保証にはなりません。脱落や取り違えを見つける補助として使ってください。
人が確認するところ
AIに任せられるのは、言い直した情報をもとにした英文の下書きまでです。次の点は人が見ます。
- 日付・金額・数量・固有名詞、見る理由:似た別の値に変わっても文として自然なため、気づきにくい
- 約束の強さ、見る理由:「検討します」が \"will do\" のように確約へ変わっていないか
- 責任の所在、見る理由:誰がやるのかが、日本語の意図とずれていないか
- 相手に失礼でないか、見る理由:丁寧さの指定は文化や業界で解釈が違う。重要な相手なら、英語話者や社内の専門家に見てもらう
契約書や公式な通知のように、誤訳が責任問題につながる文書は、この下準備をしても人による確認が前提です。機密情報は、貼る前に仮名や仮の数字に置き換えてください。利用するサービスの規約とデータの扱いは、自分で確認しておきましょう。
ツールによる違い:DeepLの「context」を例に
チャット型のAIなら、背景は依頼文にそのまま書けます。一方、翻訳専用ツールでは、指示文が効かない場合があります。
DeepLのAPIには、翻訳対象ではない補足情報を渡すcontextパラメータがあります。DeepLの開発者向け文書(2026年10月28日に閲覧)によると、多義語の訳し分けや、短い見出し・製品名などの訳の改善に向く機能です。一方で、命令文のような指示は確実には効かず、口調や文体を強制するものではないと説明されています。用語を固定したいなら用語集、文体の調整ならスタイルルールやカスタム指示といった別の機能を選ぶよう案内されています。また、contextの文字は課金対象に含まれず、課金されるのはtext部分だけとされています(DeepL Documentation「How to Use the Context Parameter Effectively」)。
つまり、翻訳専用ツールでは背景を渡して口調を整えさせることに期待しすぎず、日本語の入力文そのものを手順1〜4で整えておくほうが堅実です。手順1〜4はツールを選ばずに使え、手順5の背景指定は指示を受け付けるチャット型AIで使いやすい手順です。
なお、上のDeepLのページはAPI向けの説明です。アプリ版や各プランで同じ機能が使えるかは確認していません。
最初の1通で試すなら
普段書いているメールの中から、「ご確認ください」「対応します」「なるべく早く」のどれかを含む1通を選び、手順1〜3だけ先に試してください。元の文と言い直した文を別々に英訳させて並べれば、どの情報が足りなかったのかが自分で分かります。

