稟議が差し戻される理由をAIで先に洗い出す:承認者目線の点検表
AIを使いこなす執筆にClaudeを使用しています。

稟議の差し戻しは、文章のうまい下手よりも、承認者が判断するのに必要な材料が本文に載っていないときに起きやすくなります。AIは、その抜けを提出前に探す査読役として使えます。ただしAIが知っているのは、あなたが渡した情報だけです。自社の承認基準や承認者の関心事は、人が先に渡す必要があります。 この記事では、差し戻し理由別のチェック表、AIに査読役を頼む依頼文、指摘を本文に反映する手順を紹介します。依頼文と例はすべて説明用です。特定のAIで実行して効果を測ったものではないので、自社の事情に合わせて調整してください。
承認者の頭の中の質問に、本文が答えているか
承認者は稟議書を読みながら、「なぜ今やるのか」「いくらかかり、何が得られるのか」「やらなかったらどうなるのか」「失敗したら誰が何をするのか」と質問を並べています。本文のどこにも答えがなければ、承認者は差し戻すか、口頭で確認するしかありません。
AIに「この稟議書をよくしてください」と頼むと、言い換えや誤字の修正が中心になりがちです。差し戻しを減らしたいなら、役割を校正者ではなく承認者に切り替え、「判断を止める疑問」だけを出させるほうが目的に合います。
先に決める:AIに渡す情報と、渡さない情報
査読の質は、渡す情報で決まります。最低限、次の3点を用意します。
- 稟議書の本文(下書きでかまいません)
- 承認者の役職レベルと、その人が普段気にする点
- 自社の承認基準や、過去に差し戻された理由(分かる範囲で)
一方、取引先名、個人名、未公表の金額、契約条件は、そのまま貼らずに「A社」「約◯百万円」のように置き換えます。
生成AIの「学習に使わない」設定は、秘密保持の保証とは別の話です。OpenAIのヘルプには、ChatGPTの「Data controls」でモデル改善に関する設定を管理できること、Business、Enterprise、Edu、API Platformの内容は既定ではモデル改善に使われないこと(組織が共有を選べる場合もあること)が書かれています。Claudeのヘルプには、モデル改善を許可した場合は会話がユーザーIDから切り離されて扱われること、安全性の検知に該当した会話は安全性の目的で使われうること、機密性の高い業務文書などの入力には注意が必要なことが書かれています。このClaudeのページは「2026年5月22日更新」と表示されていました(2026年10月27日に閲覧)。
これらの設定や条件は、プランや契約、時期によって変わります。社内に生成AIの利用ルールがあるなら、そちらが優先です。稟議の中身を外部サービスに入れてよいかは、サービスの設定ではなく社内規程で判断してください。
差し戻し理由別のチェック表
次の表は、差し戻しの典型的な理由を、承認者の疑問と本文の確認箇所に対応させた編集上の整理です。特定の会社の基準ではないので、自社に合わせて行を足し引きしてください。
- 目的・背景が不明、承認者の疑問:なぜ今、これが必要なのか、本文で確認する箇所:冒頭の目的、現状の課題、人が確かめること:課題が事実で裏づけられているか
- 金額の根拠が弱い、承認者の疑問:この金額は妥当なのか、本文で確認する箇所:費用の内訳、見積の出所、人が確かめること:見積書と数字が一致しているか
- 効果が測れない、承認者の疑問:成功したかをどう判断するのか、本文で確認する箇所:効果の指標、期限、測り方、人が確かめること:現実に測れる指標か
- 代替案との比較がない、承認者の疑問:ほかの方法ではだめなのか、本文で確認する箇所:検討した案、選ばなかった理由、人が確かめること:比較が公平で事実に基づくか
- リスクと対処がない、承認者の疑問:失敗や中止のときはどうなるのか、本文で確認する箇所:リスク欄、撤退条件、人が確かめること:他部署が見ても妥当か
- 調整漏れ、承認者の疑問:関係部署は了解しているのか、本文で確認する箇所:事前相談の記録、承認ルート、人が確かめること:実際に相談済みか
- 数字・日付の不整合、承認者の疑問:本文と添付で数字が違わないか、本文で確認する箇所:本文、表、添付資料、人が確かめること:最終版の資料と突き合わせたか
- 責任者・体制が不明、承認者の疑問:誰が実行し、誰が責任を持つのか、本文で確認する箇所:担当者、期間、運用体制、人が確かめること:本人が了承しているか
