ピアノの鍵盤を5つに減らすと、曲の骨組みは見えてくるか
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12個ある音のうち、使える音を5つだけにして「きらきら星」を弾く場面を考えてみます。必要な音のいくつかが手元になく、そのままでは弾けません。置き換えて弾いたとき、聞いた人はそれでも「きらきら星」だと分かるでしょうか。分かるなら、曲を曲として成り立たせているのは音そのものではなく、別の何かです。 この記事は、その「別の何か」を自分で確かめるための実験の設計書です。結果は書きません。答えは、手順どおりに弾いて記録した読者の手元で出ます。 使うのは「雨音のピアノ」と紙とペン、できれば聞き手が一人です。確かめるのは、5音に制限したとき曲のどこが残り、どこが消えるかです。候補は音の高低の輪郭、リズム、繰り返しの形です。
用意するもの
- 雨音のピアノ:キーボードの演奏に対応しています。割り当てキーは A W S E D F T G Y H U J の12個で、Z/X で音域を変えられます。録音は30秒・128音までで、画面を開いている間だけ残ります。
- 紙とペン:記録は紙に取ります。録音は再読み込みで消えるため、結果を頼れる場所は紙だけです。
- タイマー:スマートフォンのもので構いません。
- 聞き手(任意):曲名を伏せて聞いてもらえる人がいると、比較が客観的になります。
題材は「きらきら星」の旋律を勧めます。ドとソで始まる単純な旋律で、全部で42音あります。ファの音が8回出てくるので、5音に制限すると「どう置き換えるか」という判断が自然に生まれます。
5音は「ド・レ・ミ・ソ・ラ」にします。長音階(ドレミファソラシ)からファとシを抜いたもので、ペンタトニック(5音音階)の一種です。日本ではヨナ抜き音階とも呼ばれます。ファとシは隣の音とぶつかりやすいので、抜いても音が濁りにくい組み合わせです。
最初に、雨音のピアノでどのキーがどの音に当たるかを確かめます。12個のキーの並びは、白鍵7つと黒鍵5つを左から並べたものと推測できます。ただし対応は作品を開いて実際に鳴らして確かめてください。ドから順に鳴らして音階になっているかを聞けば分かります。確認できたら、使う5つのキーに付箋を貼り、残りの7つは「触らない」と決めます。音色、タッチ、余韻の設定は全条件で同じにして、実験中は触りません。
手順
条件は4つです。弾く順番は人によって練習効果が出るため、毎回変えます。
- A、内容:12音すべてを使い、そのまま弾く
- B、内容:5音のみ。ファの代わりにミを弾く
- C、内容:5音のみ。ファの代わりにソを弾く
- D、内容:全部の音を同じ高さ(ド)で、リズムだけ弾く
旋律は次のとおりです。
- ド ド ソ ソ ラ ラ ソ
- ファ ファ ミ ミ レ レ ド
- ソ ソ ファ ファ ミ ミ レ
- ソ ソ ファ ファ ミ ミ レ
- ド ド ソ ソ ラ ラ ソ
- ファ ファ ミ ミ レ レ ド
条件BとCでは、2・3・4・6行目のファを置き換えます。置き換えるのは合計8音です。ここでの問いは、「近い音に寄せる」のであれば、上と下のどちらに寄せるかで曲の印象が変わるのか、です。
進め方は次のとおりです。
- 条件ごとに、まず楽譜を見ながらゆっくり1回練習します。練習は全条件で同じ回数にします。
- テンポを揃えるため、タイマーかメトロノームで一定の速さ(例えば1音1秒前後)を決めます。条件が変わっても変えません。
- 本番を各条件3回弾きます。1回弾くごとに、後述の項目を紙に書きます。
- 聞き手がいる場合は、曲名を伏せたまま聞いてもらいます。何音目で曲名が分かったかを聞き取り、「分からなかった」場合もそのまま記録します。
- 条件の順番を変えて、別の日にもう一度繰り返せると、練習効果の影響を見分けやすくなります。
記録の取り方
条件ごと、1回ごとに1行書きます。項目は次の4つで十分です。
- つまずき回数:弾き間違い、止まった回数。
- テンポの保ち具合:最初と最後で速さがずれたかどうかを「ずれた/ほぼ同じ」で記録します。
- 曲らしさの自己評価:自分の耳で「きらきら星に聞こえる度合い」を1〜5で付けます。基準は毎回同じ言葉で決めておきます(例:5=すぐ分かる、1=全く分からない)。
- 聞き手が曲名に気づいた音数:何音目で気づいたか。気づかなければ空欄ではなく「なし」と書きます。
聞き手がいない場合は、自己評価とつまずき回数が中心になります。そのときは、聞こえ方の評価をできるだけ時間を置いてから付けると、弾いた直後の思い込みに引きずられにくくなります。録音機能を使って弾いた直後に聞き返す方法もあります。ただし録音は画面を開いている間しか残らないので、再読み込みや閉じる前に評価を書き終えます。
