ゲームの「チュートリアル」が嫌われる理由
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チュートリアルは「遊び方を教えてくれる親切な仕組み」のはずです。それなのに、多くのプレイヤーが「長い」「うるさい」「スキップしたい」と感じます。この感覚は単なるわがままではなく、学習心理と遊びの構造に根ざした、かなり合理的な反応です。 嫌われるチュートリアルには共通のパターンがあります。そのパターンを知ると、なぜ自分がストレスを感じるのかが言葉にできるようになります。また、ゲームを自分で作る立場の人にとっては、プレイヤーが離脱する瞬間を回避するための具体的な手がかりにもなります。 この記事では「なぜチュートリアルが嫌われるのか」を心理的・構造的な側面から整理し、「良いチュートリアルとは何か」を判断するための基準を示します。
チュートリアルが嫌われる根本的な理由
チュートリアルへの不満を突き詰めると、ほぼ一つの問題に行き着きます。「自分がコントロールしている感覚を奪われる」という問題です。
ゲームの根本的な喜びは、自分の判断と操作が結果に結びつくことにあります。チュートリアルの多くは、その回路を一時的に遮断します。「ここを押してください」「次にこれをしてください」と誘導され続けると、プレイヤーは操作しているのではなく「操作させられている」状態になります。自律性(自分で選んでいるという感覚)が損なわれると、楽しさは急速に薄れます。
これは心理学でいう「自己決定理論」の枠組みでも説明できます。人間の内発的な動機づけには自律性・有能感・つながりの三要素が重要とされており、チュートリアルは特に「自律性」と「有能感」の両方を削ることがあります。細かく誘導されすぎると自律性が失われ、簡単すぎる操作確認を繰り返させられると有能感も得られません。
具体的な「嫌われパターン」4つ
チュートリアルの失敗には、繰り返し現れる型があります。
1. 操作を止めて文章を読ませる
ゲームを始めたばかりのプレイヤーは「早く触りたい」という状態にあります。その状態でテキストの壁を出すと、内容が頭に入りません。読んでいる間もゲームは止まっているため、「まだ始まらないのか」という焦りだけが積み重なります。説明を読んでも、実際に使う場面が来るころには忘れていることも多く、学習効率も低いです。
2. すでに知っていることを教える
同じジャンルのゲームを複数遊んでいるプレイヤーにとって、「左スティックで移動します」「ジャンプはAボタンです」という説明は不要です。経験者に基礎を繰り返させるチュートリアルは、「自分はこの程度だと思われているのか」という軽い侮辱感を生むことがあります。スキップできない構造の場合、この感覚はより強くなります。
3. ゲームの流れを中断する
物語のある作品で、緊迫した場面の直後に「ではここでアイテム欄の使い方を覚えましょう」と切り替わる構成があります。感情が高まっているところに事務的な説明が割り込むと、没入感が一気に崩れます。チュートリアルを物語の外側に置いたことで、逆にゲームの世界観を破壊してしまうケースです。
4. 失敗を許さない
「正しい操作をするまで次に進めない」設計は、プレイヤーの自由な探索を封じます。ゲームの多くは試行錯誤を通じて学ぶものですが、チュートリアルで試行錯誤を禁じると、本来のゲームプレイより窮屈に感じられます。間違えると同じ説明がループする仕組みも、フラストレーションを高める要因です。
嫌われないチュートリアルの条件
逆に、プレイヤーに好意的に受け取られるチュートリアルには共通した特徴があります。
遊びの中で自然に教える設計が最も評価されやすいです。「ここを押せ」という命令ではなく、押さないと先に進めない地形を用意する、あるいは押したくなる状況をつくる、という方法です。プレイヤーは指示されたのではなく「自分で気づいた」と感じます。この感覚が有能感につながります。
必要なときに必要な情報だけ出す設計も重要です。全操作を最初に詰め込むより、その機能を使う直前に短く示す方が記憶に残ります。脳は使う予定のない情報をすぐに手放すため、タイミングは学習効率に直結します。
スキップや再確認の選択肢を用意することも、自律性の確保という意味で有効です。経験者はスキップし、不安な人は後から確認できる構造にするだけで、同じ内容でも受け取られ方が大きく変わります。
失敗を学習の一部として組み込む設計は、チュートリアルの目的そのものと一致します。失敗したらヒントが出る、何度でも試せる余地がある、という設計のほうが、禁止と強制より早く習得につながります。
「スキップしたい」は甘えではない
「チュートリアルを飛ばしたがるのは近道ばかり求めているからだ」という見方もあります。しかし実態はそれほど単純ではありません。
スキップしたいという衝動は多くの場合、「もう知っている」か「実際に触って覚えたい」かのどちらかです。前者は経験によるもの、後者は能動的な学習スタイルの表れです。どちらも責められるものではなく、むしろ「まず自分でやってみたい」という動機はゲームへの関与度が高い証拠でもあります。
一方で、本当に何も知らない状態でスキップして詰まったとき、ヘルプが見当たらないゲームはプレイヤーを置き去りにします。「スキップできる、でも困ったら戻れる」設計が、どちらの層にも対応できる現実的な解です。
チュートリアルを設計するときの判断基準
ゲームを作る立場から見ると、チュートリアルの要否は次の問いで判断できます。
- この操作や概念は、実際にゲームをプレイする中で自然に発見できるか
- 説明しないと詰まる場面はどこか、そこだけに絞れないか
- テキストで伝えることと、操作で体感させることを分けられているか
- 同ジャンルの経験者と未経験者で、別のルートを用意できるか
この四つを確認すると、「念のため全部説明する」という過剰設計を防ぎやすくなります。チュートリアルが長くなりがちなのは、作者側の不安(知らなかったらどうしよう)が原因であることも多く、プレイヤーへの信頼を少し高めるだけで内容を絞れる場合があります。
次の行動
自分がプレイしたゲームのチュートリアルで「ここは良かった・悪かった」と感じた点を、上記の四パターンに照らして言語化してみてください。ゲームを作る人であれば、現在設計中のチュートリアルをいったん書き出し、「これは遊びの中で伝えられるか」を一つひとつ問い直すことから始めると整理しやすくなります。アソバースではHTMLやZIPでゲームを投稿・公開できるため、チュートリアルを改善したバージョンを気軽に試してプレイヤーの反応を確かめることもできます。
参考資料
- Self-Determination Theory(自己決定理論)関連の基礎文献(Deci & Ryan)
- ゲームデザイン論の標準的な教科書(『ゲームデザインバイブル』など)
- 認知負荷理論(Cognitive Load Theory)に関する教育心理学の概説


