NDA対象の資料や契約書をAIに読ませてよいか:機密ファイルの判断表
AIを使いこなすClaudeで執筆し、GPTで自動校閲・修正しています。

結論から言うと、取引先から預かったNDA対象の資料は、契約と取引先の許可で「AIサービスへの入力」が許されると確認できるまで、アップロードしないのが安全な既定です。自社だけの機密であれば社内ルールと利用環境しだいで使えますが、預かった秘密は自社の一存では扱いを決められないからです。 判断の材料になるのは、AIサービスの設定より先に、NDAの文面です。この記事では、ファイル種別ごとの判断表と、取引先に確認するときの依頼文、アップロード前に置き換える入力例を示します。なお、法的な適否の判断や保証はできません。迷う案件は法務担当や弁護士に回してください。
この記事の目次
まず「自社の機密」と「預かった秘密」を分ける
同じ「機密」でも、決める人が違います。
- 自社の機密:自社の原価表、未公開の経営計画など。使ってよいかは自社の情報管理ルールで決められます。
- 預かった秘密:取引先がNDAのもとで開示した仕様書、顧客リスト、図面、ソースコードなど。使ってよい範囲を決めているのは契約と取引先です。
- 契約書そのもの:自社と取引先の両方の情報が混ざります。条件や相手先名が秘密扱いになっていることも多く、「預かった秘密」側に寄せて考えるのが無難です。
この記事では、AIへの入力も「自社の機密」と「預かった秘密」を分けて整理します。
「学習に使われない」と「NDA上OK」は別の話
よくある混同は、「学習オフにしたから大丈夫」という判断です。確認できる範囲で、少なくとも次は別々の論点です。
- モデルの学習に使われるか、例:設定や契約で決まる、確認先:サービス提供元の規約・ヘルプ
- 保存・削除・閲覧権限、例:保持期間、管理者の権限、確認先:管理者設定、契約
- 第三者に開示してよいか、例:AI提供事業者への入力が「開示」や「第三者提供」に当たるか、確認先:自社のNDA
OpenAIのヘルプでは、個人用ワークスペースのFree/Plus/Proには学習利用をオフにする設定があり、学習の設定は記憶機能やチャットの削除とは別だと説明されています。ただし、学習利用をオフにしていても、回答への評価などのフィードバックを送ると、その会話全体が学習に使われる場合があります(OpenAIヘルプ:Data controls in ChatGPT、2026年10月29日に閲覧)。同じ記事に、Business/Enterpriseのワークスペースでは個人向けのようなセルフサービスのデータ書き出しができないとの記載もあります。プランで機能が違う点に注意が必要です。
法人向けでは、たとえばGoogle Workspaceのプライバシーハブが、顧客データはCloud Data Processing Addendumの対象で、顧客の事前の許可や指示なしにモデルの学習に使わないと説明しています。保持期間は管理者設定で変わる旨の記載もあります(Generative AI in Google Workspace Privacy Hub、同日閲覧)。ClaudeのEnterpriseプランのサポートページには、保持期間を組織で設定する機能や、管理者が利用履歴を取得するためのCompliance APIが挙げられています(What is the Enterprise plan?、同日閲覧)。
ただし、これらはサービス側の取り扱い条件です。それが「あなたの会社のNDA」で許されるかは、別途確認が要ります。
ファイル種別ごとの可否判断表
次の表は、説明用の編集上の既定案です。法的な結論ではなく、自社の規程や契約が優先されます。
- 公開済みの自社資料(プレスリリース、公開規約)、既定の判断:可、条件・理由:秘密性がないため。個人情報の有無だけ確認
- 自社のみの社外秘(NDAが絡まない社内資料)、既定の判断:承認済みの法人向け環境で可、条件・理由:個人向けの無料版は避け、社内ルールに従う
- 自社作成の契約書ドラフト(相手方名・金額を伏せたもの)、既定の判断:条件付きで可、条件・理由:マスキング後。相手方が特定できないこと
- 締結済みの契約書・NDA本体、既定の判断:原則、確認後、条件・理由:契約条件や相手先名が秘密扱いの場合がある。マスキングか許可を
- 取引先が開示した仕様書・提案書・見積、既定の判断:確認まで不可、条件・理由:NDAの「開示先の制限」「目的外使用の禁止」に触れ得る