右端の列は、AIには判断できない部分です。AIが指摘できるのは「書かれていない」「食い違って見える」までで、事実かどうかは人が確認します。
AIに査読役を頼む依頼文
査読を頼む依頼文(コピー用)
[ ]の部分を自分の情報に置き換えて使います。
あなたは[会社の業種]の承認者(役職:[部長/役員など])です。
以下の稟議書の下書きを、承認するかどうか判断する立場で読んでください。
# 前提
- 承認者が重視する点:[例:費用対効果、他部署への影響、期限]
- 自社の承認基準:[分かる範囲で。なければ「不明」]
- 過去に差し戻された理由:[あれば。なければ「不明」]
# ルール
- 文章の言い換えや誤字の指摘は不要です。
- 本文にない事実を推測で補わないでください。
- 「判断を止める疑問」だけを挙げてください。
# 出力形式
次の表で出してください。
| 重要度(高/中/低) | 該当箇所 | 承認者が引っかかる理由 | 承認者が聞きそうな質問 | 追記に必要な材料 |
最後に「本文に書かれていないため、書いた本人に確認が必要な事実」を箇条書きにしてください。
# 稟議書の下書き
[ここに本文を貼る。社名・個人名・金額は置き換え済みのもの]「本文にない事実を推測で補わない」という指示は重要です。これがないと、AIがそれらしい根拠を作って文章を整え、確認していない数字が本文に入るおそれがあります。
指摘への回答を本文に反映させる依頼文
指摘を受けたら、AIに直させる前に、自分で答えを用意します。そのうえで次のように頼みます。
先ほどの指摘のうち、[重要度が高の項目番号]に答える形で、本文を修正してください。
# 私が用意した回答(事実です)
- [質問1への回答]
- [質問2への回答]
# ルール
- 上の回答にない数字や事実は追加しないでください。
- 足りない情報は、本文に「【要確認:◯◯】」と残してください。
- 修正した箇所を、修正前・修正後の対比で示してください。「【要確認】」と残させると、AIが空欄を勝手に埋める事故を防げます。提出前に、この印が本文に残っていないか検索で確かめます。
説明用の例と、指摘の扱い方
次は実際の稟議ではなく、手順を示すための仮の下書きです。
説明用の例(入力の一部)
件名:営業部へのタスク管理ツール導入の件目的:営業部の業務効率を上げるため、タスク管理ツールを導入したい。費用:年額約◯百万円。効果:業務の見える化が進み、生産性が向上する見込み。
この下書きなら、査読役のAIからは次のような種類の指摘が出ると考えられます。これも形式を示すための想定で、実際の出力ではありません。
- 「業務効率」「生産性」をどう測るのか分からない(効果が測れない)
- 費用の内訳と、見積の出所がない(金額の根拠が弱い)
- 現行の方法や他のツールとの比較がない(代替案との比較がない)
指摘が出たら、ここからが人の作業です。たとえば「月に何件の抜け漏れが起きているか」「見積書の金額と利用人数」といった事実を自分で集め、反映用の依頼文に入れます。集められない項目は無理に書かず、事前に上長へ相談する項目として残します。
指摘は、次のように振り分けると扱いやすくなります。
- 事実で答えられる指摘:本文に追記します。
- 判断が必要な指摘(比較の基準など):上長や関係部署に先に相談し、結果を書きます。
- 自社には当てはまらない指摘:採用しません。AIは自社の基準を知らないため、一般論が混じります。
- 同じ趣旨が何度も出る指摘:見出しや順序が悪い可能性があります。構成を見直します。
提出前の進め方
- 下書きを書き、機密情報を置き換えたコピーを作る
- 査読の依頼文で、AIに承認者として読ませる
- 重要度が高い指摘から、自分で事実を調べて答えを用意する
- 反映用の依頼文で修正案を作り、数字と日付を元資料と突き合わせる
- 「【要確認】」が残っていないか確認し、できれば同僚にも一度読んでもらう
AIは、承認者の個人的な関心や、社内の力関係、過去の経緯を知りません。AIの査読で質問の抜けを減らし、最後は人が承認者の顔を思い浮かべて確認する、という分担にすると失敗が少なくなります。指摘の数を減らすことが目的ではなく、承認者が最初に気にする質問に、本文だけで答えられる状態にすることが目的です。

