デザイナーに依頼するとき、生成AIの使用をどう取り決めるか:確認項目と書き方の例
AIを使いこなすClaudeで執筆し、GPTで自動校閲・修正しています。

結論から言うと、「AIを使うか使わないか」の二択では足りません。依頼側が事前に決めておくと揉めにくいのは、次の5点です。 1. どの工程で使ってよいか(案出し、素材づくり、仕上げ、文章など) 2. 使ったときに申告してもらうか(何を、いつ、どの形で) 3. 入力してよい情報の範囲(未公開の商品名、顔写真、他社の素材など) 4. 権利と責任の分担(似た作品を指摘されたとき、誰が対応するか) 5. 納品物に何を付けてもらうか(使用ツール、元データ、素材の出どころ) 小さなブランドやイベントの場合、契約書を一から作るより、見積依頼や発注書に1枚のチェック表と数行の文面を添えるほうが現実的です。この記事では、そのチェック表と文面例をそのまま使える形で示します。なお、これは契約文面の雛形としての編集上の提案で、個別の案件に対する法的な保証ではありません。重要な案件や金額が大きい契約では、専門家への確認をおすすめします。
この記事の目次
まず用途ごとに「可・要相談・不可」を決める
最初に、制作物の用途ごとに方針を分けます。全体を一括で禁止すると、デザイナーが使っている一般的な画像編集機能まで対象になるか曖昧になります。逆に全面許可だと、ロゴのように唯一性が重要なものまで対象に入ります。
次の表は、判断のたたき台です。自分の案件に合わせて書き換えてください(説明用の例であり、標準ルールではありません)。
- ロゴ、ブランドマーク、方針の例:不可、または要事前承諾、理由の考え方:他者と似た結果になる可能性があり、商標など長期の権利管理にも関わる
- 案出し、ラフ、ムードボード、方針の例:可(社外に出さない前提)、理由の考え方:最終物に直接残らず、検討の幅を広げる目的
- 背景やテクスチャなど素材、方針の例:要申告、理由の考え方:最終物に残るため、どのツールで作ったか後から追えるようにする
- 人物・実在の人に似せた表現、方針の例:要事前承諾、理由の考え方:本人の同意や肖像の扱いが絡む
- 文章(キャッチコピー、説明文)、方針の例:要申告、理由の考え方:事実の誤りや他者表現との類似を人が確認する必要がある
- 写真のレタッチ、不要物の除去、方針の例:可(範囲を申告)、理由の考え方:既存素材の補正だが、内容を大きく変える場合は報告が必要
「要事前承諾」は、使う前に依頼側が承諾する運用、「要申告」は、使ったあとで納品時に報告する運用です。どちらにするかは、後から差し替えが難しいかどうかで決めると整理しやすくなります。
取り決め項目のチェック表
依頼書や発注書に添える表です。空欄を依頼側が埋めてから送り、デザイナーに内容を確認してもらい、合意できるか返信を求めます。
- 1、取り決める項目:使用の可否、決める内容の例:全面不可/用途別に可(上の表を添付)、記入欄:
- 2、取り決める項目:対象とする範囲、決める内容の例:画像生成、文章生成、画像の自動補正のどこまでを「生成AI」に含めるか、記入欄:
- 3、取り決める項目:事前承諾が必要な場面、決める内容の例:ロゴ、人物表現など、記入欄:
- 4、取り決める項目:申告の方法とタイミング、決める内容の例:見積時/制作中の変更時/納品時。メールで可、記入欄:
- 5、取り決める項目:申告する内容、決める内容の例:使ったツール名、使った工程、AI生成部分の位置、記入欄:
- 6、取り決める項目:入力してよい情報、決める内容の例:公開済み情報のみ可。未公開の商品情報、個人情報、顔写真、他者の素材は入力不可、記入欄:
- 7、取り決める項目:参照・模倣の禁止、決める内容の例:特定の作家や他社ブランドの名前を指定した生成をしない、記入欄:
- 8、取り決める項目:ツールの利用条件、決める内容の例:商用利用できるプラン・規約のツールのみ使用、記入欄:
- 9、取り決める項目:納品物、決める内容の例:最終データ、使用素材の一覧、必要に応じて元データ、記入欄:
- 10、取り決める項目:問題が出たときの対応、決める内容の例:類似の指摘があった場合の連絡先、差し替えの費用負担、記入欄:
- 11、取り決める項目:権利の扱い、決める内容の例:著作権が発生する部分の譲渡・利用許諾と、第三者素材の利用条件。AI生成部分の独占利用を保証するかも確認、記入欄:
- 12、取り決める項目:依頼側の公開時の表記、決める内容の例:AI使用を表示するか、しないか(プラットフォームの規定も確認)、記入欄:
6番の入力情報は見落とされがちです。たとえば、発売前の商品名やイベントの出演者名をそのままAIツールに入力すると、情報が外部サービスに渡ります。依頼側が「入れてよい情報」を明示しておくと、デザイナー側も判断しやすくなります。なお、ツールの学習利用の設定と、依頼側に対する秘密保持の約束は別の話です。学習に使われない設定にしても、守秘義務を結んだことにはなりません。機密性が高い案件では、通常の秘密保持の取り決めを別に確認してください。
依頼書に添える文面例
以下は説明用の例です。実際に使う前に、自社の案件に合わせて書き換えてください。
例A:原則使わない場合
本案件では、最終納品物の制作に生成AI(文章・画像・音声などを自動生成するサービス)を使用しないでください。ただし、明るさや色味の補正、ノイズ除去など既存データの通常の編集機能は使用して構いません。判断に迷う場合は、作業前にご相談ください。