- 取引先の顧客リスト、図面、ソースコード、既定の判断:不可(書面の許可が出るまで)、条件・理由:価値が高く、漏えい時の影響が大きい
- 個人情報を含む名簿・履歴書・問い合わせログ、既定の判断:別基準で判断、条件・理由:NDAとは別に、個人情報保護法上の整理が必要
- 由来や範囲が不明なファイル、既定の判断:不可、条件・理由:判断できないものは入れない
個人情報については、個人情報保護委員会が2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を出しています。個人情報取扱事業者が本人の同意なく個人データを入力し、応答の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。入力前に、提供事業者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認する必要があります。
NDAで確認する5つの条文と、迷ったときの進め方
契約書を開いたら、次の5点を探します。AIに探させてもよいのですが、契約書自体の入力が問題になるため、先にマスキングするか、社内で承認された環境を使います。
- 秘密情報の定義:口頭や記録媒体も含むか、「秘密」と表示したものに限るか
- 開示先の制限:役員・従業員、委託先、「業務上必要な者」などの範囲。AI事業者がここに含まれるか
- 目的外使用の禁止:契約の目的(たとえば取引の検討)に、AIによる要約や翻訳が入るか
- 再委託・クラウド利用の条項:外部サービスの利用に事前承諾が要るか
- 返還・廃棄の義務:終了時に消去を求められたとき、AI側の履歴や保存データをどう扱うか
どの条文にも明確な記載がなければ「許可されている」とは言い切れません。その場合は、次の依頼文で取引先に確認します。
取引先に確認する依頼文例(そのまま使える)
説明用の例です。社名・案件名は置き換えてください。
件名:【確認のお願い】秘密情報の取扱い(生成AIサービスの利用について)○○株式会社 ご担当者様いつもお世話になっております。□□株式会社の△△です。貴社と当社が○年○月○日に締結した秘密保持契約に基づき、貴社からお預かりしている「(資料名)」の取扱いについてご確認させてください。当社では、資料の要約・翻訳・条項の抜き出しの補助として、以下の条件の生成AIサービスの利用を検討しています。- サービス:(サービス名・プラン名)- 利用範囲:当社内で本案件を担当する者のみ- 学習への利用:(提供元の規約に基づく記載。例:入力内容をモデル学習に使わない設定)- 保存:(保持期間、削除方法)- 入力する内容:(原文のまま/社名・金額等を伏せたもの)上記の利用が、契約上の秘密情報の取扱いとして差し支えないか、ご回答をお願いいたします。差し支えがある場合は、利用しない運用といたします。回答のないうちは、該当資料を生成AIサービスに入力いたしません。△△(部署・連絡先)
ポイントは、「やりたいこと」をサービス名・範囲・保存まで具体的に書くことと、「回答前は入力しない」と明記することです。相手が判断しやすくなり、社内でも運用の根拠になります。回答は、メールで残る形にしておくと後で確認できます。
許可が出ない・待てないときのマスキング入力例
AIに任せたいのが「条項の構造チェック」や「文章の整理」なら、固有情報を置き換えた文面でも目的は果たせることがあります。人が確認する部分は、置き換え漏れと、AIの回答を元の契約に戻したときの整合です。
説明用の例(架空の条項):
【元の文】
株式会社アオバ工業(以下「甲」)は、乙に対し、型番AX-900の設計図面を開示し、
乙は本件を甲の事前の書面承諾なく第三者に開示してはならない。
【置き換え後】
A社(以下「甲」)は、B社に対し、製品Xの設計資料を開示し、
B社は本件を甲の事前の書面承諾なく第三者に開示してはならない。AIには「この条項の開示制限の範囲で、あいまいな表現を挙げてください」のように頼みます。置き換えるのは、社名、製品名・型番、金額、日付、担当者名、住所です。ただし、文脈から取引先が推測できる場合は、置き換えても秘密情報のままです。マスキングも万能ではありません。
最後に、この判断表を使う前に、自社の情報管理規程と、利用予定のAIサービスの契約形態(個人契約か法人契約か)を確認してください。個人アカウントで預かり資料を扱うことは、避けるのが無難です。

