ゲームを介護やリハビリに使う事例——現場で何が試され、何が効果的とされているか
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「ゲームはリハビリに使えるのか」と調べ始めた人の多くは、家族の退院後の生活改善を考えている方か、介護施設や医療現場でのレクリエーション担当者ではないでしょうか。あるいは、ブラウザゲームを作っていて「自分の作品が誰かの役に立てないか」と考えている開発者かもしれません。 ゲームを医療・介護に活かす取り組みは、日本でも海外でも継続的に行われています。ただし「ゲームは体に悪い」というイメージと「ゲームで認知症が改善する」という過大な期待の間には大きな落差があります。この記事では、現場で実際に試されてきた事例の傾向と、導入を検討するときの判断基準を整理します。
リハビリに使われるゲームの「種類」を整理する
ゲームをリハビリや介護に使う場合、大きく三つの文脈に分かれます。
身体機能のリハビリでは、体を動かすことそのものが目的です。脳卒中後の上肢機能回復や、高齢者の転倒予防のために、腕や手指の動きを要求するゲームが使われます。家庭用ゲーム機の体感コントローラーを使ったバランストレーニングは、欧米の理学療法の現場で2000年代から試され、国内でも病院や老健施設で取り入れられてきました。プレイヤーが身体を動かす理由(ゲームをクリアしたい)が、単純な反復運動より継続しやすいという利点があります。
認知機能の維持・訓練では、記憶・注意・計画といった認知領域を刺激するゲームが使われます。パズル、カード合わせ、音楽リズムゲームなどが代表例で、デジタルとアナログの両方が活用されています。ただし「認知症の予防・改善」という表現には科学的な議論がまだ続いており、現段階では「特定の認知課題の成績が向上する」という限定的な効果が確認されている研究が多く、それが生活全般の認知機能改善に直結するかは一概に言えません。
心理的・社会的なケアでは、楽しさ・達成感・他者とのつながりがねらいです。認知症の進んだ方が昔なじみのメロディに反応したり、集団でのゲームで表情が明るくなったりする様子は、多くの介護職員が経験として報告しています。数値化しにくい部分ですが、QOL(生活の質)の観点から重視されています。
国内外で報告されている具体的な事例
日本では、タブレット端末を使った認知症予防プログラムが複数の自治体や介護事業者で導入されています。簡単な記憶課題や指タッチのゲームをデジタル化し、継続記録を家族や担当者と共有する仕組みを合わせて提供しているものが多いです。
リズムゲームを活用した事例も報告されています。音楽に合わせて画面をタップする操作は手指の巧緻性(細かい動きの器用さ)を要求し、リズムに乗ることで気分が上がる側面もあります。音楽療法の枠組みとデジタルゲームを組み合わせた形と言えます。
海外では、VR(バーチャルリアリティ)を使った恐怖症の治療や慢性疼痛の緩和、外傷後ストレスのケアなど、ゲームエンジンで作られたコンテンツが臨床試験に使われているケースもあります。ただしVRは機材コストや酔いのリスクもあるため、一般の介護現場への普及はまだ限定的です。
ブラウザゲームの活用としては、インターネット接続さえあれば専用機材なしでプレイできる手軽さが評価されています。タブレットやPCで動くシンプルなミニゲームが、デイサービスのレクリエーション時間に使われる例が増えています。
導入を検討するときの判断基準
ゲームをリハビリや介護に取り入れるかどうかを判断するとき、以下の観点で整理すると現場での議論が進みやすくなります。
目的を最初に決める
「楽しんでもらう」「手指を動かす回数を増やす」「認知課題を週3回続ける」など、目的の粒度によってゲームの選び方が変わります。目的が曖昧なまま導入すると、効果の評価もできず、現場スタッフの負担だけが残ります。
対象者の状態に合わせる
- 操作の複雑さ:ボタン一つで進むものか、複数の入力が必要かで適応範囲が変わります
- 画面の見やすさ:文字サイズ・コントラスト・アニメーションの速度は高齢者に合わせた調整が必要です
- 時間の長さ:集中できる時間が短い方には、1セッション5〜10分以内のゲームが向いています
- 失敗時の演出:大きなブザー音や「ゲームオーバー」の派手な演出が不安を高めることがあります
医療・介護職との連携を前提にする
ゲームそのものの効果を過信しないことが大切です。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリ専門職が関与するプログラムの中で、補助ツールとしてゲームを位置づけるのが現実的です。「ゲームをやれば回復する」ではなく「専門家が立てた計画の一部として、継続のきっかけになる」という役割です。
記録と振り返りを設ける
どのゲームを・何回・どのくらいの時間プレイしたかを記録することで、担当者の引き継ぎや家族への説明が容易になります。スコアや操作履歴をデータとして残せるデジタルゲームは、この点でアナログより扱いやすい場合があります。
作る側が意識できること
介護・リハビリ用途を想定したゲームを作る場合、一般向けの作り方とは異なる考え方が必要になります。
難易度の下限を広げることが最初の課題です。ゲーム開発では「適度な難しさ」がモチベーションを維持すると言われますが、高齢者や障害のある方を対象にする場合、失敗体験を最小化しつつ達成感を確保する設計が求められます。ミスしても画面が優しく次の選択肢を提示するような流れが有効です。
操作の単純化も重要です。マウスクリック一つ、あるいはタッチ一回で完結するインタラクションを基本にし、複合操作(ドラッグ、同時押しなど)は避けるか選択式にします。
視覚・聴覚のアクセシビリティについても考慮が必要です。色だけで情報を伝えない、文字には十分なサイズを確保する、音声は補助として使い音なしでも遊べる、といった配慮がアクセシビリティの基本です。
専用の医療機器や治療アプリとして提供する場合は、国の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の規制対象になる可能性があります。「治療」「診断」「予防」といった表現を使う際は、専門家や監督官庁への確認が必要です。レクリエーション用途として提供する場合はその限りではありませんが、個別の判断は専門家や公式情報で確認してください。
次の行動
介護・リハビリ用途のゲームに関心がある方は、作業療法士や理学療法士が参加する専門学会の発表資料や、厚生労働省が公開している認知症施策関連の資料から現場のニーズを把握することを勧めます。ゲームを作れる方は、まずシンプルな操作で動くプロトタイプを作り、実際の施設関係者に見せてフィードバックをもらうことが最短の改善ルートです。アソバースではブラウザゲームをZIPまたはHTMLファイルで公開できるため、プロトタイプの共有先として活用できます。
参考資料
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」関連資料
- 日本作業療法士協会 学術誌・実践資料
- 日本リハビリテーション医学会 学術情報
- WHO「リハビリテーション2030」報告書