例B:事前承諾制の場合
ロゴ、人物表現、キャッチコピーについては、生成AIを使用する前にメールで承諾を得てください。それ以外の工程(ラフ案、背景素材など)で使用する場合は、納品時に、使用したツール名と使用した箇所をお知らせください。未公開の商品情報、個人情報、他者の著作物は、AIサービスに入力しないでください。
例C:申告したうえで使える場合
生成AIの使用は可能です。ただし、次の点を守ってください。1. 納品時に、使用したツール名と、AI生成物を含む箇所を一覧でお知らせください。2. 商用利用が認められているサービス・プランのみを使用してください。3. 特定の作家名、他社ブランド名、実在の人物名を指定した生成は行わないでください。4. 公開後に類似の指摘があった場合は、速やかに連絡し、必要に応じて差し替えに協力してください。
納品時の申告フォーム(説明用の例)
デザイナーに記入してもらう欄を、次のように短くしておくと運用が続きます。
【生成AI使用の申告】
使用:あり / なし
ツール名:
使用した箇所(ファイル名・ページ):
生成した内容(例:背景画像、見出し案):
入力した情報の種類(例:一般的な説明文のみ):
人が確認・修正した点:ツールの規約と著作権の考え方で、依頼側が見ておくこと
デザイナーが使うツールによって、出力物の扱いは異なります。たとえばCanvaのAI Product Termsは、確認した時点(2026年10月29日)のページに2026年6月26日施行と表示されていました。その記述によると、Canvaとユーザーの間では、適用法で認められる範囲で入力の所有権はユーザーに留保され、出力はユーザーが所有します。ただし、Canvaのライブラリ素材を含む・加工した出力は、その素材のライセンスに従います。商用利用を含む適法な目的での利用は、規約遵守と自己責任を条件に認められています。一方で、次のような点も書かれていました。
- 出力に関する責任はユーザーにあり、Canvaは正確性などを保証しない
- AIの性質上、出力が唯一のものになるとは限らず、他のユーザーが似た結果を得ることがある
- AI生成物を人が作ったものと偽ること、出典情報(メタデータ等)を取り除くことは禁止されている
つまり、ツール側が「商用利用可」としていても、他と似ていないことや、問題がないことまで保証されているわけではありません。依頼書の「類似の指摘があったときの対応」(チェック表の10番)と、「メタデータを消さない」といった取り決めは、このような規約の内容とも噛み合います。ツールの条件は更新されるため、使うプランの規約は案件ごとに確認してもらうのが安全です。
日本の著作権の考え方については、文化庁が「AIと著作権に関する考え方について」を2024年3月15日に取りまとめています。同ページでは、関係者間での適切なコミュニケーションの重要性にも触れられています。この点は、事前に取り決めて書面に残すという本記事の進め方と同じ方向です。また、同資料の39〜40ページでは、AI生成物の著作物性は、人の創作的寄与などを踏まえて個別に判断されると整理されています。契約で著作権の譲渡を定めても、著作権が発生していない部分に新たな著作権が生じるわけではありません。ただし、この記事は個別の生成物が著作権侵害に当たるか、著作物として保護されるかを判断するものではありません。海外向けの販促物では、国ごとに扱いが異なる可能性があります。
取り決めをした後に確認すること
文面を送って終わりにせず、次の順で運用すると、後から確認がしやすくなります。
- 見積依頼の段階で表を送る。 後から追加すると、デザイナー側の工程や費用に影響します。
- 返信で合意を残す。 メールやチャットで、どの版のチェック表・文面に合意したか分かる返信をもらい、本文や添付資料と一緒に保存します。別途契約で定めた手続きがある場合は、それに従います。
- 途中で方針が変わったら再申告してもらう。 最初は不使用の予定でも、途中で素材づくりに使いたくなることがあります。
- 納品時に申告フォームを受け取る。 「なし」の場合も、空欄ではなく「なし」と書いてもらいます。
- 公開前に人の目で確認する。 AI生成部分について、既存の作品やロゴに似ていないか、文章に事実の誤りがないか、人物の表情や指の形などに不自然な点がないかを見ます。画像検索で似たものがないかを調べるのも一つの方法です。
運用していると、「ここまでがAIか」という線引きで迷うことが出てきます。迷ったら、チェック表の2番(対象範囲)に戻って、定義を書き足してください。
また、依頼側の都合で「AIを使ったと分からないようにしてほしい」と求めるのは避けたほうが無難です。出典情報の削除を禁じるツールもあり、展示会やコンテストなどでは、AI使用の表記を求められる場合もあります。応募規約や掲載先のルールは、制作前に確認してください。
まず今日できること
- 上の判断表をコピーし、自分の案件の制作物に合わせて「可・要相談・不可」を埋める
- チェック表の1、4、6、10の4項目だけでも記入する
- 文面例A〜Cのうち近いものを選び、依頼メールに貼り付ける
- 納品時の申告フォームを、納品条件に加える
最初から全項目を埋める必要はありません。「入力してよい情報」「申告のタイミング」「問題が出たときの対応」の3つを決めるだけでも、依頼後の認識違いはかなり減らせます。

