ボードゲームのAIが人間を超えた順番
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「AIが人間を超えた」という話題は将棋や囲碁でよく聞きますが、ゲームによってその時期は大きく異なります。チェッカーは1990年代に、チェスは1997年に、オセロも同じ頃に、囲碁はずっと後の2016年に——それぞれの「超えた瞬間」には、ゲームごとの構造的な難しさが反映されています。 順番を知ると、AIが何をどう攻略してきたかが見えてきます。単に「強くなった」のではなく、探索空間の広さ・評価関数の難しさ・偶然性の有無といった要因がゲームごとに異なり、そのハードルを乗り越える手法もゲームに応じて変わってきました。この記事では、代表的なボードゲームを「AIが人間トップを超えた時期」の順に並べ、なぜそのゲームがその時期だったのかを解説します。
この記事の目次
チェッカーとバックギャモン――最初に攻略された2本
最初にプロレベルを超えたのはチェッカー(ドラフツ)です。チェッカーはチェスより盤面が小さく、駒の動きも限定されているため、探索木の深さを稼ぎやすいゲームです。1990年代初頭にはジョナサン・シェーファーらが開発したプログラム「Chinook」が世界チャンピオンと互角以上に渡り合い、2007年には数学的に「引き分けが最善」と証明(弱い意味での完全解析)されました。
バックギャモンは偶然性(サイコロ)を含むにもかかわらず、AIが比較的早く強豪レベルに達したゲームです。1990年代初頭にジェラルド・テサウロが開発した「TD-Gammon」は強化学習(自己対戦を繰り返してパラメータを更新する手法)を使い、上級者と互角に戦える棋力を示しました。偶然性があると人間が「運で負けた」と感じやすいため「超えた」の定義が難しいものの、確率的な最善手の精度という意味では人間を上回っています。
チェスとオセロ――1997年という節目
チェスのAIが世界チャンピオンを破った年として広く知られているのが1997年です。IBMの「Deep Blue」がガルリ・カスパロフ氏との6局マッチを勝ち越しました。Deep Blueは専用ハードウェアによる高速な全探索と、チェスの専門家が調整した評価関数を組み合わせたシステムです。
オセロ(リバーシ)でも同じ1997年に象徴的な出来事がありました。「Logistello」が当時の世界チャンピオンに全勝しています。オセロはチェスより盤面状態数が少なく見えますが、終盤の完全読みが難しいゲームです。Logistelloはパターンベースの評価関数と高速な探索を組み合わせ、終盤を正確に読み切る能力で人間を圧倒しました。
チェスとオセロが同じ時期に「人間超え」を達成した背景には、1990年代のハードウェア性能の向上と、ゲーム固有の評価関数を研究者が長年かけて洗練してきた積み重ねがあります。
将棋――2010年代前半に訪れた転換点
将棋はチェスよりはるかに広い探索空間を持ちます。駒を取っても盤に持ち駒として再利用できるルールが「引き分けに終わる探索枝が少ない」という特徴を生み、終局まで手数が伸びやすく、合法手の数が多いです。このため、チェスで有効だった手法をそのまま転用しても強さが出にくく、AIの攻略は後になりました。
2010年代初頭から「コンピュータ将棋選手権」の上位ソフトがプロ棋士とエキシビション対局を行い、勝利を収める事例が増え始めます。評価関数の自動学習(機械学習による自己改善)が精度を高め、特定の局面に頼らない汎用的な強さが出てきた時期です。プロ棋士との公式対局という形で「超えた」とはっきり言える転換点は2013年〜2017年頃に複数の棋士が敗れた局面に見られ、現在ではトップ棋士でも市販ソフトに勝つことは非常に難しいとされています。
囲碁――2016年が遅かった理由
囲碁のAIが人間トップを超えたのは2016年、DeepMindの「AlphaGo」が世界トップ級のプロ棋士と対局して勝利したときです。チェスと比べると約20年遅れています。
その理由は盤面の広さです。19×19の囲碁は合法手の数がチェスの数十倍に達し、ゲームが終局するまでの深さも深い。従来の全探索+評価関数の組み合わせでは探索の量が計算上現実的でなく、評価関数を作ること自体も難しいとされていました。「今の局面がどちらに有利か」をチェスのように駒の価値の足し算で近似できず、石の勢力や確定地の計算には広い文脈が必要です。
AlphaGoが突破口を開いたのは、深層ニューラルネットワークと強化学習(自己対戦による改善)、モンテカルロ木探索(手を全部読まずにランダムサンプリングで評価する手法)の組み合わせでした。評価関数を人間が設計するのではなく、大量の棋譜と自己対戦データからネットワーク自身に学ばせた点が画期的でした。
「超えた順番」が示す共通パターン
各ゲームのAI攻略史を並べると、次のような傾向が浮かび上がります。
- 探索空間が小さいゲームほど早く攻略された。チェッカー→バックギャモン→チェス・オセロ→将棋→囲碁という順は、おおむね状態数・合法手数の増加順に対応しています。
- 評価関数を人間が設計できるゲームは、専用ハードウェアの高速化で先に超えた。チェスはその典型です。
- 評価関数の設計自体が難しいゲームは、機械学習が登場するまで待った。囲碁と将棋(特に最後の壁)はこちらに当たります。
- 偶然性があるゲームは「超えた」の基準が確率的になる。バックギャモンはその代表で、1局の勝敗より期待値で評価されます。
逆に言えば、「まだ人間がAIに勝てる余地があるゲーム」は複雑さの次元が異なる場合(チームや複数人での交渉が絡む不完全情報ゲームなど)か、評価基準が主観的な場合(審美性が重視される将棋の一部棋風など)です。
次の行動
興味が湧いたら、まずオセロやチェスのブラウザ版でAIの棋力レベルを変えながら対局してみると、「どのくらいの深さまで読んでいるか」を体感できます。アソバースでも公式作品「潮目のオセロ」「灯りのチェス」でAI対戦を試せますので、強さのレベルを切り替えながら対局してみてください。強さの段階と探索の深さがどう対応しているかを意識すると、上で紹介したAI開発の歴史が具体的なものとして感じられます。
参考資料
- Jonathan Schaeffer et al., Chinook関連論文(Science誌掲載)
- Gerald Tesauro, TD-Gammon関連論文(Communications of the ACM掲載)
- DeepMind, AlphaGo Nature論文(Nature誌掲載)
- 情報処理学会 コンピュータ将棋プロジェクト 公式記録