1条件3回ずつ、計12回分の記録です。同じ条件内のばらつきが大きければ、条件間の差と呼べるか慎重に見る必要があります。
結果の読み方
数字が並んだら、次の見方で読みます。結果がこうだったらこう判断する、という目安です。
- BもCも曲らしさが高い:8音を置き換えても曲として成り立っています。旋律の細かい音高よりも、大きな輪郭(上がって下がる形)や繰り返しの構造が骨組みである可能性があります。
- BとCで差が出た:置き換え先の音の高さが印象を左右しています。ファに近いのはミとソのどちらかを、弾いた感触と聞き手の反応から見比べます。差があるなら、上に寄せるか下に寄せるかで旋律の輪郭が変わっていると解釈できます。
- Dでも聞き手が曲名に気づく:リズムだけで曲が特定できています。音高より拍の並びが曲の骨組みを担っている、という見方ができます。逆に、Dで全く分からないのにBでは分かるなら、音高の動きが決め手だったことになります。
- Dでは分からないが、A・B・Cでは条件ごとに気づく音数が違う:どの音のあたりで手がかりが出そろうかを見ます。曲の冒頭の数音で決まるのか、2行目の下降で決まるのかが見えてきます。
注意したいのは、1回の結果で断定しないことです。この実験は一人分の少数回の観察なので、「自分の耳と指ではこうだった」までが言える範囲です。曲や聞き手を変えて繰り返すと、判断の確かさが増します。
起こりやすい誤り
- テンポが条件ごとに変わる:5音だと弾きにくさが減ってつい速くなりがちです。速さが変わると曲らしさの評価も変わるので、メトロノームなどで揃えます。
- 音色や余韻を途中で変える:余韻の長さで聞こえ方が変わります。実験中は設定を固定します。
- 聞き手が先に曲を知ってしまう:題名を口にしたり、先に楽譜を見せたりすると気づく音数の意味がなくなります。
- 順番による練習効果:毎回A→B→C→Dの順だと、後の条件ほど慣れて有利になります。順番は入れ替えます。
- 置き換えの数を条件ごとに変える:BとCで置き換える数は同じ8音にします。数が違うと、置き換え先の差なのか数の差なのか分けられません。
- キーの誤タッチ:5音以外のキーを押すと、その回の記録が崩れます。付箋を貼り、押し間違えた回は「つまずき」として数えるのか、やり直すのかを先に決めておきます。
5音だけを鳴らすページを自作する
5音以外のキーが鳴らない環境を作りたい人向けに、単独で動く最小のHTMLを載せます。保存して piano5.html などの名前でブラウザで開くと、A S D G H キーだけが鳴ります。ドレミソラに当たる周波数を指定しているので、先に確かめたキーの対応とは別物として使えます。
<!doctype html>
<meta charset="utf-8">
<title>5音ピアノ</title>
<p>A S D G H キーで鳴ります(ド レ ミ ソ ラ)</p>
<script>
const notes = { a: 261.63, s: 293.66, d: 329.63, g: 392.00, h: 440.00 };
let ctx;
addEventListener("keydown", (e) => {
if (e.repeat) return;
const f = notes[e.key.toLowerCase()];
if (!f) return;
ctx = ctx || new AudioContext();
const osc = ctx.createOscillator();
const gain = ctx.createGain();
osc.type = "triangle";
osc.frequency.value = f;
gain.gain.setValueAtTime(0.3, ctx.currentTime);
gain.gain.exponentialRampToValueAtTime(0.001, ctx.currentTime + 1.2);
osc.connect(gain).connect(ctx.destination);
osc.start();
osc.stop(ctx.currentTime + 1.2);
});
</script>この方法なら、押し間違いで他の音が鳴る心配がなくなります。ただし音色が単純になるため、雨音のピアノの音色との差が結果に影響します。両方で弾いて比べるなら、音色の違いも誤差の要因として記録しておきます。
次の行動
まず雨音のピアノを開き、12個のキーの対応を音階で確かめて、使う5つのキーに付箋を貼ってください。そのうえで「きらきら星」を条件Aと条件Bで1回ずつ弾き、曲らしさを1〜5で紙に付けるところから始めます。5音で曲が崩れなかったなら、次は別の曲を選んで同じ手順を繰り返し、骨組みの正体が曲によって変わるかどうかを確かめてみてください。

